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「貯蓄型保険」には入らないほうが良い理由

「掛け捨ての保険はムダだから、貯金もできる貯蓄性保険がお得」。この考えは正しくない(写真:Fast&Slow / PIXTA)

今回のマネー相談は、ズバリ「貯蓄性の保険でおカネは貯まるのか」です。貯蓄性保険にも終身保険や老後資金を考えた個人年金保険などいろいろありますが、一般的には普通の保険ほど手厚くはないにせよ、病気など万一のときに保障が受けられます。さらに銀行に預けるより利息もつくため、「一石二鳥」として人気保険商品の一つです。この連載でも別の記事の途中で扱ったことがあるのですが、お問い合わせが多いので、今回はすべてのページを使って説明したいと思います。例によって、ケーススタディの年齢が読者の皆さんと一致しなくても大丈夫ですので、早速見ていきましょう。

「貯蓄性保険」加入なら「実質保険料なし」は本当?

相談に来たのは後藤雅之さん(40歳・会社員・仮名)と妻の里佐子さん(26歳・会社員)。現在のところ、子供はいません。1年前、結婚をしたのを機に、生命保険に加入しました。雅之さんには「掛け捨ての保険は損」という先入観があり、訪れた保険ショップで、勧められた「終身保険」と「個人年金保険」に入りました。

里佐子さんも同じ保険に加入。さらに14歳の「歳の差婚」なので「夫の亡き後も困らないように」と、里佐子さんはもう1つ終身保険を勧められて加入しました。後ほど詳しく説明しますが、2人が入った保険は終身保険3つ、個人年金保険2つの計5つ。年間の保険料総額は、2人で約95万円です。現在の後藤家の家計の手取りは年収570万円なので、95万円は年収の約17%にあたります。

岩城:保険ショップに行って、「貯蓄性の保険に入りたい」とおっしゃったのですか? 保険料がずいぶん高いと思いませんでしたか?

雅之さん:以前、掛け捨ての保険に入っていたこともあるのですが、掛け捨てはなんとなく損をした気分になります。保険料は、確かに高いと思いました。でも返戻率が100%以上なので、実質の保険料負担なしで、保険を持つことができると言われて、「なるほど」と思ったのです。事実上の定年である65歳くらいになったら、解約してもいいかなと考えています。

岩城:今、雅之さんがお持ちの終身死亡保険は、保険金額が1000万円で、保険料の払い込み満了は65歳ですね。確かに65歳時点での返戻率を見ると103.7%です。払込保険料は、総額で約780万円。65歳のときに解約すると、解約返戻金が約810万円です。つまり、「その間、実質的な保険料の負担がなく保障が受けられるし、おカネまで貯まるのでお得」であると、そういうことですか?

里佐子さん:はい。勧められたとき、おカネが貯まるから、子供が生まれて学費が必要になれば解約すればよいと言われまして。「ちょっと保険料が高いな」と思ったのですが、貯蓄と思えばいいと考えたのです。でも、岩城さんは先日この連載の「30代夫婦は65歳までいくら貯めればいいのか」の中で「終身保険でおカネは貯まらない」という記事を書いていましたよね。読んで、「あ! ウチと同じだ」と、不安になって。しかも、うちは、「個人年金保険」にも入っていますし、保険に入ってからこの1年間、ほとんど貯蓄ができませんでした。

岩城:わかりました。まずは、「人生設計の基本公式」(下記)を使って、最も大事な必要貯蓄率を出すところから始めましょう。人生設計の基本公式とは、連載の初回「あなたの人生におカネはいくら必要なのか」でも説明しましたが、初めての方はもちろん、誰でもすぐに人生のマネープランがわかる公式なので、毎回復習しましょう。

ひとことで言えば、老後を「65歳以降」と定義したうえで、「現役時代の何割の水準で生きるか」を決め(平均は7割)、現役時代(たとえば65歳)までに貯めるべき「必要貯蓄率」(手取り収入に占める割合)を割り出すことです。イメージをつかむには過去の記事「あなたは65歳までにいくら貯めればいいのか」をお読みになると、30秒で自分が貯めるべき額もわかるし、すぐにコツがつかめると思います。

後藤家の必要貯蓄率はいくらになるのか

後藤さんご夫妻は、年齢差があり、里佐子さんはまだ20歳代ですので、定年後から何年生きるかという「老後年数」を35年くらいにしておいたほうがよいのですが、ひとまず、雅之さんの老後年数を30年(95歳まで生きる、里佐子さんは81歳までと仮定)として、出してみましょう。

さて、人生設計の基本公式と後藤さんの条件を整理します。

人生設計の基本公式

後藤家の内訳は以下です。

夫 後藤雅之さん(40歳)会社員
妻 里佐子さん(26歳)会社員


家計の今後の平均手取り年収(Y)650万円
(現在の手取り年収は570万円ですが、残りの現役時代の年数も考え、これからもらえそうな年収を考えて記入します)
老後生活比率(x)0.6倍(65歳になったら、現役時代の何割程度の生活水準で暮らしたいかを設定します。後藤家は6割で設定)
年金額(P)195万円(2人とも会社員なので、それぞれ「年収の3割」を軸に計算)
現在資産額 150万円(今保有している貯金などに、退職一時金の見込み額を加算した金額で計算)
老後年数(b)30年(雅之さんが95歳、里佐子さんが81歳までと仮定)
現役年数(a)夫25年 妻39年(夫、妻とも65歳定年で計算)

さて、後藤家の必要貯蓄率(年間の手取り収入に占める貯蓄率)はいくらになるでしょうか? 見てみましょう。

岩城:人生設計の基本公式にあてはめると、以下のように、必要貯蓄率は20.39%と出ました。570万円×20.39%ですから、年間約132万5000円。月額にすると約11万円の貯蓄が必要です。しっかり頑張っていかなければならない金額ですね。

