ソフトバンク通信障害が映すスマホ社会の罠

12月6日、ソフトバンクの通信サービスで4時間半にわたって通信障害が起こった。写真は11月5日の2019年3月期第2四半期決算説明会でのソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義氏(撮影:今井康一)

12月19日に上場を予定しているソフトバンクの通信サービスに約4時間半にわたって全国的な通信障害が発生した。

同社発表によると、12月6日午後1時39分ごろから午後6時4分までの間、ソフトバンクおよびワイモバイルの4G(LTE)携帯電話と固定電話、家庭用WiFiサービスが利用できない状況が発生していた。原因調査の結果、LTE基地局を制御する装置(MME)の不具合と判明。

ソフトバンクは「パケット交換機」と発表しているが、障害を起こした機器について開発元のエリクソンは「SGSN–MME」としており、通信の両端にあるLTE基地局同士を結びつけたり、異なる基地局をまたがって移動しながら通信する際の調整を行う「制御装置」という表現が正しい。

障害の原因はエリクソンの“ポカ”

エリクソンによると、MMEを構成するソフトウェアの証明書に齟齬(おそらくは一部の証明書が古く有効期限が切れる寸前だった可能性が高い)があり、グローバルで同じバージョンのMMEが同時に停止した模様だ。MMEが機能しなくなると、LTE基地局および基地局を結ぶ通信網が健全であったとしても、機器同士の通信は行えなくなる。

このため、英国でも同時刻に通信会社O2が同様の障害を引き起こしたほか、世界11カ国で同様のトラブルが同時多発的に発生したとみられている。しかも一部のMMEが障害を起こすといった一般的なITシステムがダウンするケースとは異なり、東京と大阪のデータセンターに配置されているMMEが(おそらくすべて)同時にストップしたという点で、極めて特殊な事例だ。

しかも、こうした“同時かつ広範囲”に通信網がダウンする事例が、電子証明書の齟齬という極めて初歩的と推察されるミスで引き起こされた。この障害事例は複雑ではない。まさに“ポカ”と表現されるような、エリクソンのミスだ。

言うまでもなく社会全体に浸透している無線通信網だが、それらが失われたとき、社会がどのようになってしまうのか。完全に通信手段がなくなったとき、どのような影響があるかは、これまで想像力に頼るほかなかった。

しかし、今回のトラブルで多くの人が“新型都市災害”とも言える通信網のダウンを経験し、そのリスクがあらためて認知されたという意味で、何度も振り返られる歴史的な事例になるだろう。

計り知れない「トラブルの影響範囲」

単に連絡が取れない、メールが送受信できないといった通信トラブルは、たとえばスマートフォンを持って出るのを忘れただけでも体験することは可能だ。以前ならば目的地までの地図や電話番号をメモ、あるいは印刷して出かけていたものだが、スマートフォンの時代になってからは、多くの人が地図ソフトなどのネットワークサービスに依存した生活スタイルを送っている。

昨日のトラブルでビジネス、プライベートに限らず、情報や各種サービスへの接点を失い、気息奄々の気分を味わった読者も多かっただろう。2013年、KDDIが同様のトラブルを引き起こした際には地域性があったが、今回は全域にわたるダウンだったからだ。

しかし、その影響範囲は個人の通信手段が失われるという単純なものではない。

昨日は電子発券のコンサートチケットをはじめとした、ネットワークサーバー上で生成される電子チケットのコードを取得できなくなるといったトラブルが発生し、SNSなどを通じて悲鳴が上がっていたが、無線通信網はいまや社会全体に組み込まれている。

宅配業者が用いている業務用端末が突然、通信できない状態になれば荷物の集配に影響を及ぼすのは当然だろう。しかし、リスクは目に見える端末の形にとどまらない。

たとえばFeliCaへのチャージが行えなかったりLINEやPayPayなどを用いた決済ができないといった、電子マネー社会における決済システム停止といったリスクも“頭ではわかっている”という読者は多いはずだが、実際に多くの人が体験したことでリスクに対する意識は変化したに違いない。

LTEあるいは2020年以降に開始する5Gでは、高速通信を必要としない端末向けに低電力消費・低コストの通信サービスが提供可能となるため、多様なデバイスが利用者が意識しないまま接続される。

社会全体がネットワーク化され、その歩みは加速することこそあれ、ゆるむことはない。データ通信の遅延が極めて小さい5Gでは、無人車両やドローンによる空飛ぶタクシー、宅配などが普及していくと考えられる。すなわち今後、無線通信網のトラブルは移動体へと広がり、交通網へと広がる。

SF小説やアニメでは、通信ハッキングを受けて自動運転車が一斉に停止し交通網が大混乱に陥るといった描写がされることもあるが、そうした事態はもはや空想世界の出来事ではなくなるということだ。

次世代携帯電話網における大規模な通信障害は、大袈裟でもなんでもなく、まさに「新型都市災害」となってしまう可能性がある。

もちろん、行政機関やサービス、製品などを生み出している企業は、高度なネットワーク社会の実現に向けてリスクの洗い出しを行いつつ、障害時対策を練ってはいる。しかし、5Gではこれまでの事例にはない応用分野が増えていくため、必ずしも従来の経験を活かせないケースも出てくるだろう。

社会のネットワークへの依存度が高まる一方で、経験値の低い応用分野でのリスクの幅が広がっていくということだ。

「サイバー攻撃」のケーススタディに

米国は安全保障の観点からZTEやファーウェイといった中国製通信機器を排除しているが、今回のケースは“通信インフラを支える機器が乗っ取られた場合”に、どのようなことが起きる可能性があるのか、はからずも、通信セキュリティのリスクをシミュレーションすることにもなった。

まだ社会的影響が限られている時期に、欧州メーカーであるエリクソンのミスによって、通信事業に関わる人だけではなく、さまざまな立場の人が今回の大規模通信障害を経験し、どのようなことが起きるのか想像力を働かせることができたことは無駄ではない。

これから始まる5G社会。グローバルで国としての競争力を高めていくには、国全体を挙げて社会イノベーションへと取り組んでいかねばならないことも事実だ。

今回のネットワーク通信障害が、今後さらにネットワーク化される社会が持続的に発展する方法を考えるきっかけになるならば、障害による損失を超えて社会全体が一歩前に進むことができるだろう。

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