交通で差が付く、東京圏で「上がる街」はどこだ?

交通というフロンティアを活用すれば東京はさらに成長する(筆者撮影)

意外と思われるかもしれないが、東京は交通が不便な都市だ。2016年12月29日付記事「東京で道路よりも鉄道が発達した3つの理由」でも触れたように、市街地の道路は都市にとって重要な社会基盤であるにもかかわらず、計画の約6割しか完成していないので、交通処理能力が慢性的に不足しており、あちこちで渋滞が頻発している。

大阪や名古屋のように格子状の道路が整備された都市と比べると、道路網が覚えにくいうえに、見通しが悪いT字路やクランク、そして不規則に曲がる道路が多く、自動車では移動しにくい。一方で鉄道は、世界屈指のネットワークを持つまでに発達したとはいえ、全般的に輸送力が不足しており、満員電車の問題が解消していない。複数の鉄道事業者が運営する路線が複雑に絡み合っており、運賃計算や最短ルートがわかりづらいので、初めて東京を訪れる人や訪日外国人にとっては利用しにくい。

交通には改善の余地が大きい

世界的に見ても、東京ほど交通が不便な都市は珍しい。東京在住者の多くは、このような交通の状況を当たり前であるかのように受け入れているかもしれないが、ニューヨークやパリのように、道路網が整然としており、公共交通の一元化されている海外の主要都市で実際に移動してみると、東京での移動しにくさがよくわかる。

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このことは、東京が抱える大きな弱点とも言えるが、必ずしも悪いとは言い切れない。交通の不便さはこの都市の改善の余地であり、フロンティアだからだ。東京はいま人口減少前夜にあるが、このフロンティアを利用すればまだまだ発展する伸びしろがある。

そのフロンティアとしての可能性を端的に表しているのが、「上がる(繁栄する)街」ランキングだ。これは、東京23区の交通を担う代表的な交通事業者3社(JR東日本・東京メトロ・首都高速道路[首都高])の沿線にある街のうち、2007年度から2017年度までの10年間に利用の増加率が高い街を順に示したものであり、鉄道では駅の利用者数(JR東日本は乗車人員、東京メトロは乗降人員)、首都高では本線料金所を除く入口の通行台数を集計している。

今回、筆者は独自に3社の協力を得て、各社リーダーにインタビューをしただけでなく、このランキングの基となるデータを提供してもらうことができた。

JR東日本、東京メトロ、首都高の「上がる街」ランキング(筆者作成)

各社のランキングをそれぞれ見ていこう(カッコ内は考えられる主な要因)。JR東日本では、1位に武蔵小杉(再開発とJR横須賀線停車)、2位に大崎(再開発とJR埼京線乗り入れ)、3位に日暮里(再開発と日暮里・舎人ライナー乗り入れ)がランクインした。

東京メトロでは、1位に新宿三丁目(副都心線乗り入れ)、2位に西新宿(再開発)、3位に豊洲(再開発とゆりかもめ乗り入れ)が入った。

首都高では、1位に空港西(空港アクセスと羽田空港国際線旅客ターミナル開業)、2位に大井南(港湾アクセス)、3位に八潮(再開発とつくばエクスプレス開業)が入った。

交通の変化を契機に「上がる街」へ

このランキング結果と、考えられる主な要因を照らし合わせると、再開発よりも交通の利便性向上で「上がる街」になった場所が多いことがわかる。つまり、東京では交通こそがフロンティアなのだ。

不便だった乗り換えを改善する渋谷駅の大改造(筆者撮影)

東京では、これまで鉄道や道路の整備や改良が繰り返されるたびに、交通の利便性が向上した場所が生まれ、そこが「上がる街」になってきた。また、「下がる(衰退する)街」も、ちょっとした交通の変化がきっかけとなって活性化し、「上がる街」へと変貌してきた。

その代表例である豊洲は、もともと工業地帯として「上がる街」になったが、産業の変化によって「下がる街」になり、ゆりかもめの乗り入れが再開発の推進力となり、夜間人口が増加して、ふたたび「上がる街」へと変貌した。

東京では、このようにして「上がる街」と「下がる街」の入れ替わりが繰り返され、都市全体として「上がる都市」になり続けてきた。また、それらが入れ替わる可能性が常にあること自体が、環境に応じて変化し続ける都市の活力源となり、魅力となってきた。これらは、東京が持つ大きな特徴だ。

では、これからの東京にはどのような交通の変化が待ち受けているのだろうか。筆者が3社のリーダーたちにインタビューしたところ、人口減少に伴う利用者の減少や、交通インフラを支える労働者の不足だけでなく、MaaS(マース、各移動手段をITでつないで1つのサービスとして提供する次世代交通の概念)と自動車の自動運転をはじめとするモビリティ変革や、働き方改革の影響を気にする声が聞かれた。

モビリティ変革や働き方改革が交通に与える影響は、予測することが難しい。例えばもし1枚のIC乗車券で鉄道と二次交通の両方をシームレスに利用できるようになれば、鉄道の利便性は上がる。

シェアサイクルの利用者が増えれば、駅間が短い地下鉄の利用者数に影響が及ぶ。自動車の完全自動運転が実現すれば、交通事故が減り、首都高などの道路での移動がスムーズになる一方で、それによるパーソナルな移動が容易になれば、鉄道やバスなどの公共交通に影響が及ぶ。

働き方改革で在宅勤務を含むテレワークをする人が増えれば、通勤で鉄道や道路を利用する人が減り、交通の混雑が緩和される一方で、交通事業者の収入が減る。それらが今後起こりうることを考えれば、10年、20年先の交通の状況を予測することすら難しい。

東京は「上がり」続ける

しかし、予測が難しいとはいえ、これからも交通の変化が東京を「上がる都市」にする大きな要因になることは確かだ。交通の利便性が今よりも向上すれば、都市全体における「人」と「モノ」の流れがよりスムーズになり、経済活動が活発になり、東京が活性化する。東京には、それを実現する余力が残されている。

東京の交通インフラの整備や改良には長い時間がかかるので、人口が減少に転じても交通の変化が続く。この状況を楽観視すれば、交通の変化が続く限り「上がる街」と「下がる街」が入れ替わる活力源は失われず、東京は「上がり」続けるとも考えられる。

首都機能が集中する東京が「上がる都市」になることは、日本が「上がる国」になるうえでも重要なことだ。東京は、先述したようにいま人口減少前夜を迎えており、2025年には東京都全体、2030年には23区で人口が減少に転じると予測されている。それでも東京を持続的に発展させることは、東京はもちろん、日本にとっても大きな課題である。

だからこそ今、東京に残されたフロンティア=交通に注目すべきだ。不便だった交通の改善こそが、東京を活性化させるうえで大きな鍵となるからだ。

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