「群馬県」が映画撮影ロケ地に選ばれやすい背景

山崎まさよし主演の映画『影踏み』は、「オール群馬ロケ」の作品でもある (©2019 「影踏み」製作委員会)

【2019年11月17日10時10分追記】初出時からメインタイトルの一部表現を見直しました。

『月とキャベツ』の山崎まさよし×篠原哲雄監督が今度は「ハードボイルドにしてハートウォーミング」という新境地を拓いた。同じ群馬県を舞台にした、映画『影踏み』が11月15日、全国公開した。

原作は群馬県在住の横山秀夫が手掛けた同名の小説作品。『半落ち』『64-ロクヨン-』『クライマーズ・ハイ』など、大部分の作品が映画化・ドラマ化されている横山作品だが、その中でも特異な小説技法ゆえに長らく映像化できないとされてきた作品がこの『影踏み』だった。

同作の製作委員会として、バップ、東京テアトル、日活、ユニバーサルミュージック、デジタルメディアラボ、オフィスオーガスタ、TBSラジオ、上毛新聞社、日販、祥伝社など、業種を問わず幅広い業種の会社が参加する中、「伊参(いさま)スタジオ映画祭」実行委員会の名前もクレジットされている。

影踏みのきっかけは「伊参スタジオ映画祭」

本作の企画が立ち上がるきっかけになったのは『月とキャベツ』の聖地としてファンに愛される「伊参スタジオ映画祭」だった。

同映画祭の発起人であり、『月とキャベツ』『影踏み』を手がけた松岡周作プロデューサーは「実は横山先生が2013年から3年間、『伊参スタジオ映画祭』シナリオコンクールの審査員をやってくれたことがあって、それから先生とのご縁が出来たんです」と振り返る。

1996年12月にテアトル新宿で公開された『月とキャベツ』は、俳優としても活動するミュージシャン、山崎まさよしの初主演映画。

森田芳光、金子修介、根岸吉太郎といった監督の作品に助監督としてつく傍ら、『RUNNING HIGH』『草の上の仕事』といった自主映画で注目を集めていた篠原哲雄監督が、当時演技未経験だったミュージシャン山崎まさよしを主演に迎えて発表した青春映画だった。

人気バンドを解散し、スランプに陥ったミュージシャンが、ひとりの少女と心を通わせることで、自分を取り戻していくさまを描き出した。エモーショナルな主題歌「One more time,One more chance」のヒットと相まって、多くの観客に愛された。

伊参スタジオ映画祭が『影踏み』製作のきっかけとなった。写真は2019年の映画祭で『影踏み』上映時の舞台挨拶 (写真:上毛新聞社)

あれから23年。山崎まさよしとしては、『君から目が離せない~Eyes on you~』の主題歌提供で篠原監督作品に携わっていたが、俳優としては『影踏み』が23年ぶりのタッグ作となった。そのきっかけは「伊参スタジオ映画祭」であった、というのは先述した通りだ。

2016年11月に開催された「第16回伊参スタジオ映画祭」では、『月とキャベツ』公開20周年記念上映会が行われ、ゲストに篠原哲雄監督、山崎まさよし、真田麻垂美らが登壇。そしてその日の同時上映作品が『64 ロクヨン』。こちらには原作者の横山秀夫らがゲストとして登壇していた。

実写作品でも「聖地巡礼」に訪れるファンは少なくない

横山作品の大ファンだったという山崎は、この日の映画祭控え室で横山との対面を果たし、意気投合。ガッチリと握手を交わしたという。横山も『月とキャベツ』の大ファンだったということで、その場で横山が「ぜひ僕の原作で、また映画の主演をやってください」とラブコール。その後、横山から篠原監督×山崎コンビで「影踏み」を映画化してはどうかと提案があり、企画が一気に進んだという。

廃校を改装した「伊参スタジオ」。「月とキャベツ」展示室も併設されている (写真:伊参スタジオ映画祭実行委員会)

『月とキャベツ』の聖地と呼ばれている「伊参スタジオ」は、群馬県が出資し、小栗康平監督がメガホンをとった群馬県人口200万人記念映画『眠る男』(1996)の撮影拠点として、廃校となっていた旧中之条町立第四中学校を改装した施設。

古びた木造校舎は、撮影スタジオ・ロケ隊の合宿所としてリノベーションされ、ここを拠点に数々のテレビ、映画作品が撮影されてきた。また、施設内には『眠る男』『月とキャベツ』などの展示室も併設され、貴重な資料を一般公開。他県からも「聖地巡礼」に訪れるファンが多く、多い時は年間に1万5000人が来場した時もあったという。