後藤家の必要貯蓄率

終身保険と個人年金保険はこのままでいいのか

岩城:必要貯蓄率(あるいは月々の必要貯蓄額)がわかったところで、入っている保険はこのままでいいのか考えていきましょう。

まず、お2人の終身保険(計3本は以下のような商品です。整理してみます。

雅之さんの終身保険① 保険金額1000万円
年間保険料約30万円を65歳まで支払う
65歳時点返戻率103.7% 65歳時点までの平均利回り0.109%

里佐子さんの終身保険② 保険金額1000万円(加入時25歳)
年間保険料約27万円を保険料46歳まで支払う
46歳時点返戻率113.7% 46歳時点までの平均利回り0.689% 

里佐子さんの終身保険③ 保険金額300万円
年間保険料約5万7000円 保険料60歳まで支払う
60歳時点返戻率106.8% 60歳時点までの平均利回り0.189% 

岩城:この終身死亡保険を、たとえば、20年後に、子供さんの大学資金のために解約するとなるとどうなるでしょうか。表のように、すべて大きく元本割れします。里佐子さんの終身死亡保険は加入時が25歳なので、20年後の45歳に解約すると、たった1年の差で掛けた保険金の78.7%しか戻ってこないことになります。

里佐子さん:うわ。確かに元本割れですね。これだと、普通に貯金していったほうがいいですね。

岩城:終身保険③には、保険設計書に、「特定疾病保険料払込免除特例の払込免除事由に該当した場合」というシミュレーションがありますね。これは、もし、対象となる特定疾病になったら、以降の保険料は支払わなくてもよい、と書いてあり、その場合の経過年度時における解約返戻金額が記されています。これも説明を受けましたか?

里佐子さん:はい。「もし20年後に、3大疾病になった場合、払込保険料はこの114万7440円ですが、解約返戻金額は181万2900円になる」と言われました。やっぱりお得かな……と。

岩城:45歳になったとき、里佐子さんが3大疾病になる確率は低いでしょうし、「あたかもそうなると得なのだ」という説明はミスリードで、失礼な話です。冷静になって考えれば、このようなことが、保険選択のひとつのポイントになるなどということはばかげているとわかりますが、プロだと認識する相手から熱心に勧められると、納得してしまうんです。

岩城:次に個人年金保険を見ていきましょう。個人年金保険とは、老後資金の準備を目的にした保険です。初めから年金総額が確定している確定年金保険や、運用の実績によって年金額や解約返戻金額が増減する変額年金保険などがあります。共に、万が一のときには死亡保険金を受け取ることもできます。

お2人が入った保険を見ていきましょう。まず雅之さんの保険ですが、10年確定年金で、65歳から74歳までの10年間、毎年60万円受け取れます。

雅之さんの個人年金保険④
年間保険料約21万3840円を65歳まで支払う
65歳時点107.9% 65歳時点までの平均利回り0.311%

岩城:里佐子さんの個人年金保険も10年確定年金で、65歳から74歳までの10年間、毎年57万円受け取れます。

里佐子さんの個人年金保険⑤
年間保険料約10万2528円を65歳まで支払う
65歳時点129.2% 65歳時点までの平均利回り0.687%

雅之さん:個人年金保険は、所得税控除があって得だと言われました。

岩城:確かに、所得税控除として毎年4万円、住民税控除として毎年2万8000円の個人年金保険料控除を受け取ることができます。

しかし、老後資金を貯めることが目的なら、個人型確定拠出年金制度(iDeCo)のほうが、税制優遇が大きいですよ。掛け金は全額所得控除になり節税できます。雅之さんの場合、掛け金の限度額いっぱいの年27万6000円を20年間積み立てていくと、積立総額は552万円です。所得税・住民税合わせて20%とすると(復興税は除く)、年に5万5200円の節税になります。20年分で110万4000円です。

また、仮に、4%で運用できたとすれば、運用期間中は非課税ですので、複利で増やすことができて、試算上は約822万円になります。先の節税分を加算すれば、約932万になりますね。里佐子さんは、60歳まで34年間もあるので、さらに大きくおカネを増やすことも可能でしょう。おカネを増やすには、おカネの置き場所が重要なのです。出口も税制優遇されていますし、はっきり申し上げて、使わないと損ですよ。

雅之さん:65歳まで保険料を払い続けて40万円しか増えない保険よりも、個人型確定拠出年金のほうがよさそうだ。保険は解約しましょうか。

保険をやめ、iDeCoやNISAで貯蓄をする

岩城:今お持ちの保険は、「払い済み」にできるか聞いてみてください。もしできなければ、残念ですが解約し、今払っている保険料の95万円をまずしっかり貯蓄に回すことにしましょう。年間の必要貯蓄額は132万5000円ですので、まだ足りません。支出を抑え、月に43万円で生活するようにすれば、必要な貯蓄はできます。

では、年132万5000円をどう貯めればいいでしょうか。お2人それぞれ、ネット証券でiDeCoに加入して、限度額の27万6000円を拠出しましょう。2人で55万2000円ですから、132万5000円の残りの77万3000円は、ひとまず普通預金で貯めていきましょう。

年間の目標とその手段がわかったので、次の「目標数字」は、貯金額として285万円を貯めることです。これは「生活費」(手取り年収)の半分の額です。生活防衛資金として、手取り年収の半分程度の額が貯まれば、何かあったときに、取りあえずは対処できます。この額が達成できたら、それ以降、貯まったおカネは、NISAで運用したらよいでしょう。生命保険は、お子さまが生まれたときにまた考えましょう。

雅之さん:わかりました。支出を見直し、ちゃんと貯められる家計にします。

里佐子さん:iDeCoも早速手続きします。