日本のテレビ番組「海外輸出」30年の歴史と展望

始まりから広がり、現状、今後などを総まくりする(写真:simpson33/iStock)

日本のテレビ局が制作した番組のフォーマットが輸出されるようになって30年以上が経過した。その間、世界のフォーマット市場は拡大し、変化を遂げてきた。今後“JAPANフォーマット”はどうビジネス展開していくべきなのか。

フォーマット販売の始まり

1960年代に放送が始まったNHKの人気クイズ番組「それは私です」や「連想ゲーム」は、アメリカの番組「To Tell the Truth」や「Password」を下敷きにしていた。当時の日本の番組制作者の間では、このようにアメリカの番組を「参考にして作る」ことは珍しいことではなかった。

その後70年代から80年代にかけて日本で人気を集めた「クイズ100人に聞きました」「クイズダービー」(ともにTBS)も、その原型をアメリカのクイズ番組に求めることができる(それぞれ「Family Feud」「Celebrity Sweepstakes」)。

確かに番組のコンセプト、演出、構成、ルール、スタジオセットなどに類似性が見られるが、いずれも単に真似て作られた番組というわけではない。実際には、日米の事業者間でフォーマット販売契約が正式に交わされて制作された「アメリカの人気クイズ番組の日本版」である。

『GALAC』2019年11月号の特集は「今、フォーマットが熱い」。本記事は同特集からの転載です(上の雑誌表紙画像をクリックするとブックウォーカーのページにジャンプします)

もともとアメリカのラジオ番組で行われていたフォーマット販売は、50年代になるとテレビ番組にも用いられるようになった。しかし80年代以前は小規模で、クイズ番組を主にイギリスなど英語圏の国々へ販売する程度にとどまっていた。先述の「Family Feud」は今日でも放送が続いている長寿番組であり、これまで数多くの国にフォーマットが販売されてきたが、販売対象国・地域が拡大するのは90年代に入ってからである。そのような経緯を考えると、70年代半ばという比較的早い時期に、日本の番組制作者が海外の番組フォーマットに対価を払うことを、すでに商慣習として認識していた点は特筆に値するだろう。

日本の番組フォーマット販売は、確認できる限りでは、85年にTBSが「わくわく動物ランド」のフォーマットを韓国KBSへ販売したことが始まりと考えられる。

当時、韓国では日本の番組の剽窃・盗作が少なからず行われていた。しかし、同番組に関しては、番組企画や構成はともかく、番組内に挿入されるVTR映像(大自然での動物の生態を映したものなど)は簡単にまねることができないし、自前で撮影するにも大変なコストが必要だった。KBSは当初TBSにVTR映像の提供を申し入れたが、番組のコンセプトなどと抱き合わせる形で取引され、結果的にこれが日本初の番組フォーマット販売となった。

このように80年代になると日本の放送局はフォーマット購入のみならず、販売に乗り出していた。イギリスのメディア研究者・Jean Chalabyによれば、当時日本はすでに、アメリカ、イギリス、フランス、オーストラリアと並び、世界でも数少ない番組フォーマット販売国の一つとなっていたという。

もっとも、当時はまだ「フォーマット権」という用語は定着していなかったようで、「わくわく動物ランド」が89年までに8カ国に販売されたことを伝える記事(朝日新聞1989年12月2日)では「番組企画権」という用語が使われている。

フォーマット番組のジャンルの広がり

90年代には東アジアを中心に日本のテレビ番組が人気を集めるようになり、日本の放送局にとって海外市場の存在が顕在化した。人気を牽引したのは主に若者向けドラマだったが、バラエティ番組にも波及し、TBS「風雲!たけし城」やテレビ東京「TVチャンピオン」などが販売された。当初は日本で放送されたものに各国で字幕や吹き替えなどの言語処理が加えられて放送されたが、やがて番組フォーマットとしても販売されるようになった。

いずれの番組も見た目にわかりやすい競争や挑戦、高度な技などが笑いや驚きを呼ぶ内容で、海外でも比較的受け入れられやすい性質を備えていたが、登場人物や題材をローカライズすることで各国の視聴者がいっそう親近感を覚える番組に変わった。それまでの「フォーマット販売=クイズ番組」という世界的な通念に対して新しい可能性を提示したのが、これら日本のバラエティ番組のフォーマット販売だったのかもしれない。

