銀行がコロナ危機の対応でしてはいけない思考

金融庁の遠藤長官は「金融機関はかなり積極的に資金繰り支援を進めている」と述べた。写真は2019年(撮影:梅谷秀司)
新型コロナウイルスの感染拡大によって事業環境が激変し、企業の資金繰りは急速に悪化している。特別貸付を行う日本政策金融公庫には申し込みが引きも切らない。
企業倒産の拡大を防ぐため、金融機関には資金繰りに対するさまざまな支援が求めらている。先行きが不透明な中で金融機関はどんな対応をすべきなのか。金融庁の遠藤俊英長官に聞いた。

――金融庁が資金繰り支援の要請を出してから、1カ月余りが経過しました。金融機関の取り組みについてどう見ていますか。

3月6日に麻生太郎財務大臣からの談話という形で、返済猶予などの条件変更に柔軟に対応するように要請した。金融機関の貸出条件変更の実施状況を毎月報告してもらい、金融庁が集計する中小企業金融円滑化法と同じような仕組みを用いることも伝えている。

1回目の集計は2020年3月末の数字だが、要請から1カ月足らずということもあり、「審査中」の案件が多かった。ただ、審査中の中身は「おそらく条件変更をする」というものが多い。審査中の数字を除いて、実行と謝絶の合計で見ると、中小企業に対する資金繰り支援の実行割合は99%を超えている。住宅ローンの返済猶予についても95%近い。

双方を合わせても借り手からの条件変更要請に90%以上応じているというのが現在の状況だ。金融機関は資金繰り支援をかなり積極的に進めている。

企業は「事例集」を活用してほしい

数字だけでなく、個別の対応もヒアリングしている。他の金融機関にも参考になる取り組みは事例集として3月27日と4月20日に公表した。金融機関には、これを見て自分のところでも取り入れてほしい。企業側もぜひ、この事例集をメインバンクに持って行き、「他の金融機関ではこう対応しているから、お願いします」と(融資の)交渉に使ってほしい。

――中小企業融資の条件変更に応じた割合が99%となると、経営に問題を抱えて再生の可能性がなかった企業も支えることになりませんか?

時間軸を見ながら対応すべきことだと思う。「今はまず、3カ月の条件変更をしましょう。ただ、今後どうしていくかは猶予した3カ月のなかでじっくり話しましょう」と。

すでに取引のある企業であれば、これまでさまざまな交渉をしてきたはずだ。抱えていた課題が顕在化した企業に対してこの後どうするのかという問題は、引き続きさらに徹底的に議論しましょうという話になると思う。そこは、これからだ。

――つまり、3月末時点ではすべてを支える対応で問題ないと。

それしかないと思う。今の時点で時間をかけて選別していては、本来だったら潰してはいけないところまで潰れて、後手後手に回ってしまう。それはまずい。

――資金繰り支援には融資も必要ですが、日本政策金融公庫(日本公庫)や信用保証協会に申し込みが殺到し、融資の実行までに時間がかかっています。

各金融機関は特別融資商品を提供している。通常より金利も低いし、審査も短いが、借り手はどうしても無利子・無担保で借りられる日本公庫に行ってしまう。

そこでまず、日本公庫と民間金融機関の協力関係を作った。日本公庫の窓口は逼迫しているので、民間金融機関に来てもらい、書類を整えて、日本公庫に渡す。今はさらにもう一つレベルを上げて、民間金融機関がつなぎ融資をして、あとから日本公庫に借り換えるという仕組みを作っている。

今後、民間金融機関が使える無利子無担保融資が実現するが、融資が実際に行われるまでには若干時間がかかる。近い将来には、民間銀行が実行したつなぎ融資を自らが提供する無利子・無担保融資に切り替えるということもできる。

