今季の「千葉ロッテ」にこそ期待ができる理由

キャンプイン後、初めてブルペンで投球練習するロッテの佐々木朗希(手前、岩手・大船渡高)。左奥は吉井理人投手コーチ=2月13日、沖縄県石垣市(写真:時事通信社)

この冬の「オフの主役」は千葉ロッテマリーンズだった。

「オフの主役」たらしめたのは、まず、球速163キロを投げたという超・高校級投手=佐々木朗希(大船渡高)をドラフト1位で獲得したことが大きい。

加えて、昨季の選手会長・鈴木大地がイーグルスにFAで移籍、涌井秀章もイーグルスに金銭トレード。逆に、イーグルス・美馬学とホークス・福田秀平をFAで獲得と、実に賑やかなオフシーズンだったこともある。

今回は、そんな「オフの主役」のマリーンズが、「オンの主役」になるかもしれない、ペナントレースにおいても注目すべきだという話をしたい。

一見、目立たないのだが、マリーンズ球団において、地道な経営改革が進んでいる。改革の成果が一気に表出するのが今季ではないかと、筆者は考えているのだ。

マリーンズも実現した球団経営改革

この数年で、最も大胆な経営改革を断行した球団が、横浜DeNAベイスターズであることに異論はなかろう。

最大の話題は、本拠地・横浜スタジアムの買収・子会社化(2016年)だが、スタンドの拡張も奏功して昨季、観客動員の伸長率で12球団中1位(12.6%増)になるという成功を収めた。

ベイスターズの経営改革については、この連載でも一度取り上げている(『DeNAベイスターズ躍進の原動力に意外な存在』2017年11月)。その中で紹介した前球団社長・池田純氏の言葉が興味深い――「まずは経営を健全化させ、その後にチームに投資し、経営とチームの好循環を生む」。

マリーンズの経営改革も、この「まずは経営を健全化」という考えに沿っている。株式会社千葉ロッテマリーンズの決算公告によれば、2018年に球団史上初の黒字に転換し、3億8500万円の純利益を計上、2019年は球団過去最高の観客動員数166万5891人を記録、『週刊ベースボール』2/3号によれば「8億円に迫る営業利益」を生み出したという。

井口資仁監督が指揮した2年間、順位は5位(2018年)、4位(2019年)とパッとせず、クライマックスシリーズ(CS)進出も逃しているのだが、その裏で、経営状態は劇的に好転していたのだ。

『週刊ベースボール』2/3号では、マリーンズの地道な営業努力を探っているのだが、それによると、みずほ銀行の支店長として好成績を上げ続けた山室晋也氏を、2014年に球団社長として招聘。その山室氏の下で、以下のような取り組みが行われたという。

・ファン満足度向上に向けた従業員への意識付け「おもてなしプロジェクト」。
・試合開催日以外における、本拠地・ZOZOマリンスタジアムでのイベント開催促進。
・球団公式キャラクター「謎の魚」の開発。
・「毎月、ファン感謝デーを開催する」という狙いの「マリンフェスタ」企画。
・年間6億5000万円(2018年)の放映権料獲得。

これら一つひとつは、それぞれ効果的な企画だと思うものの、逆に言えば、ファンや球界をあっと言わせるような斬新な企画でもない。ただ、このような地道な取り組みを、一歩一歩実現していくことで、利益を積み重ねていくのが、元エリート銀行員・山室晋也氏の本領だったのだろう(なお山室氏は2020年3月で退任し、サッカーJリーグの清水エスパルス社長に就任)。

利益追求の一環なのだろうか、『週刊ベースボール』同号によれば、今季の総年俸についても、マリーンズは12球団最低となっている(24億7590万円)。

ちなみに1位はホークスの65億2680万円で、マリーンズの2.6倍。ヤンキース・田中将大の今季年俸は25億3000万円で、マリーンズ1球団分をたった1人で上回ることになる。

しかし、それでも今季のマリーンズに期待できるのは、「年俸総額が低い→野球のスケールが小さい」という図式に陥る感じがしないからである。

ベイスターズやファイターズとはどう違うのか

この連載では、ベイスターズに加えて、もう1球団、ファイターズの編成戦略のことを取り上げている(『大谷翔平はいかにしてメジャーに飛翔したか』2018年5月)。そこで筆者は「どんな事情があれど、空気を読まずに、ナンバー1の選手を敢然と指名する」というファイターズの編成コンセプトを紹介した。