結果、映画公開から20年以上経った現在でもコンスタントに集客を続ける息の長いコンテンツとなった。

そして今回の『影踏み』も、群馬県の中之条町、伊勢崎市などを中心に撮影が行われた。『月とキャベツ』以来の篠原監督×山崎まさよしコンビの復活作ということで、地元・群馬の人たちも「よくぞ帰ってきてくれた」と歓迎してくれたという。

『影踏み』は群馬県の中之条町、伊勢崎市などを中心に撮影が行われた (©2019 「影踏み」製作委員会)

そんな群馬県のロケ撮影について原作者の横山は、パンフレットのインタビューで「今回のオールロケ撮影は視覚的な“通奏低音”として作品世界に統一感をもたらした気がします。ひとつひとつはありふれた風景でも、それが連続して映し出されることによって、嘘のない地方都市の空気感が伝わってきました」と語っていた。

実は、群馬は映画の撮影地として、魅力的な場所なのだ。松岡プロデューサーがその理由を語ってくれた。

群馬の自治体関係者の映像への意識が高い

「映像屋としては、ロケーションが魅力的ということですね。赤城山や榛名山、妙義山など、山を背景としたロケーションなので、気持ちのいい画が撮れるんです。それから地元の方の映像への意識が高いですね。群馬県の自治体関係者の方々は、企画書だけでなく、脚本などもしっかりと読み込んでくれる人が多かった。

やはり人の心を動かすことが出来るのがコンテンツの力。『泣きました』『心動かされたんで協力します』と言ってくれた上で、ロケ地探しなど、映画の中身にコミットした協力をしてくれることが多かった。そういう意味で彼らは貴重なスタッフであり、応援者でもあるわけです」

松岡プロデューサーが、地方ロケにおいて変化を感じるようになったのは、映画やテレビの撮影支援を行うフィルムコミッションが全国で次々と設立されるようになってきた2004年前後以降のことだったという。

「全国にフィルムコミッションが設立される以前は、自治体の人たちから、撮影隊は嫌がられていましたからね。歓迎されていたのは『男はつらいよ』や『釣りバカ日誌』くらいじゃないでしょうか」と振り返る松岡プロデューサー。そして次のように付け加えた。

「やはり東京は人口が多いんで、撮影に窮屈さを感じてしまいます。昔だったら、設定を無理やり変えてでも地方で撮影したいとは思わなかったですが、今はそういうことはまったくないですね。地元の人も温かいし、手伝ってくれる。そしてロケ場所の許可もおりやすい。

ロケでお邪魔しているおうちの方が、おみそ汁を作ってくれるなんてことは東京じゃありえないですからね。そういった人の温かみを求めて、地方ロケのネタには積極的に関わっていきたいという思いはあります。多くのプロデューサーはそう感じているんじゃないですかね」。

そしてその言葉通り、本作も地元の協力体制に助けられたという。

「群馬県民の方々の協力無しでは絶対に出来なかった」と語る松岡周作プロデューサー (筆者撮影)

「例えば、本作には普段ならハードルが高い火事のシーンがあるんですけど、地元の消防団が協力してくれた。リアルな形で撮影をバックアップしてくれる体制を整えてくれた。今回はそういったことが本当に多くて。群馬県民の方々の協力無しでは絶対に出来なかった。もしよそで撮影をすることにしたら、予算はきっと今の1.5倍はかかっていたでしょうね」(松岡プロデューサー)。

実際、群馬県は撮影地として、多くの映画作品に登場する。是枝裕和監督のカンヌ国際映画祭審査委員賞を受賞した『そして父になる』は、前橋市が撮影地だった。横山秀夫氏の原作で、瀬々敬久監督の映画『64-ロクヨン-』も前橋市や高崎市がロケ地になっていた。

他県での撮影なら予算は1.5倍はかかった

さらに、最近は、舞台となった地で「先行公開」するケースが増えているが、『影踏み』も11月15日の全国公開に先駆け、11月8日から群馬県で先行公開している。

8日には「伊参スタジオ映画祭」でも上映されたほか、11月9日には「前橋シネマハウス」「ユナイテッド・シネマ前橋」「イオンシネマ高崎」「109シネマズ高崎」「MOVIX伊勢崎」「イオンシネマ太田」の6館を、山崎まさよし、篠原哲雄監督、横山秀夫らが訪れ舞台あいさつを実施。全回、満席となる大盛況で、地元群馬を舞台に、幸先のいいスタートを切った。

篠原監督は、『月とキャベツ』を「今でも多くのファンに支えられている幸せな作品」と語る。その成功例をもとに、さらなる地元・群馬との絆を強化させた『影踏み』。その関係性は興味深いモデルケースとして注目される。

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