ベンツ「新旧Gクラス」に見た武骨すぎる凄み

今年の春に39年ぶりにフルモデルチェンジを迎えた「Gクラス」(写真:©Mercedes-Benz Japan)
かつて全日本F3選手権に4年間参戦した五味康隆が、元レーシングドライバーの目線から「絶賛できるクルマ」だけを取り上げる本連載。今回はメルセデス・ベンツ「Gクラス」だ。

今年も暮れようとしている今、2018年の自動車業界を振り返れば、今年も改めて多数の新型車が出て自動車選びに楽しさが出たし、その中でも記憶に強く残るモデルも多数ある。

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SUBARU「フォレスター」のように市場ニーズを的確につかんだ商品や、ホンダ「N-VAN」のようにニーズを満たしつつも新たな提案要素を込めているワクワクするモデル、トヨタ自動車「クラウン」のように往年のイメージを保ちつつも大改革をして乗り味を大幅に洗練させたモデル、日産自動車「ノート e-Power ニスモ」や、ホンダ「クラリティ PHEV」など今までにない乗り味と電気自動車の将来性を感じさせるモデルもあった。そんななか、モデルというより戦略面で記憶に残る取り組みがあったので紹介しておこう。

それはメルセデス・ベンツだ。

メルセデスの強さの裏にあるもの

個人的に強い日本メーカーを求めているので、外資のこの手の要素を取り上げるのも複雑だが、すごいのだから仕方ない。強さの裏には、相応の理由があるということ。なにがすごいって、商品戦略における攻めどころと守りどころが見事すぎる。

たとえば、エントリークラスであり、新しいモノにより積極的にアプローチする比較的若い所有層のいる「Aクラス」のフルモデルチェンジでは、AIの一歩手前、車内およびクラウド上の言語認識データから乗員と会話するように各種コントロールをしてくれるクルマ版スマートスピーカーの搭載など、その進化は見た目を含めて革新的で大きく派手に行われている。

秋口に大きな変更が加えられた新型「Cクラス」では、クルマを構成する半分以上のパーツに相当する6500点以上が新規に起こされたにもかかわらず、オーナーでなければその進化に気がつかないほど見た目を含めてさり気なく進化を遂げた。背景には、比較的に保守的な所有層が多いことと、現オーナーのクルマを古く感じさせない配慮、さらには“いま”そのデザインは市場から強く支持されているので“いじらない”という姿勢がある。

39年ぶりにフルモデルチェンジ

日本のような成長市場ではない縮小市場の勝利には、台数を直接狙うのではなくシェア拡大の発想、もっと言えば、いかに新規を取り放出を防ぐかを効率よく進められる商品展開がなされている。それが1つのモデルとして結実したと見受けられたのが、今年の春に39年ぶりにフルモデルチェンジを迎えた「Gクラス」だ。

クルマに詳しくない方が見たら、「39年ぶり」のフルモデルチェンジを誤字だと思うのではないだろうか。クルマのモデルサイクルは長くても10年前後。短いと4年ほどで切り替わる。そんななかで39年だ。あのスズキ「ジムニー」ですら20年である。

勘違いしてもらいたくないが、途中休止していて結果39年ではない。軍用車として設計されたモデルを、一般的な利用ができるように快適に仕立ててドイツ語でオフロード車を意味する「ゲレンデバーゲン」と名付けて販売(後にGクラスに改名)し出してから、フルモデルチェンジせずにずっと継続販売をして39年間も経った。もちろん装備などを最新に切り替えるなど、マイナーチェンジは要所で施されたが、フレーム部からボディーなどは、一切変更がない。

その根本的な理由は、売れ続けていたから。

その本質は、軍用車であり本格オフロード車ではあっても、所有層やその使用シーンは都会派でありオンロードが多いという特殊性を踏まえると、あの見た目に大きな付加価値がある。だからこそ、安全性など時代要求を満たすためにも進化させないといけないが、進化したことを意識させすぎてはならないという絶妙な進化。以前、老舗の料理店のすごさとして、「昔ながらの味」と言わせ続ける難しさを聞いたことがある。

時代の変化とともに基本となる食が変わり味覚も当然ながら変わっていく中で、そう言わせ続けるために少しずつ手を加えていく。そう、進化していることを気づかせずに、進化させ続けることが、長く続く老舗料理店の難しさだと。

Mercedes-AMG G63(写真:©Mercedes-Benz Japan)

あまり知られていないが、メルセデスはそのGクラスの特殊性から、ハイパフォーマンス部門の「AMG」と同じように、Gクラス専用の部門を立ち上げてほかのノーマルモデルとは一線を画す扱いをしてきた。そう、Gクラスの昔ながらの味を保ちながら、今の価値観のユーザーにも受け入れられる絶妙な進化の裏には、相応の社内態勢がとられていたわけだ。

その特殊性が生み出した1つの特性とも言える現象が今、目の前で起きていることをご存じだろうか。

メルセデス・ベンツのホームページに行き、Gクラスのページを覗いてもらうと、左上に新型Gクラス、従来型Gクラスという表記がある。そう、実は今でもGクラスだけは、従来モデルが併売されているのだ。

クルマに詳しい方はわかるはずだが、従来型の生産は新型が出ると当然として切り替わる。これはGクラスも例外ではないが、Gクラスの場合、最後までフル稼働で生産を続けて余剰分を意図的に造り上げていた。当然、その39年間ものあいだ熟成を重ねてきた従来型Gクラスの数にも限りがあり、それを手にできるタイミングも限られているのだが、その特殊性あふれる選択が見事に感じて仕方がない。

