三菱「デリカD:5」の顔が極端にいかつい理由

先代モデルと見た目が大きく変わった「デリカD:5」(写真:三菱自動車)

三菱自動車は昨年11月から新型「デリカD:5」の予約注文を開始した。マイナーチェンジながら、その顔つきはトヨタ自動車の人気ミニバンである「アルファード」や「ヴェルファイア」のようにいかつく、新しく生まれ変わったように見える。

顔つきを大きく変えた理由は、同社のSUVである「アウトランダー」が4年前に新しい三菱の顔として導入したダイナミックシールドという方向性を、デリカD:5にも採り入れたにすぎない。実際、三菱の主力車種の1つアウトランダーもそれまでの顔つきからダイナミックシールドに変えることにより販売を伸ばしている。その後、新登場となった「エクリプスクロス」もダイナミックシールドの顔つきだが、3車種とも金太郎飴のような同じ顔にするのではなく、それぞれの車種の持ち味にあった適応がなされている。

遮音対策とともに内装の質感向上も

室内では、インストゥルメントパネルの造形が一新され、カーナビゲーション画面も大型化に対応。これまでのアウトドア派的な印象からより上級乗用車的な質の高さを覚えさせる見栄えとなった。それにあわせ、フロントウィンドウやフロントカーペットに遮音効果を与え、走行中の騒音の抑制に配慮した。従来のデリカD:5の主力エンジンであったディーゼルターボは、高速などでそれなりの騒音があっただけに、今回の遮音効果には期待がかかる。

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また従来は、クロスカントリー4輪駆動車(クロカン4駆)の「パジェロ」に代表される三菱ならではの悪路走破性がデリカD:5の大きな特徴だったが、都会的な外観を与えたURBAN GEAR(アーバン・ギア)という新たな車種が追加された。外観に空力部品的な装飾を加え、室内も上級乗用車的な装飾や色使いを行っている。

これまでも主力とされてきたディーゼルターボエンジンの排ガス浄化性能を、尿素SCR(選択触媒還元)という触媒の採用により強化している。ディーゼルターボエンジンに組み合わされる変速機は、新しく8速(従来は6速)の自動変速となった。変速機の変更も、上質な加速性能の向上に一役買うだろう。

【2019年1月25日8時10分追記】初出時、エンジンの説明に一部誤りがあったため、上記のように修正しました。

ビッグマイナーチェンジの内容をざっと見渡しても、かなり大掛かりな改良が施された様子が伝わってくる。その背景には、デリカD:5はデリカの5代目として2007年1月に登場し、すでに12年が経過していることもあるだろう。一方で、クロカン4駆性能を備えたミニバンという唯一無二の存在が、この長寿をもたらしているはずだ。

デリカD:5の魅力は、先にも述べたようにパジェロに代表される悪路走破性をミニバンで実現しているところにある。その実力がどれほどかの一例として、三菱がパジェロで1985年以降12回優勝したパリーダカール・ラリーにおいて、2007年にはそのサポートカーとして7000キロメートルに及ぶ北アフリカの大地を走破しているのである。

4輪駆動による粘り強い走りはもちろんだが、それを支えるデリカD:5の車体は、たとえばスキーのモーグルのようなこぶが交互に連続する未舗装路において、対角線上のタイヤがこぶの上にあって車体に負担がかかるような状態でも、ミニバン特有のサイドドアを開け、再び閉めることができるほど剛性が高い。量産市販車で、それほどねじれの出ない車体剛性を備えたクルマは世の中に多くはない。

パワフルな走りは配達車両としての実用性から

2002年、2003年にパジェロでパリーダカール・ラリーを連覇した三菱契約ラリードライバーの増岡浩氏による、急斜面をパジェロやアウトランダーで上下してみせる模擬走行も全国各地で行われている。そこでもデリカD:5がパジェロと同じように急斜面を上り下りする。夏に恒例の三菱スターキャンプというアウトドアイベントでは、オートキャンプ場内を走るほかのミニバンが未舗装の轍(わだち)にハンドルをとられ、よろよろ走るが、デリカD:5は平然とテントが立ち並ぶ無舗装路を走り、悪路走破性能の高さを目の当たりにすることができる。

