円安是正「為替相場の過度な変動、これからも必要があれば対応」…神田真人財務官

インタビューに応じる神田財務官(財務省で)=青木久雄撮影

 6月15日に閉幕した先進7か国首脳会議(G7サミット)では、ロシアの凍結資産をウクライナ支援に活用する方針などで合意した。神田真人財務官に、議論の前提となった問題意識を聞いた。企業ではなく、財務省の事務方トップに話を聞く番外編とする。(聞き手・鞍馬進之介)

ロシア凍結資産活用「条件整えば資金出していく」

 ――G7サミットの成果と、ロシアの凍結資産の活用について。

 「ウクライナや中東における地政学リスクに加え、新興国やグローバルサウスの台頭、政治情勢など、世界では様々な構造変化が起こっており、難しい環境の中で、各国が結束して、様々な事項で合意できたのは有意義だった。

 ウクライナのための500億ドル規模の融資の枠組みを年末までに創設することで一致できたのは、戦況が厳しさを増す中で、大きな意義があった。国際社会に対して、G7で連携しながら、厳しい対露制裁と、強力なウクライナ支援を継続する姿勢を変わらずに示すことができた。

 日本としては、融資を巡る条件が整えば、資金を出していく考えだ。引き続き、G7での議論に積極的に貢献し、具体的な対応について検討を続けていきたい」

 ――中国を念頭に置いた、過剰生産について、日本はどのような問題意識で臨んだか。

 「経済安全保障やルールに基づき、開かれた貿易体制の重要性を強調してきた。世界経済のさらなる発展のためにも、中国が公平な競争条件を確保して、真に透明で予見可能なビジネス環境を整えることは不可欠だ。

 これからも、G7を含む関係国と緊密に意思疎通を図り、動向に注視して、中国には大国としての責任を果たしてもらうよう、働きかけることが重要だ。いきなり制裁をかけるというのではない」

AI、大きな可能性秘めるがリスクも

 ――AI(人工知能)については、広島プロセスを進展させ、共同声明にも盛り込まれた。

 「議長国のイタリアが重視していただけでなく、数年前からほかの主要会議でも議題になっている。科学技術だけでなく、経済を始め、様々な観点があると思う。AIが格差を拡大するのか、縮小するのか。労働市場でも、人間の仕事を取り上げるのか、新しい仕事を作るのか。今回も非常に有意義な議論があった。

 一言でいえば、AIは本当に大きな可能性を秘めているが、偽情報の拡散もある。サイバー攻撃のリスクもある。AIに人間がコントロールされたら意味がない。活用するには、リスクを十分に管理し、人間を中心に据えつつ、便益を最大化していくことが何よりも重要だ。国際金融機関とも協力し、AIがマクロ経済に与える影響の評価も後押ししたい」

 ――円安を是正するために、4~5月に円買い・ドル売りの介入を行った。市場に対するメッセージや効果は。

 「投機などを背景にした為替相場の過度な変動に対して、安定を図るという目的に照らして、かなりの効果を上げたと考えている。

 円買い介入の原資は、約200兆円の外貨準備が基本だが、それに限られるわけではまったくない。過度な変動に対して、必要な対応を取る上で、資金に限界はないという認識だ。これからも、為替市場の動向をしっかりと注視し、必要があれば対応していきたい」

 ※インタビューは6月20日に行いました。

  ◆神田真人氏(かんだ・まさと)  1987年東大法学部卒、大蔵省(現財務省)入省。主計局次長や総括審議官、国際局長などを歴任し、2021年7月から財務官。過度な円安を是正するため、大規模な円買い・ドル売り介入を指揮したほか、様々な国際会議で議論を先導した。7月31日付で退任予定。兵庫県出身。

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