遺品整理のプロが見た悪質業者が跋扈する実態

実際の遺品整理の現場。多くの一般ゴミだけでなく廃棄物が発生する(写真:屋宜明彦さん提供)

遺品整理という言葉が定着して久しい。その名のとおり死者の遺品の回収や、財産の確認、時には死体跡の撤去や、清掃、原状回復まで行う業者も存在する。

現在、国内で登録されている遺品整理業者は1万を超えるとされる。一般社団法人「遺品整理士認定協会」によれば、加盟企業8000社の年間売上高の総計は5000億円を超え、今後5~10年の間に加盟社数は倍増する見込みだ。高齢化社会へとひた進む日本国内において、間違いなく需要増が見込まれている業態なのだ。

「遺品整理という概念が定着し始めたのはここ数年でしょうか。昔は回収業者や撤去業者という呼ばれ方もしましたが、メディアの影響もあり遺品整理と呼ぶことが一般的になってきました。とくにここ2~3年で認知が広まり依頼数は急増しています」

こう話すのは、兵庫県伊丹市に本社を置く、スリーマインド代表取締役の屋宜(やぎ)明彦さん(40)。屋宜さんは19年前から遺品整理の仕事をスタートし、2016年に独立。現在は関西を中心に年間450件を超える遺品整理依頼を受けている。遺品整理に限らず、家じまいや、相続手続き、終活の相談も請け負う屋宜さんは、業界の黎明期を知る人物だ。

孤独死現場の激増

近年の遺品整理では、孤独死による整理案件も増えている。一軒家で人知れず死んでいくケースを含め、マンションやアパート内での孤独死の後処理を希望する管理会社や不動産会社からの依頼も多い。

屋宜さんによれば、遺品整理一件あたりの単価は単純な整理、廃棄で20万円~40万円程度だという。2DK相当の部屋で平均して45リットルのゴミ袋120個の整理品が回収される。この数字だけでも、いかに多くの遺品が発生するかを理解できるだろう。

大量の整理品が回収される(写真:屋宜明彦さん提供)

「遺族がいる方にもいない方にも共通しているのが、重要書類や遺産のありかを知らないということ。みなさんも自分の親や兄弟などの遺産を把握していないですし、保管方法も人それぞれ。認知症の方となると、確認作業が複雑です。

私は通帳や印鑑、生命保険契約書、株に投資信託、不動産登記簿は生前に片付けをしておくことを推奨しています。絵画や骨董など、本人でないと価値がわからないものもあり、判断が難しいものもある。現場には質屋や不動産会社、廃棄業者など提携業者と共に来ることが大半ですね」

遺品整理の現場では、現金や眠っているお宝の山々が発掘される。屋宜さんはこの3年間で実に1億円以上の現金を確認してきたそうだ。

現場では現金が発見されることが多いそうだ(写真:屋宜明彦さん提供)

「タンス預金という言葉がありますが、ご高齢の方は現金でお金を保管していたい傾向があります。多い家では、1件で800万以上の現金を回収したこともありますね。

お金の隠し場所はなかなか素人の方には見つけにくい。遺族の方が発見するのは非常に困難です。

遺族の中には、遺品整理にお金を払うことに難色を示す方もいらっしゃいますが、実際に行ってみると、現金や思い出の品などが次々に出てきて、『把握できていないものばかりだった。依頼してよかった』とお声をいただくことも多いんです」

発見されるのはもちろん現金だけではない。金・銀やプラチナ、小判、大判、貴金属など思いもよらぬ高級品が見つかるケースもある。中には絵画や掛け軸、骨董品といった素人では判断がつかぬ芸術品が紛れ込むこともある。ここで注意しておきたいのが、必ず正しい価値を分別できる専門業者の判断を仰ぐことだ。そういったプロセスを省くことで、巨額の金銭的な損失の可能性もあると屋宜氏は指摘する。

故人の大量の蔵書にも価値のある古本があるかもしれない(写真:屋宜明彦さん提供)

「実際の例でいえば、文化遺産に近い絵画と骨董品が整理の最中に出てきたこともあります。当然ですが、絵画や骨董品にも相続税がかかります。それを知らない場合、相続した遺族が、莫大な相続税を支払うというリスクを背負う可能性もありました。

そういった内容を遺族に相談した結果、美術館に寄付することにしたんです。

遺族の方は、『絶対に自分たちで判断できなかった』と話していました。小判や貴金属といった価値がわかりやすいものもあれば、本人にしか価値がわからないものもある。正しい知識を持つことで、こういった金銭面や相続のリスクを回避することはできます。もっとも、近年ではこういった消費者心理につけ込んだ悪徳業者の横行が目立っているのですが……」