「そもそも新型と従来型、どちらの性能が高いのか?」と言われたら、答えるまでもないだろう。では、なぜ従来型をわざわざ最後まで造り、併売する戦略をとったのか? その答えは、クルマに触れるとハッキリわかる。

まず、見た目では、現行型と新型で共通するパーツは、スペアタイヤカバーとドアハンドル、ヘッドライトウォッシャーノズル、そしてサンバイザーの4点しかない。ほぼすべてが新しくなっているのに、オーナーではない一般的な視点からは、そのフルモデルチェンジの差に気がつかないはず。

まさに老舗料理店のように、進化させながらも、Gクラス特有の武骨で力強さを漂わすアーミースタイルには変化を感じさせず昔ながらの味を確保しているといったところ。これだけであれば、すべてを新型にシフトするはずだが、実は室内および乗り味にはわかりやすい新型感が出ており、ここにさまざまな意見が飛び交っているし、現行型が併売される要因がある。

Gクラスの魅力

筆者はオーナーだったこともあるので、ハッキリ言うが、Gクラスの魅力は他には紛れないそのアイコニックな見た目と、狭い道の走りやすさにあった。もともとオフロードなど過酷な環境を走ることを踏まえて、前方の見切りがよく、車幅感覚などボディの4隅まで意識しやすいスクエア形状にした造りが、都心部などを含めて日本の住宅街などにありがちな狭い道を含めて走りやすかった。

しかも通常のSUV以上に高い運転視点が、さらに狭い道の走りやすさと安心感をもたらすので、知らない人はイメージしづらいかもしれないが、実は運転が苦手な方でも気軽に乗れる特性を備えており、そこも好評ポイントだった。新型ではボディが大きくなり、室内が大きく広くなり、高級車のようにユッタリ乗れるようになったので、好印象を抱くユーザーも大勢いるだろうが、昔ながらの走りやすさの利点を求めるユーザーには残念な一面になっている。

具体的には、従来モデルに対して新型の全長は242mm長い4817mm。全幅は71mm広い1931mm。そして全高はほぼ同じ1969mm。ちなみにホイルベースは40mm広がり2890mm。今はどのモデルも衝突安全への対応と、世界的に人間の体格が大きくなってきたことへの対応から、クルマを大きくしているが、Gクラスもそれに準じた。

とはいえ、乗ってみると新型には従来型の魅力はない。ボンネットの見えやすさや運転視点が高いことによる運転のしやすさはあるが、従来型と比べると、狭い道での走りやすさが劣る。それは当然だろう、全幅が1931mmもあるのだ。

さらに衝撃を受けたのは、普通のクルマのように、運転がしやすくなったこと。前述した内容に反するかもしれないが、従来型のGクラスは基本設計が39年前であることも影響して、プルプル&ブルブル走行振動があることや、ハンドルを切った際に最近のクルマのように操作に遅れることなく俊敏に曲がるなどの特性は少ない。言うなれば、若干癖があり、運転している感や操っている感があり、マニア目線で言えば運転そのものを楽しむことができた。それがもとで高速道路では、AMGモデルであっても飛ばそうという気分にはならず、G550の世界感がとてもGクラスにマッチしていた感覚も持っていた。

従来型のGクラス、G 550(写真:©Mercedes-Benz Japan)

新型はそれらすべてが洗練。一般的なクルマの価値判断であれば、大絶賛で大拍手の進化だ。プルプル振動やブルブル振動はかなり小さく抑えられ、ハンドル操作に対しても遅れることなく素直に反応するし、高速道路の追い越し車線を何の意識もせずに走れる。その乗り味、雑な表現だが広い目線で言うと、メルセデスの大型SUVである「GLS」にも似ており、高級感も漂わせている。

「そうであるなら、荷物も多く積めて後席も広くて、使い勝手も快適性もさらに高い『GLS』でもいいではないか?」と思ってしまうのだ。よりズバリで言うなら、“あの”「ミリタリーのアイコニックな見た目が欲しいという以外、Gクラスに乗る意味がなくなったではないか!」という感覚がある。

従来のファンと、新規客の両方を満たす方法

そのような二分化するだろう新型Gクラスへの判断を予測して、メルセデスは従来型との併売を計画し、いま実行している。今までのGクラスファンは、そのまま従来型で満たしつつ、逆に“あの”アイコニックな見た目に引かれてたどり着いた新規客を“普通の”クルマの乗り味で受け入れて取り入れようという新型の造り込み、見事としか言いようがない。

個人的マニア目線では、新型より従来型のほうが、タフな雰囲気を漂わす武骨感が若干強くあるし、狭い道が走りやすいし、運転している感はあるし、たとえ新型がより多く走り出しても古さ感は漂いにくく、「従来型なのだから安くして」と言いやすいので興味がそそられる。ちなみにAMGモデルを求めるなら、安定感の高い新型のほうがより安心してアクセルを踏めるし走りを楽しめるのでオススメ。

ブランド力の違いはあれど、モデル単体の性能や商品力だけでなく、メルセデスのようなラインナップを通しての商品力のあり方、見せ方を“少し”だけ意識するのも、日本メーカーに求められると言えそうだ。

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