川崎市で筋金入りの軍事見本市をやる危うさ

8月29日、30日に川崎市の「とどろきアリーナ」で開催される「ISDEF(イスラエル防衛および国土安全保障エキスポ) 」の中止を訴える川崎の市民団体(筆者撮影)

東京オリンピックまで残すところ2年を切った。大規模な運営ボランティアの募集やサマータイム導入の是非、熱中症対策など、オリンピックに向けた準備が進むにつれてある問題が発生し、波紋が広がっている。

「問題」となっているのは、今月29日と30日に開催される軍事・防衛見本市「ISDEF(イスラエル防衛および国土安全保障エキスポ) 2018」である。会場となっているのは神奈川県川崎市の公共文化・スポーツ施設「とどろきアリーナ」だ。

国際的に広がるイスラエル「ボイコット」運動

「ISDEF」は軍事見本市を開催しているイスラエルの民間組織。この10年間で7回、同国の首都テルアビブで大規模な展示会を行ってきた。2016年にはロシアで開催しているが、これがイスラエル国外で実施されたはじめてのイベントだった。つまり日本での開催は、2度目の国外展示会ということになる。

これに「反対」の声を挙げたのが、「川崎でのイスラエル軍事エキスポに反対する会」などの市民団体だ。同団体が7月17日に川崎市に提出した公開質問状では、イスラエルの度重なる武力行使による殺傷と破壊を問題視。「戦争に明け暮れるイスラエルの軍・安全保障装備は、国を代表する輸出品となった」とし、日本で開かれる今回の見本市は、こうした装備品を売り込む絶好の機会になると危険視しているのだ。

実際、国際社会においてイスラエルとその軍事産業は強い非難にさらされている。2007年以降、パレスチナのガザ地区では3度の大きな戦闘が行われており、特に2014年には2000人以上が亡くなっている。

さらに、今年3月30日から「祖国帰還を訴える大行進」デモで、イスラエル当局の発砲により5月31日時点で1万3000人以上が負傷、128人が死亡している(「ISDEF 2018」出展企業の1つである「マガール・セキュリティ・システムズ」のサアル・クルシュCEOは「(ガザおよびヨルダン川西岸は)当社の製品の展示場になっている」とブルームバーグの取材に答えている)。

こうした中、欧州ではBDS(ボイコット、投資撤収、制裁)という対イスラエル・ボイコット運動が盛り上がりを見せている。BDS自体は2005年から行われているが、「無抵抗なデモ隊への相次ぐ発砲」というショッキングな出来事に対し、世界中で反発が起きているのだ。

ところが、日本ではこの運動の知名度は低く、2010年12月に無印良品がイスラエルへの出店を見合わせたのと、2018年2月にホンダがパレスチナ占領地で行う予定だったレースの会場をイスラエル領内に変更した程度の実績しかない。

2014年4月に、安倍晋三政権が武器輸出三原則などを変更し、「防衛装備移転三原則」を決定して以来、日本ではこれまで「MAST Asia 2015」(海軍関係の武器見本市)や「国際宇宙航空展2016」など、3回の武器などが展示された見本市が開かれている。「MAST Asia」はイギリスの民間企業「MASTコミュニケーションズ」が主催する軍事見本市で、2006年から開かれているが、日本での開催は欧州域外では初となる試みだった。

一方、「国際航空宇宙展」は1966年から数年に1回(近年は4年に1回)行われている社団法人日本航空宇宙工業会の催し。あくまで「航空宇宙分野の国際展示会」という建前があるため、表だって兵器の展示をアピールすることはない。実際、日本ブースは武器より航空宇宙関係の比重が明らかに高いが、海外ブースはメイン展示が武器であり、とりわけ2016年の海外ブースは露骨な「武器見本市」状態だった。

「オリンピックは商機」と見る向き

すでに報道されている通り、日本はオーストラリアの潜水艦受注競争に参加するなど、アジア太平洋地域への武器輸出を始めようとしている。「ISDEF」はこうした状況下で開かれるわけだ。

もう1つ「動機づけ」となるのが、東京オリンピックだ。単純比較はできないが、実際にロシアで「ISDEF」が開かれたのも、サッカーロシアワールドカップの2年前である。「ISDEF」が影響した訳ではないだろうが、開催時は警備に約530億円をかけ、ロシア軍や治安機関が10万人動員されるなどその過剰なまでの警備が話題となった。

今回、日本での「ISDEF」もやはり五輪開催の2年前である。警視庁はこうした大規模なスポーツ大会における警備の重要性を鑑みて、応援も含め2万数千人の警官の配置を計画。さらにセコムと綜合警備保障(ALSOK)など主要警備会社14社で共同企業体(JV)を組織し、会場周辺の警戒に当たるという。

政府は、オリンピックが開かれる2020年には、訪日外国人を4000万人に増やしたいとしている。当然、警備強化は最重要課題の1つになっているはずだ。

こうした微妙な状況の中、ISDEFは開かれる訳だが、後援するイスラエル大使館はどう考えているのだろうか。同大使館に問い合わせたところ、「ISDEF Japanは安全保障をテーマとした展示会および講演会であり、東京オリンピック2020やパラリンピックといった大規模イベントの参加者を守るための知識や技術の共有に焦点を当てております。このイベントはイスラエルと日本の企業、および国際企業が出展し、そのような重要なイベントの安全性の向上に関連する日本の市場を対象にしております」と、通り一辺倒な回答が帰ってきた。