今、儲けようという話はありえない

――しかし、民間の銀行からは「つなぎ融資は金利が低く、事務コストばかりかかって儲からない」という声も聞こえてきます。

この局面で、儲けようという話はありえない。今は地域企業、経済を支え、新型コロナウイルスを乗り切る。地域企業や経済が復活すれば、地元の金融機関も将来の安定的な収益を確保できる。平時のようにどう儲けるかという話ではないと思う。

そもそも、「儲かる」という意識が先に出たら儲からないですよ。地域の企業や経済を活性化して初めて金融機関に安定的な収益が入る。そういう循環を作るべきだ。

これまで地域金融機関と対話をしてきて、彼らもそれをわかったうえで(融資を)実行すると言っている。今回は、それが短期間に凝縮してやって来てしまっただけ。やるべき方向性は変わっていない。

――金融機関によって取引先の規模も異なります。危機モードにおけるそれぞれの金融機関の役割をどう考えていますか。

普段のメイン先を中心として、漏れのないように対応しなければならない。

例えば信用金庫や信用組合では融資をつけるだけでなくて、昼食はすべてそのお店でとるとか、顧客同士を結びつけて顧客の製品を売るという取り組みをしているところがある。顧客と同じ側に立ってサポートしようとしているのが伝わってくる。金融機関のサイズによって顧客企業のサイズも異なるし、それに合わせた対応がある。

金融機関同士の連携も必要だ。例えば京都では、ある銀行に顧客が偏ったときに、他の金融機関が連携して助けるということをやっている。先ほど言ったように、今は個別に儲けを競っている場合じゃない。業態を超えて連携して、地域を支える局面だ。

――金融機関の経営は横並び意識が強い。そのために今後、どの地方銀行でも再生する可能性のない企業を延命したり、一斉に金融支援を止めて倒産が急増したりするリスクはありませんか。

なぜ金融機関が横並びになっていたかといえば、金融庁への対応があったからだ。今は金融機関こそ地域のメインプレーヤーであり、自分の裁量や判断で活動してくれとお願いしている。金融行政の悪い意味での押さえつけがなくなれば、向き合う先は金融庁ではなく、地域企業になるはずだ。

上から押さえつけられてしまう状況なら(ほかとは違う特別なことは)考えたくない。しかし、「自分で考えて好きなようにやってください」と言われたら考えますよ。それが本来の姿だと思う。今はそういう力が発揮される場面だ。

(2019年末に)金融検査マニュアルを廃止して、横一列の債務者区分のような、われわれが決めたルールは無くなった。貸したいけれど引き当てを積む必要があるから貸せない、という矛盾も生じない。われわれはきちんとヒアリングをしているので、横並び的でおかしな動きが出てくれば注意喚起していく。

――この環境が続けば、与信費用が膨らみ金融機関の経営体力も低下していきます。コロナの影響が長引いた場合、金融庁は何を注視しますか。

状況を見ながら対応するしかない。今は火事場の中で金融機関が頑張られている。それが長引いて疲れてきた時にどういう状況になっていくのかは、われわれもきめ細かく話を聞く。金融機関だけでなく、地域の企業や経済がどうなっているかということも知る必要がある。

今の問題は資金繰りだ。企業がこの資金繰りをなんとか乗り切ったとしても、いつ返せるかわからないし、商売をどう立て直すかという問題が待っている。金融機関が言ってきた事業性評価や、リレーションシップバンキングの実力が試される局面だと思う。

――経営が厳しい地銀が増えてくる可能性があります。再編などの話も出てくるのでしょうか。

再編論ありきではない。地域金融機関はストック商売なので、コロナの影響で直ちに経営悪化ということにはならないだろう。

地域金融機関が金融危機の時に倒れるのは(預金の取り付け騒ぎなどで)資金繰りがショートするからだ。今は金融危機ではないから、金融機関として金融の仲介機能を存分に発揮してもらいたい。

ただ、全体の経済が落ち着いてきたときには、金融庁のミッションとして金融機関の健全性を見ていく。

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