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なんとなく使う「事実と真実」の正しい使い分け

(左)応用言語学者のアン・クレシーニさんと(右)元NHKアナウンサーの宮本隆治氏。「真っ先に外国語学習」という考え方にアンさんが待ったをかける理由とは(写真:草野裕司撮影)
訪日の外国人旅行者数(インバウンド)は、東京でのオリンピック開催が決定した2013年から急増し、増加の一途。観光地だけでなく各地に外国人が行き交う姿はもはや日常です。小学校での英語学習も始まりましたが、応用言語学者であり、北九州市立大学で大学生に英語を教えているアン・クレシーニさんは「真っ先に外国語学習」という考え方には「ちょっと待った!」とのこと。その理由を聞いてみました。

まずはしっかり「母国語」を

アン:アンちゃんは普段、大学の授業で学生たちにいろいろな課題を出すけど、あるとき気づいた。彼らは「英語で答えられない」のではなくて、「日本語でもその答えを持っていない」と。プレゼンテーションの授業があって、プレゼンの仕方を教えても、そもそも意見がない。意見がないから英語にできるはずもない。

宮本:まずは母国語をしっかり学んでから、外国語を。アンちゃんはそんな考えなのですね。

アン:そう。当たり前だけど、日本語でできないことは英語でもできない。母国語で考え抜く力、表現する力がベースだと思う。英語の授業は、日本語をまったく使わないスタイルもあるけど、私はまず日本語で課題をきちんと理解してもらうことを重視してる。

日本語以外にこれまでフランス語、中国語、韓国語も学んだけど、ほかの言語に比べて、日本語は圧倒的に多様で奥深いと思う。だから、この本(『教えて!宮本さん 日本人が無意識に使う日本語が不思議すぎる!』)で楽しく学んでほしいね。

「事実」と「真実」の違いって何? (イラスト:なとみみわ)

アン:宮本さん、この間友達と話していてふと思った。真実と事実って同じ意味だと思っていたけど違うと!?

宮本:真実と事実。面白いところに目をつけましたね。日頃よく使う言葉ですが、真実と事実の違いを正しく説明できる日本人は多くないかもしれません。まず、この2つの単語に使われている漢字「実」の意味はわかりますか?

「真実」は人の数だけある!?

アン:実は……ってよく言うよね。だから、本当のところは、みたいな。

宮本:そうです。真実も事実も、うそ偽りのないことを指します。事実とは実際に起こったうそ偽りのない事柄のこと。でも、真実は事実に対する偽りのない解釈のことなのです。

アン:事実は誰が見ても変わらないけれど、真実は人によって変わるということ?

宮本:その解釈で間違いないと思います。使い方を見ていくとさらによくわかります。「事実」を使う言い回しは、

●事実をねじ曲げる
●事実が判明する
●周知の事実
●事実無根

となります。どれも、絶対的なものとして扱われているのがわかるでしょう? 一方、「真実」は、

●真実を打ち明ける
●真実を述べる
●真実を告白する
●真実味がある

となります。打ち明ける、述べる、語る、というように、人の口から語られる印象になるのがわかりますか。事実は実際に起きた事柄、真実はその事柄に対する解釈が入るということです。

事実には人が関与しないが、真実には人が関与する。面白いのは、だからこそ、事実には反論できませんが、真実には反論できるということです。

アン:真実は人の解釈だから「私はそうは思わんけど」って言ってもいい。

宮本:そうです。真実は、人の心の動きであり解釈ですから、人の数だけあります。

アン:例えば、日本で軟水を出された外国人にとって「これは水です」は事実。でも、自分の認識している水とは違っているから「私にとってこれは水ではない」は真実。そして、真実は人の解釈だから、アンちゃんが「これも水やけんね。それが真実なんよ」って反論してもいいってこと?

宮本:そうです(笑)。軟水と硬水で例を出してくるところが、アンちゃんらしいですね。ほかに、事実と真実という言葉がよく使われるのが刑事ドラマです。AさんがBさんを殺してしまったのは事実。もし犯人が「殺そうと思っていなかった」としたら、それは犯人にとっての真実です。

アン:殺したのは事実だから「殺してないかもしれんやん」って反論できないけど、殺そうと思っていなかったのは真実だから「本当は殺す気はあったやろ?」って反論できる! 面白い!

