義父母を介護した嫁が相続で得る権利の中身

資産家だけでなく多くの人にもかかわる(イラスト:北沢 バンビ、デザイン:熊谷 直美)

「ウチは資産家ではないから遺産が少なく、相続で争うことはない」

「わが家は家族が少ないから、相続は話し合いできちんと解決できる」

そう考える家庭も多いだろう。だが、司法統計によると、相続をめぐって遺族で争う、いわゆる「争族」の75%は5000万円以下の遺産をめぐって起きている。また家庭裁判所の調べによると、争いの半分は相続人3人以下だ。

遺産や家族が少なくても「争族」は起こりうる

「遺産が少ない」「家族が少ない」からといって起こらないとはいえないのが、争族の現実だ。

今年7月の民法改正で相続に関する法律が変わった。改正は1980年以来、約40年ぶりで、来年1月から順次施行される。争族の新たな火種にもなりかねない。

10月1日発売の『週刊東洋経済』は、「相続が変わる 40年ぶりの大改正」を特集。多くの人にとって、相続はいつか来るもの。改正法の8つのポイントをとことん解説した。

義理の父、母を介護しても相続で報われない──。そんな事例を解消するのが、今回の法改正における目玉の一つである「特別の寄与」だ。

今回の法改正では、目玉が大きく3つある。

1つ目が、「配偶者の権利を拡大したこと」(染井さくら法律事務所の岩田修一弁護士)だ。残された妻などが自宅に終身住み続けられる「配偶者居住権」という権利を導入。さらに婚姻期間が20年以上の夫婦なら、相続人(遺産を受け取る人)で分ける遺産の対象から自宅を外せるようにし「配偶者は生活の基盤を保ちやすくなる」(同)。

2つ目は、自筆の遺言書だ。「不動産や預貯金の一覧である財産目録を、パソコンで作れるようになる。従来は手書きでないといけないので高齢者には負担だった」(遠藤家族信託法律事務所の遠藤英嗣弁護士)。法務局で遺言を預かる制度も始まり、改ざんや紛失のおそれがなくなる。

そして3つ目が、義理の両親を介護した際、金銭で報われる点だ。長男の妻などが義父母の介護に尽くしても、相続人ではないため「遺産の取り分を請求する権利がこれまでなかった」(法律事務所おかげさまの外岡潤弁護士)。だが今後は、貢献度に応じて「相続人に『特別寄与料』として請求できるようになる」(Y&P法律事務所の平良明久弁護士)。
これらの中身について一般的に疑問を覚えそうなポイントをQ&A方式でまとめてみた。

Q)「特別寄与料」とはどういった制度ですか。

A) これまでも相続人に限って「寄与」という考えはあった。介護の貢献度合いに応じ、寄与分という形で相続額を増やすという場合だ。

たとえば、相続人が長男と長女だと仮定する。長女が母の介護に貢献したならば、貢献分を考慮し、長男よりも相続額を多くするという考えだ。

だが、相続人でない長男の妻は、寄与料を請求できなかった。

今回の法改正では、「特別寄与料」を請求できるのは「被相続人の相続人でない親族」と定められている。「親族」とは6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族を指す。

嫁は介護の貢献分の請求可能に

したがって、子の配偶者である「嫁」は「相続人でない親族」となり、介護の貢献分を請求できるようになる。

たとえば夫である長男の父を介護した妻のケースだ。改正前は長男の妻がどれだけ義父の介護に貢献しても、相続人ではないため、遺産を受け取ることはできなかった。しかし「特別の寄与」という仕組みができた法改正後は、介護の貢献分を相続人に請求できる。

これまで嫁の立場では義理の親を介護しても、法律上は何の報いもなかった(写真:kazoka30/iStock)

特別寄与料を200万円と仮定した場合、相続人である夫(長男)と長女に対し、計200万円を請求できる。法定相続分で割った100万円ずつが夫(長男)と長女の相続額から減る。

また、長男である夫がすでに故人となっていた場合も、残された妻はどれだけ義父母への介護で尽くしても、相続人でないため遺産を受け取ることができなかった。しかし法改正をきっかけに、夫(故人)の妹など、相続人から特別寄与料を受け取り、介護への貢献が報われる可能性がある。

Q)「特別寄与料」を請求するための注意点は?

A)まずは介護日記などの記録を残すこと。介護事業者との連絡ノート、電子メールなどでのやり取りを保存しておくのも有効だ。

また介護を受ける被相続人と近い関係にある介護者は、相続開始時に「使い込み疑惑」などぬれぎぬを着せられ、家族から追及される可能性もある。自分のために出してもらった金品があれば、その記録を取るのも大切だ。

おむつ代や交通費など実費については寄与分とは別に請求できる可能性がある。こちらもレシートなどの記録を極力残すことだ。

Q)介護で貢献すれば、寄与分は必ずもらえる?

A)そうでもない。実際には、特別寄与料という制度ができても、請求すれば金銭を受け取れるとは限らない。法改正前の寄与の認定も、ハードルは高かった。

なぜなら相続人は「一定程度の扶養義務」を負っているからだ。法律上、ある程度の貢献はしてしかるべきとされている。

寄与分が認められるためには、「被相続人の財産の増加、維持に貢献した」かが重要。しかし財産の増加、維持にどれだけ貢献したかを証明することは困難だ。

また「無償で労務を提供する」という条件も必要になる。お見舞いに行ったり、介護の手配をしたり、付き添いをしたりという程度では難しいと判断されてしまう。

デイサービスや訪問介護を利用しているにもかかわらず、特別に寄与したと主張できるかは難しい。ほかにも被相続人が「要介護2以上の状態」、妻が「1年以上」介護に携わるなども目安になる。

一方で被相続人が施設に入れず、自宅での介護を望んだ結果、介護者が仕事を辞めざるをえなくなったという場合なら認められる可能性がある。金額としては、療養介護の日当分に日数をかけた数字が一つの目安だ。過去には数百万円が認められた例がある。

今回の法改正で対象は広がったとはいえ、ハードルが低くなったわけではない。依然として残る高いハードルが課題だ。

配偶者への権利発生で逆に「争族」は増えるかも

これまで相続人ではない妻は、家族の中で外野の位置づけで、相続の話し合いに入ることができなかった。夫である長男が家族と話し合い、妻の貢献分の見返りとして自身の相続額を増やしてもらうよう交渉する必要があった。

しかし、法改正により特別寄与料という制度ができたことで、配偶者の貢献について話し合うきっかけになる可能性が高まる。配偶者による介護に報いる方向へと進んだ点は評価できる。

ただし配偶者が相続の話し合いに参加しやすくなったことで、今まで以上に「争族」が増えるかもしれない。また相続紛争が長期化する可能性があるのも、法改正に伴う注意点として相続にかかわる人々は認識する必要があるだろう。

『週刊東洋経済』2018年10月6日号(10月1日発売)の特集は「相続が変わる 40年ぶりの大改正」です。

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