90年代後半になると映像メディアの多チャンネル化が進み、世界中の番組制作者が目新しい企画を模索するなか、他国の番組にも熱い視線が向けられた。そのような時期にフジテレビ「料理の鉄人」やTBS「しあわせ家族計画」など、海外の番組コンクールで入賞するバラエティ番組が登場したことの意義は大きかった。

それまで国際コンクールで称賛される日本の番組は芸術性の高いドラマか大型ドキュメンタリーと決まっていたが、「日本には面白い番組企画がある」という新しい評価が加わった。このような国際的な評価に後押しされる形で先の両番組ともフォーマット販売が進展した。

21世紀を迎える頃には「Who Wants to Be a Millionaire?」、「Survivor」、「Big Brother」、「Pop Idol」などが世界規模での成功を収め、フォーマット販売は放送関連の国際ビジネスにおいて、大きな位置を占めるようになる。

とくに「Survivor」や「Big Brother」のようなリアリティショーは世界的に隆盛し、その後のフォーマット販売される番組ジャンルにおける一大潮流となっていくが、日本からも日本テレビ「¥マネーの虎」やTBS「ウンナンのホントコ!」の人気企画「未来日記」などが現れた。

日本の海外番組販売担当者がフォーマット販売に期待したのは、その利益率の高さと並んで、盗作への抑止力となることだった。例えば韓国では、99年までの数年間に新聞紙上などで日本の番組の盗作と疑われた番組は30作以上に上っていた。

しかし、2000年代後半からは盗作疑惑を耳にする機会は減った。理由の一つは疑わしい番組はネット上で細かな点まで元ネタと噂される番組と比較され、非難に晒されるなかで、もはや「バレなければ盗んでもいい」という考えが通用しなくなったことだろう。同時に、番組フォーマットを金銭面できちんと評価することが世界中で定着してきた結果とも考えられる。

実際にフォーマットを購入する側には、契約によって正式にお墨付きをもらうこと以上のメリットがある。フォーマット販売には「バイブル」と呼ばれる仕様書が存在し、番組制作に関わるさまざまな項目が細かく規定されている。また、オリジナル版の制作スタッフが販売先を訪れ、現地版制作のための監修も行われる。番組フォーマットが一種の知的財産(=IP)と見なされるのは、このように制作ノウハウと深く結びついているからだろう。

ある番組制作者は、海外から番組フォーマットを購入して初めて、その番組を見るだけではわからなかったノウハウが数多く存在することを知り、「仮にパクってもうまく作れないし、きちんとフォーマットを購入して作るべきだと実感した」と筆者に語った。バイブルにせよ現地版の監修にせよ、以前から存在していたものだが、近年の細かく作り込まれた番組において、それらの価値はますます高まっているようだ。

グローバルブランドとしてのフォーマットビジネス

最後に課題として、フォーマット販売によるテレビ番組のグローバルブランド化を挙げたい。例えば、典型的なグローバルブランドであるスターバックスやマクドナルドでは、世界中にフランチャイズ展開をする中で必要に応じてローカライズが行われるが、ブランドが根幹に持つアイデンティティやコンセプトはどの市場でも不変であり、グローバル規模で遵守されている。

世界各国にフォーマット販売される番組も同様で、各国視聴者の嗜好に合わせたローカライズを進める一方で、ブランドの普遍性のためにバイブルや現地版の監修が不可欠となる。

さらに、フォーマット販売とは番組タイトルやロゴなどのブランドをライセンスするビジネスとも捉えられる。それらブランドはメディア横断的に活用され、多方面への事業拡張が可能である。

実際、既述の「Millionaire?」や「Idol」、あるいは日本発でも「NINJA WARRIOR」などは番組フォーマット販売にとどまらず、そのためのマーケティング手法として、ゲームやグッズ、アパレルなどの商品化や視聴者参加型イベントの開催などクロスメディア的展開が見られる。このような展開がフォーマット販売される番組の価値をさらに高めることは間違いない。

本稿で論じたように、日本の番組のフォーマット販売には長い歴史と蓄積がある。今後は番組のブランド価値向上と、より戦略的なビジネス展開を視野に入れて取り組んでいく必要があるだろう。

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