小学校「再開」でも現場はまるで油断できない訳

政府は全国一斉休校を解除する方針だが、感染拡大地域は休校が長期化する可能性がある(デザイン:杉山 未記、写真:佐藤 良平/アフロ)

「全国すべての小学校、中学校、高校、特別支援学校について、3月2日から春休みまで、臨時休業を行うよう要請する」

2月27日に政府の新型コロナウイルス感染症対策本部の席上で安倍晋三首相が述べた言葉だ。夕方に突如発表されたこともあり、学校現場は混乱を極めた。春休みまで休校するということは、翌28日の金曜日が事実上「最後の登校日」となることを意味するからだ。提出物を急いで返却したり、急きょ修了式を行ったりした学校もある。「友達に会えなくなる」「もうこの学校に行けなくなる」とショックを受けた児童も多かった。

『週刊東洋経済』4月6日発売号は「小学校 子どもが幸せになる選び方」を特集。4月から始まる新学習指導要領によってどう学校現場が変わるのかや、自治体ごとの教育力の差などについて分析している。

大混乱に陥った「全国一斉休校要請」

一斉休校の間、家で子どもの面倒を見るために仕事を休んだり、在宅勤務をしたりといった対応を迫られる保護者も少なくなかった。

放課後に子どもを預かる学童保育も対応に追われた。夏休みのように朝から学童保育を開く態勢に切り替えるため、「最初の1週間は人員の手配で大わらわだった」(学童保育の委託事業を担う法人の担当者)という。

大勢の人が体育館などに集まると新型コロナウイルスの感染拡大につながるため、卒業式も異例の形が取られた。多くの学校は、座席の間隔を空け、最低限の人数で短時間の式を行った。中には教室で開催したり、入場できない保護者のために動画をライブ配信したりする学校もあった。

政府は全国一斉の休校要請については、4月の春休み明けから解除する。3月19日の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議で、「感染拡大が収まっている地域では要請を徐々に解除する余地がある」との提言が出されたからだ。感染者が確認されていない地域の中には、学校を再開させるところもあった。

しかし、再開できたとしても新型コロナウイルスへの対応で学校活動が制約されるのは間違いない。それに備えて文部科学省が3月24日に「学校再開ガイドライン」を発表。しかしこれが現場を困惑させている。

登校前の検温や風邪症状の確認、手洗い・せきエチケットの徹底、換気を行い密閉・密集・密接を回避する取り組みなどを求めているが、首都圏のある公立小学校の校長は、「密集を避けろというが、40人を教室に集めるだけですでに密集となる。ガイドラインは矛盾が多く不可能に近い」とこぼす。

「マスク装着の指導」もそうだ。そもそも入手が困難で、マスクなしの児童が続出するだろう。苦肉の策として文科省などが「手作りマスクの作り方」を紹介する事態になっている。その後、政府がすべての小・中学生に布製のマスクを配布するとの方針を示したが、洗わずに使い続ければ衛生面で懸念が生じるといった声が出ている。そもそもいつ配布されるかはっきりしないという問題もある。

学校が3月初めから休校になったことで、学習に遅れが生じている点も課題だ。4月からは前学年の授業の補習を行う学校が多く「教科書は捨てないで」と呼びかけていた。学習指導要領改訂に伴う授業をスタートさせたかったが、始まるのは少し遅れそうだ。

学校行事の中止は避けられない状況

通常の教室外の授業運営も難しい。とくに、合唱など大声を出す音楽や、密集する活動が多くなる体育はその典型例だろう。「体育の授業はどうしたら可能になるか、教員と試行錯誤しながら検討を重ねている」(前出の校長)。

運動会や学習発表会、遠足などの学校行事にも影響が出る。すでに千葉県松戸市は、感染拡大の防止と学習時間確保のために、市内小中学校の運動会や林間学校などの開催中止を決定。こうした判断をする自治体や学校が今後は多く現れるものと思われる。

なお同市は修学旅行についても「延期を含め検討」するとしているが、これは文科省のガイドラインが、「児童生徒の心情等に配慮し延期扱いにする配慮を」と求めているからだ。ただバスや鉄道で大勢が移動する修学旅行を実施できるかには疑問が残る。

また、私立小学校の学校関係者からは「学校説明会を開催できるかわからない」という声も聞かれる。さらに、文科省は毎年4月に小学6年生と中学3年生を対象に行っている「全国学力・学習状況調査」の中止を発表。2020年度中に実施するかも含め今後は未定だ。

一方、感染拡大が続く地域では、休校が長引く恐れがある。3月19日の専門家会議では、「感染状況が拡大傾向にある地域では、一定期間、学校を休校にすることも1つの選択肢」と提言、同28日の首相の会見でも、「再開に当たってはもう一度専門家会合を開き意見を伺う」と述べた。

そして4月1日に開かれた新型コロナウイルス感染症対策専門家会議では、「現時点の知見では、子どもは地域において感染拡大の役割をほとんど果たしてはいないと考えられる。学校については、地域や生活圏ごとのまん延の状況を踏まえていくことが重要である」としている。そして、新規感染者数の拡大傾向が続く「感染拡大警戒地域」については、「学校の一斉臨時休業も選択肢として検討すべきである」と提言している。

文部科学省は、同日に臨時休校に関するガイドラインを発表し、学校内で感染者が複数出た場合や感染拡大警戒地域などの休校措置の考え方を示し、中には「臨時休校の基準」をホームページ上に公表する自治体もある。

そして感染拡大が続く東京圏や、関西圏、福岡圏などの都市部の自治体を中心に休校措置の継続を決定している。休校期間は、4月17日までの2週間か、ゴールデンウィーク明けまでとするところが多い。

オンライン学習推進も導入のハードルは高い

感染拡大防止策を講じたうえで、入学式や始業式だけ行う学校や、登校日を設ける学校、分散登校や時差登校を実施するところもある。いずれにせよ休校は設置者の自治体の判断となり、具体的な防止策は、学校現場の取り組みに委ねられる。

一方、最悪のシナリオは、感染が爆発的に拡大し、休校が長期間に及ぶことだろう。感染者が急増しているフランスでは、新年度が始まる9月までの休校が検討されている。日本でも半年以上授業が行えないという可能性はゼロではない。

「日本では学校のデジタル化が遅れており、オンライン授業の体制も整っていない。何もできないのではないか」(前出の校長)。ただ、政府は、新型コロナウイルス感染症への緊急経済対策のひとつに「遠隔教育などICT(情報通信技術)等の活用」を掲げている。すでに一部の自治体では、オンラインによる授業や学習の実施を検討しているところもある。

萩生田光一文部科学大臣は記者会見で、「コロナ長期化に備えICT活用をした家庭での学習支援の環境を整備していきたい」と語り、すべて平等に同じ環境を整えられなくても「できることをすぐにやっていきたい」と表明した。しかし、学校ごとや家庭ごとにインターネットや端末などの環境は異なっており、一気に導入を進めていくのは容易ではないだろう。

休校している学校とそうでない学校の児童の間で、学習習熟度に差が生まれるのではないかという指摘もある。感染拡大終息の気配が見えない中、教師、児童、保護者とも不安に満ちた新学期となりそうだ。

『週刊東洋経済』4月11日号(4月6日発売)の特集は「小学校 子どもが幸せになる選び方」です。

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