増岡氏は、「気候変動などで年間を通じ災害が日本各地で起きるようになったいま、自宅まで自分のクルマで帰りたいと思うなら、三菱車を選ぶといいのでは」とさえ言う。日常何事もなく使う舗装路も、豪雨や豪雪などにより瞬時に悪路と化すことが身近になった今日、増岡氏の言葉の重みを実感する人もあるだろう。

三菱デリカは、1968年にデリカトラックとして誕生した。デリカという車名の由来は、デリバリーカー(配達車両)からきている。荷物や人を目的地へ確実に運ぶ実用性を重んじて誕生した様子がうかがい知れる。翌1969年には、ワンボックス型のデリカコーチが追加された。

1979年に2代目のデリカスターワゴンへフルモデルチェンジしたところから乗用車の扱いになり、1982年に小型ワンボックスカーとして初めて4輪駆動車が車種追加となった。またロングボディ車には、ディーゼルエンジンが追加搭載されている。3代目までは運転席下にエンジンを積む、キャブオーバーと呼ばれるワンボックス車だったが、1994年にフルモデルチェンジした4代目のデリカスペースギアからフロントエンジンのミニバン的姿となり、現在の5代目であるデリカD:5に至る。デリカD:5では、それまでの後輪駆動から前輪駆動を基にした4輪駆動へ変更となっている。

ざっと歴史を振り返ると、商用の実用車から乗用へという道筋の中で、4輪駆動をいち早く採用し、以来37年の実績を積み上げてきたのがデリカD:5である。系譜からも、舗装路・未舗装路の区別なく走破性を特徴としていることがよくわかる。

そこに今回、外観的な存在感をより高め、また都会での利用を重視した車種追加も行うビッグマイナーチェンジが行われたのである。

トヨタのアルファード、ヴェルファイアのみならず、同社の5ナンバーミニバンである「ノア」「ヴォクシー」「エスクァイア」も、いまでは全体的にいかつい顔つきに替わっている。こうしたクルマの顔つきは、軽自動車でもメッキ加飾を多用した“ドヤ顔”と評される車種が販売を伸ばす傾向にあり、多くの軽自動車にそうした顔つきの車種が設けられている。

デリカD:5の新しい顔つきは、そうした時代の流れを背負ってもいる。車体寸法は、アルファード、ヴェルファイアや日産自動車の「エルグランド」よりひと回り小型で、ミドルクラスミニバンとなる。したがって、直接的な競合とはならないし、デリカD:5の走破力という独自性はほかのどの競合にも当てはまらない。見比べて選ぶのではなく、指名買いされるミニバンがデリカD:5ということになる。

”顔”のインパクトで消費者への印象づけ

しかしそれでも、新しい顔つきと、都市での利用を主眼としたアーバン・ギアの車種追加により、ほかの銘柄から乗り換えてみようかという誘いになる可能性を持ったといえる。

こうしたいかつい顔の傾向は日本に限らず、ドイツ車でも多く見られる。顔をはっきり見せる手法を最初に採り入れたのはアウディで、2005年の「A6」に採用したシングルフレームグリルがそれだ。BMWも、新型が出るたびにキドニーグリルが大きくなり、メルセデス・ベンツもかつてはスポーツ車種のみだった「スリー・ポインテッド・スター」をセダンなどほかの車種でもグリルに設け、顔つきを強調するようになっている。

この傾向は、デジタル社会とグローバル化という変化の中で育ち、普遍性を持ったのではないか。瞬時に世界情勢を知り、判断し、次へ進む。足踏みするゆとりのない社会が、瞬時に車名を言い当てさせ、存在を知らしめる極端な顔をクルマにもたらした。

またデジタル化は、空気の流れを画面上で模擬する技術を育て、クルマの輪郭で車種の個性を表す造形から空気抵抗の少ない画一化された造形へ向かわせた。そこで違いを示すなら、顔つきの差でしかないだろう。

合理的ではあるが、情緒の薄い世界。それが、先進国を中心としたクルマ離れを加速し、所有から共同利用へ向かわせていると言えなくもない。良しあしではなく、それが時代の変化であり、今の流行であり、クルマという価値が分岐点にあることを明らかにする。

デリカD:5は、そうした造形の流れに一歩足を踏み入れたが、一方で、他に類を見ない走破力という特徴を持つだけに、利便性が満たされればどのクルマでも意に介さない共同利用の合理性ではなく、自ら所有する意味や価値を強く実感させるミニバンだと思う。

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