宮本:そう、真実は人の解釈。だから、事実は「明かす」、真実は「語る」と言うのです。

じゃあ、「真理」って何?

アン:真実や事実に似た言葉で、真理という単語もあるよね? 真実や事実とはどう違うの? アンちゃんの中では「真理」は、聖書の「わたしが道であり、真理であり、いのちなのです」の印象が強くて、キリスト教用語という認識なんだけど。

宮本:真理は、まことのことわり、と書きます。普遍的な理法、つまり絶対変わりようがないことを意味しています。「人が死ぬのは真理だ」と言うように。また、アンちゃんが言うように、宗教や物理用語として使われることが多くあります。

アン:では、宗教によって真理は変わってくるということか。

アンさんのトレードマークは上京のたびに原宿で買い足すという「日本語Tシャツ」(写真:アンさん提供)

宮本:仏教で言うところの真理の1つには、例えば「諸行無常」があげられるでしょうね。仏教用語で「現実の世界のあらゆる物事は、絶えず変化し続ける」という真理のことです。

アン:キリスト教では、神が子を愛しているのが真理。「あなたが神様を信じていなくても、神様があなたを愛しているのは絶対です」と言う。真理は反論できないから真実とは違うし、宗教によってその絶対が違うなら事実とも違う。だけど、その宗教を信じる人にとっては絶対本当っていうのはすごくわかる。

宮本:事実と真実は、過去に対する判断で、真理は宗教や物理の世界で永遠に変わらないものを指す、と考えるとわかりやすいかもしれません。

アン:真理は未来永劫、エターナル! 宮本さん、アンちゃんは今日も、日本語の美しさに感動した! これがアンちゃんにとっての真実よね!

「ザーザー」「しとしと」……どう違うの? (イラスト:なとみみわ)

知ってる? オノマトペの「ルール」

アン:日本人が当たり前のように話していて、外国人から見るとなかなか理解できないのが、オノマトペ。雨や風の度合いを、みんな普通にオノマトペで話すでしょう? 雨が「ザーザー」降るとか、ポツポツ降るとか、しとしと、とか。

宮本:音象徴語(おんしょうちょうご)ですね。これらにもルールはあるのをご存じですか。擬音語や擬態語のルールは、

●濁音=大きいもの、重いもの、鈍いもの、汚いものを表す
●半濁音=清音と濁音の間のものを表す
●清音=小さいもの、軽いもの、鋭いもの、美しいものを表す

というものです。ですが、日本人はわざわざそれについて意識して使ってはおらず、感覚で話しているでしょう。さて、アンちゃん、ザーザー、ポツポツ、しとしと、だと、雨の強い順に並べるとどうなると思いますか?

アン:濁音のザーザー、半濁音のポツポツ、清音のしとしと、ということかな。

宮本:正解です。これを意識するだけでも理解しやすくなります。日本語はほかの国の言語に比べて音象徴語、つまり音を大切にする語が3倍とも5倍とも言われています。

アン:この間、お腹が痛くて病院に行ったとき、お医者さんに「シクシク痛む? キリキリ痛む? ズキズキ痛む?」って聞かれて、その違いがわからずに困ったよ。日本人の親友に「日本人はなぜ、あんなにオノマトペでしゃべるん?」って聞いたら、「そのほうがわかりやすいから」って(笑)。アンちゃんには、余計わからんよ!

宮本:僕たちアナウンサーは、音象徴語ではあまり話しません。「先ほどまで小雨でしたが、雨足が少し強くなってきました」というように話します。同じように、ビジネスの場では、日本人も音象徴語で話すことはそう多くないでしょう。音象徴語は実は、日本最古の書物、『古事記』にも出てくるのです。神様が、日本列島を生み出すために矛をさしてかき混ぜるときに「こをろこをろ」と音を立てます。

アン:なんと! 日本の神様もオノマトペで話してたのか! もう、それは日本語の一部として、頑張って覚えないかんね。アンちゃんはこれからも、バンバン、ガンガン、ガッツリ、日本語を勉強するよ!

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