「日本南西端の島」で最先端の再エネ事業が始動

宮古島ではこれまで、メガソーラーやバイオエタノールなど再生可能ネルギーの実験に積極的に取り組んできた(筆者撮影)

沖縄本島から南西に300km、台湾とのちょうど中間に位置する宮古島。この日本の南西端の離島で、日本の電力のあり方を変えるかもしれないと見られている実証実験が行われている。

産業を守りながら住民の生活を守るクリーンエネルギーの導入、コスト負担を減らしながらエネルギーの地産地消、電力ピーク時に大規模停電にならないよう需要をコントロールと、島嶼(しょ)部はもちろん、本土でも今後必要となる技術である。日本の南西端の島で今何が行われているか。現地で見てきたことをリポートする。

地下ダムで生活安定するも環境汚染

宮古島が将来の電力に関して真剣に取り組むのには、この島ならではのいくつかの事情が絡んでいる。まずは、宮古島の独特の環境から説明しよう。

宮古島は3層構造の島で、一番下が粘土層、その上に琉球石灰岩、そして60cm~1m程度の薄い赤土が表層を成している。琉球石灰岩は細かい穴が開いた隆起サンゴ礁で、スポンジのように簡単に水を吸い込んでしまうので、雨が降っても地上にとどまることなく海に流れてしまう。よって宮古島には川がなく、ダムによる水力発電ができない。

また、飲用水および農業用水は一部の地下水に頼っており、数年おきに大干ばつと大型台風に見舞われ、農業はおろか生活そのものが安定しないのが大きな課題だった。

そこで1987年から始まったのが地下ダム灌漑整備事業。島の南側の地下にコンクリートで壁を作り、地下水をせき止めようというもの。事業は2000年まで続き、総事業費640億円、貯水量2000万立方メートルの巨大な地下ダムが出来上がった。ダムといっても大量の水が石灰岩の隙間に貯められている状態なので実際に水を見ることはできない。なお、この水は主に農業用水として使用され、飲料水は別途地下水を利用している。

地下ダムの建設により農業用水の供給が潤沢になり、サトウキビ、葉たばこ、ゴーヤ、冬瓜、マンゴーといった農作物の生産が安定化し、サトウキビと葉たばこに至っては今や国内屈指の生産高を誇るまでになっている。

しかし、農産物の生産高が上がり、島民の生活が安定し、生活の質が向上、人口も増えていくのと比例して生活排水が増え、地下水の汚染が深刻化する。1989年には地下水の硝酸態窒素濃度が8.9mg/Lまで上昇、10mg/Lになると体力のない乳幼児や高齢者の命に危険が及ぶと言われている中で、宮古島の飲料水の汚染度は危機的レベルだった。

そこで宮古島市は、いつまでも住み続けられる豊かな島づくりを目指して2008年に「エコアイランド宣言」を出し、環境保全のためにさまざまな取り組みを始めた。エコアイランド宣言は大きく5つの指標が策定されている。地下水の水質改善・維持、家庭系ゴミ排出量の低減、エネルギー自給率の向上、サンゴ礁被度の維持・向上、固有種の保全だ。この中で今回取り上げるのはエネルギー自給率の向上である。

2050年にCO2削減69.1%の高い目標

地下ダムの建設により農産物の収穫高が増加したとはいえ、主産業のサトウキビは国の補助金によって黒字化している状態で、島の経済を支えるものではない。

一方で、島の経済を支える観光産業は年々拡大し、今年3月には下地空港の国際ターミナルもオープンしてますますの発展が見込まれている。豊かな自然環境が観光資源なため、これを守らないと観光産業は衰退し、それに伴って人口も減少することは目に見えている。

宮古島市の三上暁係長(筆者撮影)

「そのためにも、エコアイランド宮古島宣言2.0ではCO2排出量を2030年に2003年比37.3%減、2050年には69.1%減を目標として設定した。これを実現するためには再生可能エネルギーを中心としてエネルギー自給率を上げていく必要がある」と、宮古島市企画政策部エコアイランド推進課の三上暁係長は説明する。

現在、宮古島のエネルギーのほとんどは沖縄本島から海上輸送される石油燃料によって賄われている。海上輸送のコストが上乗せされる分、自動車用のガソリン価格は本島より1L当たり20円ほど高い。

一方、電気料金はユニバーサルサービス制度により本島と同じ水準になっているが、沖縄電力の離島部門は年間70億円ほどの赤字が続いており、宮古島だけでも25~30億円の赤字と見られている。

