保険適用でも気軽に使えない「PCR検査」の実態

PCR検査のキャパシティは徐々に増えている(写真:jxfzsy/iStock)

新型コロナウイルスの感染の有無を調べる、PCR検査の保険適用が3月6日から始まった。通常、保険適用になるには薬事承認などの手続きを経なければならないが、医師会等からの要請を受けて緊急に決まったもの。

PCR検査は、遺伝子を早く大幅に増幅させ、目的の遺伝子の有無を調べる検査。新型コロナウイルスは新興感染症のため、これまでは厚生労働省の主導のもと、各自治体の保健当局が行う行政検査として行われてきた。

帰国者・接触者外来の医師から保健所に連絡、保健所から検査担当者が派遣されて、患者から検体を採取し、国立感染症研究所から指定された検査方法を使って検査を行っていた。このため、全国でも検査能力が1日3800件程度と、感染の広がりに対して十分でなく、地域によっては保健所から検査を拒否されることもあったという。

日本医師会によると、3月4日午後までに全国7都道府県で30件ほどの拒否の報告が上がっている。大半は理由は不明とされるが、「重症ではない」「濃厚接触がない」「地域検査所の能力不足」などを理由として挙げている案件があった。

検査キャパは確実に増えている

保険適用になったことから、行政検査では縛りとなっていた渡航歴や濃厚接触などの条件がなくなり、帰国者・接触者外来など設備の整った医療機関で、医師が必要だと思えば保健所を通さずに検査を行うことができる。検体は自治体から委託を受けた医療機関か登録衛生検査所に送られるが、公立、民間合わせて検査件数は相当数増やせる見込みだ。

臨床検査大手のみらかホールディングス(証券コード4544)傘下のSRLでは2月12日から行政検査を受託していたが、3月5日時点で1日1100件の検査数をこなすキャパシティがあり、順次拡大していく。同様に行政検査を行ってきたLSIメディエンスBML(4694)、ファルコホールディングス(4671)のほか、トランスジェニック(2342)も子会社ジェネティックラボでの受託開始を決めている。検査キャパは確実に増えている。

とはいえ、検査を行う医療機関は全国800カ所ほどの帰国者・接触者外来に限られている。現状では、希望すれば誰でもかかりつけ医で検査を受けられるわけではない。

今行われているリアルタイムPCR検査は手順が複雑で技術的にも難しく、大量・短時間の検体処理には向いていない。指定医療機関で患者から痰や鼻・のどの奥に綿棒を突っこんで検体を採取し、マイナス80℃以下で保存して検査所に運搬。検査所では検体からウイルスの遺伝子を抽出(前処理)し、増幅させて解析する。

「前処理に2時間ほどかかるため、最終的にデータが取れるまで約6時間かかる」と検査所を持つ企業は説明する。採取、運搬にかかる時間、多数の検体が集まっている場合の順番待ちなどを考慮すると最短でも1日、通常数日はかかる。民間検査所には通常業務もあり、新型コロナウイルス検査だけにかかり切りになるわけにはいかない事情もある。また、こういった感染症ウイルスの検査にあたっては安全確保の観点からBSL-2(バイオセーフティレベル2)の施設と技術者の熟練が必須だ。

インフルエンザの迅速検査とは違う

検体を採取する医療者にもリスクがある。採取時に患者が咳き込んだりくしゃみをすると飛沫を浴びて感染してしまうため、防護服や採取場所の選定、採取後には部屋の消毒も必要だ。こうした施設や用具を用意できない医療機関では検体採取は行えない。かかりつけ医で鼻の奥で綿棒をぐりぐりしてから10分ほどで結果が出るインフルエンザの迅速検査とは違う。

しかも、これほどのリスクを冒す検査にもかかわらず、検査精度はそれほど高くない。ウイルス陽性の検出は20~60%程度ともいわれている。のどや鼻の奥で採取したときその部位にたまたまウイルスがいなければ陰性になるが、実は体内にいるということは少なからずある。

特に感染早期や軽症患者では、たとえウイルスを採取できたとしても少量すぎて検出レベルにまで増幅できず、陰性になることもある。こういった「偽陰性」患者が普段通りの生活をしていると、感染を広げてしまうリスクがある。逆に、感染していないにもかかわらず陽性反応が出てしまう「偽陽性」もありうる。

安倍晋三首相が簡易検査キットの開発を指示し、3月中をメドに簡易検査キットの開発が急ピッチで進められている。日水製薬(4550)では既存技術を用いたリアルタイムPCR検査機器とキットの販売を開始するし、栄研化学(4549)や医学生物学研究所(4557)では、それぞれ独自の遺伝子検出技術を使って新しい試薬開発に着手している。栄研化学は「検体から1時間以内に新型コロナウイルスを検出する」と意気込む。

「4日待て」ということではない

だが、東京都医師会の鳥居明理事は「PCR検査は必ずしも重要ではない」と明かす。臨床現場では、検査をするなら酸素飽和度を測るパルスオキシメーターという小型の経皮簡易測定器で十分、という指摘がある。

呼吸苦のある患者については、肺炎を疑い、動脈血の酸素飽和度を測る。そのために使われるのがパルスオキシメーターで、酸素飽和度が90以下であれば肺炎として治療を開始する。パルスオキシメーターは、内科クリニックであればほとんどの施設にあるという。

そもそもPCR検査は疾患を特定するだけであり、治療方針には影響がない。肝心の新型コロナウイルスに効く治療法や治療薬は、まだ特定されていないのが現状だ。

新型コロナであろうがほかの疾患であろうが、感染症対策は変わらない。

新型コロナも初期はかぜと同じような発熱と倦怠感、乾いた咳などの症状がある。軽症のうちは家で安静にし、家族にうつさないようにマスクをし換気をする。健康な成人で4日以上、高齢者や基礎疾患のある人は2日以上症状が続く場合はかかりつけ医に電話で相談し、必要なら帰国者・接触者外来にも相談する。

ただ気をつけたいのは、2日、4日という日数は制限ではないということ。日本医師会の釜萢敏常任理事は、「具合が非常に悪いのに4日待てということではない。普通なら4日もたてば軽快するのによくならないのであれば、積極的に連絡してほしい」と呼びかけている。

世界的な流行を受けて製薬会社の動きも活発だ。グローバル大手のアメリカのギリアド・サイエンシズが既存薬の新型コロナへの適応で治験を行っているし、グローバル感染症の治療薬開発に積極投資しているゲイツ財団でも、家庭で検査可能な簡易キットの開発を急ぐと報じられている。

国内勢も富士フイルムホールディングス(4901)傘下の富士フイルム富山化学がインフルエンザ薬アビガンの適応拡大治験を始めているし、3月4日には武田薬品工業(4502)が抗体医薬で治療薬開発に着手と発表、翌5日には大阪大学の森下竜一教授とアンジェス(4563)、タカラバイオ(4974)がDNAワクチンの開発着手を発表した。感染研や東大医科学研究所でも国の支援を受けてワクチン開発に取り組んでいる。

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