イスラエル大使館や主催者側は、オリンピックに商機を見出しているようだが、イスラエルに対する非難が高まる中での実施は、日本や参加企業の対外イメージを損なうリスクもある。本稿執筆時点では出展企業は公表されていないが、イスラエル、エストニア、イギリス、カナダ、イタリア、日本の6カ国からなる匿名の46社だと伝えられている。

日本では少なくとも、イスラエルSCD社の日本代理店であるアイ・アール・システムと、マガール・セキュリティ・システムズやセンスターなどの製品を扱う輸入代理店、エム・エー・ジェーが参加予定である(両社ともホームページ上で公表)。

ソフトバンクは参加を取りやめた

一方、ISDEFのゴールドスポンサーだったソフトバンクは、同社に対する反発の声が高まりを受けてか協賛を取りやめた。このほか、ソフトバンク社員によるプレゼンテーションも行わないことにしたという。

8月27日には、ソフトバンク本社前でISDEFへの不参加を訴える抗議活動が行われた(筆者撮影)

開催会場となる「とどろきアリーナ」を抱える川崎市は、京浜工場地帯があるがゆえに長年公害に悩まされてきた歴史があるため、市民運動が盛んな土地柄だ。そんな町で「ISDEF」が開催されるに至った背景は明らかになっていないが、理由の1つとして考えられるのは、首都近郊のほかの会場で断られた可能性である。

今回の「ISDEF」はあくまでもオリンピックをターゲットとした見本市である。兵器を展示するのではなく、あくまでも公式上は「テロ/サイバー攻撃対策の装備展」ということになっている。とはいえ、出展者の大半は軍産企業だ。さらにイスラエルは武器輸出国の上位10位に入る軍需大国。公共の施設を貸し出す自治体の側には懸念はないのだろうか。

8月2日の定例会見で福田紀彦市長は、軍事技術と抜きがたい関係にある展示への不安を表す市民の声に対し、「使用の規定に反しない限り、原則として申請があれば市の施設は貸し出す」と回答。とどろきアリーナの使用規定で「危険物の持ち込みは禁止」となっているが問題はないのか、という質問には「主催団体から武器の展示はないと聞いている」と答えた。

こうした回答に対し「川崎でのイスラエル軍事エキスポに反対する会」の杉原こうじさんは「形式的な判断にとどまり、戦争犯罪と一体の軍事システムの一環という本質を見ていない。平和を掲げる自治体が公共施設を会場として提供するなどありえない」と納得がいかない様子だ。

同団体が提出した前述の公開質問状に対して、とどろきアリーナを管轄する川崎市中原区地域振興課は、「安全対策の出展であり、武器などの危険物は持ち込ませないので問題ない」との回答書を返送。これに対して、杉原さんは「露骨な武器の展示はなくとも、監視などの技術がイスラエルによる戦争犯罪を通して開発され、殺傷や抑圧を目的とする軍事システムの一環であるという本質は何ら変わりません」と反発している。

杉原さんらはすでに今月16日、利用許可の取り消しを求める要求書と4631人分の反対署名を市役所に提出。行政のみならず主催団体にも開催中止を要請していく考えだ。

川崎市は、公害問題だけでなく、近年は外国人との共生など人権問題にも目を向けている。その成果か、2006年には日本の自治体で唯一「国連グローバルコンパクト(UNGC)」に参加した。「グローバル・コンパクト」は2000年7月にニューヨークの国連本部で正式に発足。人権の保護、不当労働の排除、環境への対応、そして腐敗の防止に関わる10の原則を軸に、参加団体が自発的に取り組む運動である。

国内ではオリンピックまでにあと2つ軍事見本市が

「人権を侵害するサプライヤーからものを買わない、プロモートしない」が原則のグローバル・コンパクトの理念に照らし合わせると、今回の川崎市の動きには首をかしげざるを得ない。

2016年7月にメディア各社が報じたように、防衛装備庁はイスラエルとの無人偵察機(ドローン)共同開発を進めている。この報道の時点ですでに両国の防衛・軍需企業に参加を打診しており、準備は最終段階に入っているとされた。この流れは2015年1月に安倍首相が欧州によるBDSで苦しむイスラエルを訪問して以来つづいているものだ。

思えば2015年の「MAST Asia」は、防衛省、経済産業省に加えて外務省も後援するイベントだった。「ISDEF 2018」には日本政府の表だった仲介はないが、何らかの形で援護射撃が行われている可能性はある。オリンピックという4年に1度のお祭りの先は、その裏にとんでもない動きを抱えているのかも知れない、と思わせる事態だ。

ちなみに、2020年までにあと2つ、武器の展示も行われる見本市が開催される予定となっている。1つが、今年11月末に東京ビッグサイトで開催される「国際航空宇宙展2018」。もう1つが、来年6月半ばに幕張メッセで開かれる「MAST Asia2019」である。国際世論が反イスラエルに傾く中、日本ではオリンピックの警備の在り方も含めて真剣な議論が必要なのではないか。

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