遺品整理現場で起きているトラブルの実情

現在、遺品整理業界は過度期を迎えている。業者が急増したことにより、消費者とのトラブルが多く報告されているのだ。

独立行政法人「国民生活センター」にも年間100件以上の契約トラブルが寄せられている。屋宜さんが指摘するような悪徳業者の横行が目立つようになったのは、業界の認知度向上と比例して増加傾向にあるという。

「遺品整理は儲かる、という概念が広まったことで、業者の数が飛躍的に増えました。遺品整理は基本的に無資格で別業態からの参入も可能です。大半は産廃業者やゴミ収集業者、リサイクル業者といった企業が事業の1つとしてやっていて、稼働をしていない業者も山程あります。それだけにノウハウがなく、遺族の気持ちを考えるという理念もないため、トラブルが発生しやすいともいえます。

大量に発生した廃棄物を適切に処理しない業者も増えているという(写真:屋宜明彦さん提供)

ただ、実際に法令順守をして儲かる業界かといえばそうでもない。ウチでいえば、売上げの3分の1強の廃棄物処理料金を支払っています。人件費などを入れた営業利益でいえば6%程度。儲けを出すために、不法投棄を行ったり、料金を釣り上げていく業者も少なくないため、悪評が流れている面もあるんです」(屋宜さん)

遺品整理のゴミは基本的には一般廃棄物に分類される。だが、業者の中には廃棄物としてではなく、一般ゴミとして処理を試みるケースもあるという。実際に千葉県のある遺品整理業者は、「すべてを一般ゴミとして取り扱うことは難しいが、基本的には一般ゴミと紛れさせてもバレるケースはほぼない」と話していた。市町村ごとに廃棄物の料金が異なることもあり、自分たちの専門性を利用し料金の釣り上げを試みる業者も存在する。

遺品整理で起きる3つの大きなトラブル

問題は、遺族の心理につけ込んだ犯罪行為が現在も平然と行われていることだろう。だが、依頼者側が泣き寝入りするしかなく具体的な解決策は見つかっていない。主なトラブルに以下の3つが挙げられる。

① 不法投棄 ②料金の釣り上げ ③金品の無断持ち出しという窃盗行為

とくに問題となっているのが、②と③だ。屋宜氏が解説する。

「いちばんわかりやすいのが、貴金属や現金などの窃盗行為です。遺族が立ち会わない現場では安易にそういった犯罪行為に手を染めるという例も聞こえてきています。悪質な業者になれば、遺族の立ち会いを拒否するケースもある。料金の釣り上げは、『廃棄量が多い』『想定外の仕事が増えた』などの理由をつけて見積書の金額の2倍、3倍の金額を請求されることを意味します。これがトラブルで最も多いケースです」

トラブルを避ける方法としては、インターネットで申し込んで終わりではなく、業者に電話をして対応を見ること。見積書の明細などを発行してもらうなど、とにかく細部の確認を怠らないことが重要だと屋宜氏は指摘する。

遺品整理の未来

遺品整理業界の最大の問題は、まだ比較的新しい業界のため、明確なガイドラインや法整備、監督官庁が決定していないことだろう。少しずつ悪徳業者の淘汰は進んでいるが、サービスの向上には至っていないと屋宜さんは指摘する。

「わかりやすい比較が引越し業者ですね。彼らは決められた納期と料金で競合している。しっかりと制服に身を包み、少人数でプロの仕事を提供する。ところが遺品整理の現場では、私服で短パンのようないでたちの男性が10人くらいで押しかけて作業するというようなこともある。また、納期も1日のはずが、1週間かかったという話もよく聞きます。プロ意識の低さを変えていかないと、業界の発展はないと思いますし、今がその転換期です」

取材の最後に、屋宜さんは嘆きにも似た口調でこう締めくくった。

「高齢化が加速していく日本では、遺品整理の仕事は必ず需要が増え、社会的にも必要な仕事です。一部の悪徳な業者の存在により不信感が消費者に浸透しつつある。業界が正常化するにも、最低5年ほどの歳月が必要です。だからこそ今の段階で手を打たないと、この業界が無くなってしまう危機感も持っているんです」

過度期を迎え、悪徳業者の淘汰は今後進んでいくだろう。その一方、利用者側が正しい知識を持ち対応策を把握することは、安楽な終活へとつながる最善策でもあることを覚えておきたい。

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