これは、宮古島の発電設備の負荷率(設備利用率)が一つの要因となっている。沖縄本島や本土の負荷率が65%前後と言われている中、宮古島は50%を切っているのである。

つまり発電効率が悪い。過去5年間で観光客が3倍増したことで電力のピークは毎年更新しているが、それは持続的なものではなく真夏の夜8時前後の短い時間となる。ピーク時に電力が足りなくなると需給バランスが崩れて一瞬にして大規模停電になる恐れがあるため、電力会社はこの一瞬のピークのために発電設備を用意しなければならない。そのため負荷率が低く、投資コストを回収できない状況に陥っているのである。

太陽光とエコキュートを無料設置

観光資源を守るためにCO2を削減し、発電コストを下げながら電力ピークに対応、外的要因に左右されない安定的な電力供給を目指す。これらの課題を解決すべく2011年からスタートしたプロジェクトが、「島嶼(しょ)型スマートコミュニティ実証事業」だ。同プロジェクトは数年のシステム開発期間を経て2016年からクローズドのフィールド実験をスタート、一定の成果が出たことから昨年より商業ベースで展開している。

現在、商業ベースでスタートしているのは、太陽光発電とエコキュートによる給湯の販売である。本来なら太陽光発電および風力の再生可能エネルギーで全島の電力を賄えればよいのだが、夜間などの発電できない時間帯に電力を供給するためには大規模な蓄電池が必要となる。

しかし、蓄電池はまだまだ高価なため全島をカバーできるだけの台数を用意するのは現実的ではない。そこで考え出されたのがエコキュートを組み合わせたビジネスモデルである。

ネクステムズの比嘉直人代表取締役社長(筆者撮影)

「太陽光パネルの価格は下落しており、すでに発電コストは電気料金を下回っているため、1kWhあたり20円で提供できる」と、ネクステムズの比嘉直人代表取締役社長は説明する。同社は、沖縄県から委託を受けた宮古島市から再委託を受け、プロジェクトの肝となるシステムの開発、運用、実証実験を行っているベンチャー企業だ。

現在、沖縄電力の従量電灯料金は1kWhあたり22.5円~29.9円。それよりも安い料金で電力を供給できれば、島民にとっても、赤字を抱える沖縄電力にとってもメリットになる。しかし、太陽光で発電できる日中は仕事や学校で家にいないため、発電した電力が余ってしまう。そこで、発電した電気を使ってエコキュートで沸かしたお湯を販売するというビジネスモデルを作り上げた。

お湯の供給価格は100L(50℃)あたり45円と、プロパンガス給湯よりも1割ほど安い価格設定になっており、利用者にとってはメリットが大きい。なお、夜間など太陽光が発電しない時間帯は沖縄電力から電気の供給を受ける。

このビジネスモデルの面白いところは、太陽光発電設備およびエコキュートの本体・設置費用は無料であるところ。同費用は、同じく比嘉氏が代表を務める宮古島未来エネルギー(MMEC)社が負担しているのである。ユーザーは屋根とエコキュート設置場所を無料でMMECに貸し、その対価として電気とお湯を低価格で供給してもらう。

市営住宅に設置されたソーラーパネルとエコキュート。導入費用が無料なので住民にデメリットはない(筆者撮影)

2018年度の設置実績は、市営住宅40棟202戸で、太陽光発電能力は1217kW、エコキュートは120台。「これまでにないビジネスモデルなので不安感があるのと、そもそも島民に光熱費削減の意識が低い。そのため、初年度の導入はなかなか進まなかった。この202戸の実績が口コミで広がっていくことで今後拡大を期待している」(比嘉氏)。

今後の計画としては、2019年度に市営住宅100棟600戸(太陽光発電3000kW、エコキュート400台)、戸建住宅500戸(太陽光発電4000kW、エコキュート400台、家庭用蓄電池300台)、事業所50カ所(太陽光発電3000kW、EV充電器400台)、2020年度には戸建住宅1000戸、事業所50カ所に新規導入する計画だ。

家庭用蓄電池は導入費用が高いため、利用する家庭の電気代は27円/1kWhに設定している。EV(電気自動車)充電器は、24時間いつでも自由に使える充電口は有料設置、充電時間をネクステムズがコントロールする充電口は設置無料となる。なお、EVは企業側が自前で用意する。

