日比谷線THライナー登場、指定席の需要あるか

東武線と東京メトロ日比谷線を直通する座席指定制列車「THライナー」に使われる東武鉄道70090型電車(写真:東武鉄道)

東武鉄道と東京メトロは、6月6日のダイヤ改正で座席指定制有料列車「THライナー」の運行を開始する。THライナーという名称には「TOBU(東武線)」と「HIBIYA(日比谷線)」を結ぶ列車という意味に加え、「TOKYO(東京都心)」と「HOME(自宅)」をつなぐ列車、という意味が込められている。

平日の上り列車は朝ラッシュ時間帯のピークを避けて、伊勢崎線久喜駅を6時12分に出発する「2号」と、8時13分に出発する「4号」の2本が設定される。夕・夜間ラッシュ時間帯の下り列車は日比谷線霞ケ関駅を18時02分に出発する「1号」から22時02分に出発する「9号」まで、毎時1本(計5本)が設定される。土休日も運転時刻を変更し、同本数が運行される。

平日に運行する地下鉄直通の座席指定制列車は、東京メトロと小田急電鉄が運行する千代田線直通の特急「ロマンスカー」と、東京メトロと西武鉄道が運行する有楽町線直通の「S-TRAIN」に次いで3例目だ。

日比谷線直通では初の急行運転

注目はその停車駅だ。「THライナー」は久喜、東武動物公園、春日部、せんげん台、新越谷に停車し、東武線と東京メトロ線の境界駅である北千住は乗務員の交替のためだけに停車し、客扱いは行わない。地下鉄線内は上野、秋葉原、茅場町、銀座、霞ケ関だけ停車し、それ以外の駅は通過する(上り列車は霞ケ関―恵比寿間は普通列車扱いで運行)。1962年に始まる東武と日比谷線の相互直通運転史上、初めて急行運転を行う定期列車となる。

もっとも、日比谷線内と東武線内で急行運転の位置づけはまったく異なっている。日比谷線内には先行列車を追い抜くことができる待避線が存在しないため、速達性への寄与は限定的だ。むしろ停車駅を絞り込むことで、停車駅での乗降時間を稼ぐとともに、少しでも後続列車への影響を少なくするのがその目的だ。

一方、東武線内では本格的な急行運転を実施する。東武鉄道は北千住―北越谷間を複々線化しており、内側の線路2本を各駅停車、外側の線路2本を急行列車が使用している。

これまで日比谷線直通列車はすべて各駅停車用の線路を走行していたが、東武鉄道は「THライナー」運行開始に合わせて、西新井―梅島間に内側の線路と外側の線路を移動できるポイントを新設し、日比谷線直通列車が急行用の線路を利用できるようにしたのである。ここからも東武鉄道の、この列車への期待の高さがうかがえる。

近年、首都圏の私鉄各社で「THライナー」のような座席指定列車の導入が相次いでいる。もともと有料特急列車を運行している東武鉄道、西武鉄道、小田急電鉄、京成電鉄は、朝ラッシュ時間帯の上り方面と夕夜間の下り方面に通勤向けの特急列車を運行していたが、こうした特急車両を持たない路線でも着席通勤のニーズに応えた座席指定制列車を相次いで導入している。

たとえば2017年3月に西武鉄道は池袋線と地下鉄有楽町線を直通する座席指定列車「S-TRAIN」の運行を開始。2018年3月には、同じく西武鉄道が西武新宿線・拝島線直通「拝島ライナー」を、京王電鉄が京王本線と京王相模原線に「京王ライナー」を、同年10月に東急電鉄が大井町線の一部急行列車に座席指定車両「Qシート」を連結して運行を開始した。

「通勤特急」専用車では採算取れず

こうした列車が相次いで導入される背景には今後、沿線人口が大きく増える見込みがない中で、新たな収入源を確保しようという狙いがある。とはいえ、専用の車両を用意して座席指定制列車を新たに始めても通勤特急だけでは到底、採算を取ることはできない。

たとえば、片道1時間程度の路線に、10両編成(定員500人)の着席列車を1日10本走らせるとすると、必要な編成数は予備を含めて5本。車両1編成が20億円とすると、100億円もの投資が必要だ。

乗客は定期券利用者がほとんどなので運賃収入は期待できない。1人あたり500円のライナー料金を収受するとして、平均乗車率が80%で1日あたり200万円、これを1カ月の平日20日間、1年間運行して5億円の収入になる。これでは20年かけて車両製造費を回収するのがやっとで、実際には券売機の設置や指定席発売システムの構築などさらなる投資が必要になるため、ビジネスとしては成り立たない。

小田急や東武の有料特急にとって、「本業」はあくまでも日中時間帯の輸送である。観光やビジネスニーズの少ない朝や夕・夜間に走らせる通勤特急は、特急車両にとっては割のいい「副業」であり、だからこそ成り立つ商売だった。

この構図を塗り替えたのが、東武鉄道が2008年から東上線で運行を開始した「TJライナー」であった。

「TJライナー」は座席をロングシートからクロスシートに転換可能な車両を用いることで、日中は普通列車として運行し、朝・夕夜間は着席列車として運行することを可能にした。これにより、着席列車を設定するために必要なコストは、通常の車両と座席転換型車両の差額で済むようになったというわけだ。

「THライナー」用車両の70090型は、クロスシート(上)とロングシート(下)の両方に転換できる座席を備える(写真:東武鉄道)

地下鉄と相互直通運転を行うには、車体サイズ、信号形式、安全設備など、地下鉄の規格に沿った専用設計の車両を用意する必要があるが、そのためだけに車両を新造しては採算を取ることができない。そこでここでも、ひとつの車両に複数の役割を持たせることで、地下鉄直通の座席指定列車という特殊な運用を実現している。

たとえば小田急のロマンスカー「60000形」 MSEは、本線での運用に加え、地下鉄直通とJR御殿場線直通の3つの役割を担っている。西武鉄道が「S-TRAIN」で使用している「40000系」は地下鉄直通車両に座席転換シートを組み合わせた車両で、普通列車としても、座席指定制のライナー列車としても使用することができる。

「THライナー」も、日比谷線直通車両の「70000系」をベースに座席転換シートを設置した新型車両「70090型」を新たに製造することで、この問題をクリアしている。

「着席通勤」コロナ後はさらに注目?

ちなみに西武鉄道の新型特急車両「001系」や京王ライナー用の「5000系」も地下鉄直通に対応した設備を備えており、将来的な地下鉄直通運転も見据えた構造としている。東武鉄道も中期経営計画で地下鉄直通対応型の新型特急車両の製造を発表しており、特急車両やライナー車両の「副業」として、地下鉄直通運用が一般的になる日も遠くないだろう。

コロナ後の鉄道事業は、まだまったく見通しが立たない状況にあるが、ひとつだけ確かなのは、利用者の満員電車に対する感覚が変わるだろうということだ。テレワークの普及や、時差出勤の拡大など、ピーク分散が進む一方で、通勤そのものの頻度を減らそうという動きもあり、鉄道事業の大きな転換点となりそうだ。

とはいえ、その中でも通勤をせざるをえない人は確実に存在する。そうした人々の座席指定列車に対するニーズが大きくなるのは間違いない。減収が必至な鉄道事業者も、ますます座席指定列車の増収に期待していくことになるだろう。そうした意味で、新たな時代に登場する「THライナー」の動向は、今後の通勤輸送の変化の先駆けになるかもしれない。

ジャンルで探す