その結果が、ダルビッシュ有(カブス)と大谷翔平(エンゼルス)という、21世紀の球界を代表する2人の超・高校級プレーヤーの単独(!)ドラフト指名なのだが、ここ数年のマリーンズのドラフトも同じく、超・高校級プレーヤーを果敢に1位指名している。以下が、この5年間のマリーンズ・ドラフト1位指名リストである。

2015年:平沢大河(仙台育英高)
2016年:佐々木千隼(桜美林大)
2017年:安田尚憲(履正社高)
2018年:藤原恭大(大阪桐蔭高)
2019年:佐々木朗希(大船渡高)

2016年のみ大学卒の投手=佐々木千隼を指名しているが、それ以外はすべて高校卒である。また、その高校卒の中で、佐々木朗希以外が野手であることにも驚く。

というのは、それ以前の5年間の1位指名が、伊志嶺翔大(東海大・野手)、藤岡貴裕(東洋大・投手)、松永昂大(大阪ガス・投手)、石川歩(東京ガス・投手)、中村奨吾(早稲田大・野手)と、高校卒を完全に回避していて、そのうえ3人が投手という「即戦力・投手」志向だったからである。

マリーンズが目指すのは、西川遥輝や近藤健介、大田泰示、渡邉諒、中島卓也など、20代の高校卒野手が中心となって躍動する、ファイターズのようなチームなのだろう(すでにベテランのようなオーラを発散している中田翔ですら、高校卒のまだ30歳だ)。

高額年俸となりがちなFA選手や外国人の獲得に頼るのではなく、若い選手を丁寧に育成して、年俸を抑制しながらチーム力を強化する。これも言ってみれば、まったくけれん味のない、地道な戦略なのだが、マリーンズはその方向に、完全にかじを切ったように見える。

また高校卒は、大学・社会人経由に比べて、モノになったときのスケールが大きい。先のダルビッシュ有、大谷翔平に加えて、田中将大、松坂大輔、松井秀喜、イチローという、メジャーでも活躍した(している)「超・日本級プレーヤー」はみんな高校卒なのである。

投手陣に目を移しても、二木康太(鹿児島情報高、24歳)、種市篤暉(八戸工大第一高、21歳)、岩下大輝(星稜高、23歳)など、活きのいい高校卒の若者が揃い始めている。

そして今季、この若者たちに、あの佐々木朗希が加わるのだ。すでにチームの要となっている捕手=田村龍弘(光星学院高、25歳)と彼らとの活きのいいバッテリーが、今季のマリーンズを盛り上げていくのではないか。

以上、地道な経営改革を断行しながら、超・高校級プレーヤーを中心したスケールの大きな野球を志向する、マリーンズの大きな変化を分かっていただけただろうか。

平安藤原時代の監督に必要なこと

一部のマリーンズ・ファンは「平安藤原時代」という言い方をする。

「平」沢大河、「安」田尚憲、「藤原」恭大という、ここ数年の高校卒ドラフト1位が揃って活躍するさまを期待した表現である。

一塁:井上晴哉、二塁:中村奨吾、三塁:レアード、遊撃:藤岡裕大、左翼:角中勝也、中堅:荻野貴司、右翼:マーティン――投手、捕手、DH以外の今季スターティングメンバーを穏当に考えてみると、日本人の高校卒選手は不在となる(角中を独立リーグ出身とカウント)。そのうえ、井上、レアード、角中、荻野、マーティンは30歳代である。

目の前の勝利だけにこだわらず、平沢大河、安田尚憲、藤原恭大を抜擢すること、抜擢し続けること。そんな長期的視野に立った采配が、井口資仁監督には期待される。経営戦略と商品戦略は連動してこそ意味があるのだ。

「泣くよ(794年)ウグイス平安京」から「いい国(1192年)作ろう鎌倉幕府」まで、実際の平安(藤原)時代は、江戸徳川時代を超える約400年の長きにわたった。摂政ならぬ監督に必要なのは、長期的視野に立った抜擢と考える。

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