需要側をコントロールしてピークカット/ボトムアップ

ここでいうコントロールとは何か。実は、これこそが同プロジェクトの一番の鍵となるものだ。先述したが、宮古島では短い需要ピークに合わせて発電設備を整えているため、負荷率が他地域よりも低くなり、それが発電コスト高につながっている。発電コスト低減のためには適正な発電設備で適正な供給をする必要があるが、それにはピークカットとボトムアップを同時に行い、需要を平準化する必要がある。

そこで、ネクステムズが開発したのがクラウド型のエネルギーマネジメントシステムだ。お湯はお風呂や夕食の準備など、夜使うときに沸いてればよいのだから、沸かすのは昼間のいつでも構わない。なので、各戸ごとに沸かす時間をずらせれば電力需要は平準化する。

EVも同じ考えだ。事業者がEVを使う時間に合わせて、ネクステムズ側がほかの電力需要を見ながらEVに充電するタイミングを遠隔コントロールする。そもそも、宮古島は一周100kmあるものの、ビジネスエリア・生活エリアが限られているため、自動車の1日平均走行距離は15kmと短い。1度の満充電で数日間は走行できるので、事業所が休みの週末に充電すれば十分だ。

サトウキビ畑のそこかしこにある散水栓(筆者撮影)

ネムステムズは家庭の給湯、事業所の昼間電力だけでなく、さらに農業用散水栓もコントロールしていく計画だ。宮古島には川がないため、主力産業であるサトウキビをはじめ、農産物の散水には先述した地下ダムを利用している。地下ダムに貯められた水をポンプで地上の貯水池に引き上げ、そこから各畑にパイプで水が供給されてスプリンクラーで散水される。

実はこの地下ダムから吸い上げるポンプに使う電力は、夏期の需要の約1割を占めている。家庭や事業用で電気の使用率が低い時間帯にポンプを稼働できればピークカット/ボトムアップが同時に可能になり、需要の平準化は大きく進む。このため現在、末端の散水栓をコントロールする仕組みの開発を急いでいるところだ。散水栓をコントロールすることで、貯水池に水を引き上げるポンプの稼働もコントロールしやすくなるからである。

農業用水もコントロール

電気を使用する側をコントロールする仕組みを構築すると同時に、供給側もコントロールする仕組みも開発している。

散水栓に水を供給するバルブ。現在は人力で開閉しているが、電池駆動で開閉できる弁とそれをコントロールするための通信機器を開発中(筆者撮影)

太陽光発電を主力電源化するためには、天候によって発電量が変化する変動性電源から、火力のように一定した出力が維持できる安定性電源にすることが必要になる。発電しすぎると供給過剰になり需給バランスが崩れて大規模停電になる恐れがあるからだ。

そこで、変動性の高い高位出力帯をあえてカットする常時出力制限をすることとした。不安定な太陽光発電を安定化することで主電力とし、そのバックアップとして火力発電を稼働させる素地を作ったのである。

こうして太陽光発電を普及させていき、家庭用蓄電池が普及価格帯に入ってきたときに、夜間電力も太陽光・風力の再生可能エネルギーで賄う体制を構築する。これにより、エコアイランド宮古島宣言2.0で掲げた高い目標、2050年度のエネルギー自給率48.85%、CO2削減69.1%(2003年比)が達成できるとしている。

このプロジェクトの初期段階から関わり、太陽光発電システムとエコキュートの供給、およびエネルギーマネジメントシステムの構築で協力しているパナソニックエコソリューションズ スマートシティ推進担当主任技師の西川弘記氏は、「宮古島は人口5万人で電力的に閉ざされた環境なため、問題点、解決策、検証と結果がわかりやすい環境にある。ここで得られたエネルギーマネジメントのノウハウは、マンション群や新興住宅といった特定のエリア、1つの変電所単位で導入できるようにもなるだろう。川上・川下の調整力が得られれば、再生可能エネルギーを主体とした省エネ社会の構築が日本全体で可能になるのではないか」とする。

現代社会において、電気は安定供給が不可欠なインフラだ。しかしその電力は有限な化石燃料に依然として多くを依存している。今後、石油価格は上昇する懸念があり、発電コストはより高まる可能性がある。また、CO2を多く排出する火力発電は地球温暖化対策上、削減の方向に向かうのは必然だ。

先ごろ、政府はCO2の排出を2070年ごろまでに実質ゼロとする新たな目標をまとめたが、それには太陽光を始めとした再生可能エネルギーの利用拡大が不可欠だ。小さな島で始まった取り組みが日本のエネルギー政策にどのような影響を与えるのか、今後も注目していきたい。

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