アマゾン創業者が語った「今後10年間変わらないこと」…爆速返金「24時間以内」アマゾンの大躍進を支えたキャンセル商品の取り扱い

<ユニクロ、10兆円企業へ>柳井正「われわれは物流会社になる」発言の真意…ムダな商品を「つくらない・運ばない・売らない」〉から続く

物流は、企業の生産性や収益性を大きく左右する。そのことにいち早く気づき先手を打った企業の代表格がアマゾンだろう。

【図】ベゾスがアマゾンを立ち上げた際に定義した顧客の願望とは

書籍『アマゾン、ヨドバシ、アスクル…… 最先端の物流戦略』より一部を抜粋・再構成し、創業者ジェフ・ベゾス氏の理念を解説する。

アマゾンの行動原理がわかる「3つの理念」

コロナ禍を前後して、アマゾンにはさまざまな変化がありました。

一方で、創業以来、一貫して変わっていないこともあります。

創業者のジェフ・ベゾスは「アマゾンは、地球上で最もお客様を大切にする企業である(Be Earth’s most customer-centric company)こと、お客様が買いたいものを何でもオンラインで見つけられるようにすること」を徹底してきました。

最近は「Customer Obsession(顧客のこだわり)への対応」という言葉もよく使われるようですが、その根本にあるのは顧客中心主義であり、カスタマーセントリックに変わりはないと思います。

カスタマーセントリックということで、私が常々感心するのが、返金スピードの速さです。

以前のことですが、アマゾンで食器を買って到着を待っていましたが、結局、宿泊先を出るまでの間には届かず、キャンセルすることにしました。すると、2、3時間のうちに返金されていました。

アマゾンでは「24時間以内の返金」がスタンダード。「アマゾンの返金スピードは全米で№1」という、ある調査機関の公表データもあります。

日本で返品するという場合、アマゾン以外でこうしたスピーディな体験をすることはあまりありません。商品に疵があったり、傷んでいたりというときでも、「まず、とにかく証拠写真を送ってほしい」などと、顧客をまるで信用していないような対応をするケースをよく聞きます。

販売店からすれば返品理由の確認は必要ですが、顧客からすれば「悪いのは不良品を送ってきた販売店。それなのに、なぜ、こちらからそんなことまでしなければならないのか」と憤るのはよく理解できます。特に対面でのやりとりを前提としないECの場合、返品を受け付け、いち早く返金処理をしてしまうほうが、オペレーションも複雑にならず、その後の顧客との関係性維持においても得策だと私は思います。

なぜ、アマゾンはこのようなスピーディな対応を取れるのか?それは、アマゾンの行動原理である3つの理念を知ることで理解できるでしょう。その3つとは、

「常に顧客中心に考える」(Put the customer first)

「発明を続ける」(Invent)

「長期的な視野で考える」(And be patient)

です。宅配クライシスのとき、「どうやって、物流危機を乗り越えますか」と日本経済新聞の記者から質問をうけたアメリカ本国から来たアマゾンのロジスティクスの本部長は「発明により乗り越えます」と答えていました。これを聞いて「ベゾスの考え方が浸透している」と感心したことを覚えています。

ベゾスはECサイト「アマゾン」を立ち上げるにあたって、次のような設問を立てました。

「What’s not going to change in the next 10 years?」(今後、10年間、変わらないことは何か)

それに対する答えが、

「Customers Want(顧客が求めるのは)Vast Selection(幅広い商品)、Low Price(低い価格)、FastDelivery(早いお届け)」です(図6-4)。

 これらを実現する要として、アマゾンの物流は組み立てられていると思います。

アマゾンの物流を支える「3つの戦略」

それでは、アマゾンの物流を支える3つの戦略について、より具体的に考えていきたいと思います。

まず、Vast Selection(幅広い商品)からお話ししましょう。

そのためのポイントは、次の3つになります。

・大型センターを確保する
・商品棚をたくさん利用する
・調達を多様化する

1つずつ説明しましょう。


・大型センターを確保する

アマゾンが所有するビルの1つに「ドーソン(DAWSON)」と命名したものがあります。ドーソンは、ガレージの一角を倉庫代わりに創業した同社が、1996年、顧客の求める幅広い書籍に対応した本格的な通販事業を展開するために、初めてのFC(フルフィルメントセンター:アマゾンの物流拠点)を設置した通りの名称です。「ドーソンの大型センター(当時としては)がなければ同社のビジネスは成り立たなかった」という教訓を忘れないために命名したと言われています。

同社が設置したFCは、延べ床面積11万坪強、1500人が雇用できる規模があり、現在はこれらの規模の大型センターを準備することを第一義にしています。
 

・商品棚をたくさん利用する

大型センターを確保できれば、それだけたくさんの商品棚を入れることは可能です。ただ固定の棚を入れてしまうと、棚の位置によって商品の保管やピッキングのしやすさに違いが出てきます。また、作業スタッフが移動するスペースも確保する必要があります。

そこでアマゾンが多くの物流センターで導入を進めているのが、「アマゾンロボティクス(Amazon Robotics)」です。「ドライブ(Drive)」と呼ばれるロボットが「ポッド(Pod)」と呼ばれる専用の商品棚を随時移動させることにより、固定式の商品棚より最大約40%多くの在庫を保管でき、スペースの節約が可能となり、商品の品揃えを増やしていくことができます。

・調達を多様化する

アマゾンジャパンの創業時、2000年のときは書籍のみの単品で、170万アイテムの在庫を保管していました。それから毎年のようにカテゴリーを広げていき、2005年には10ストア(=10カテゴリー)、1000万アイテムを超えました。2009年には「アマゾンベーシック」としてPBの取り扱いをスタート。2017年に生鮮食品も扱うアマゾンフレッシュ、アマゾンビジネス、ビューティーストアを拡大オープンするなど、自社での取り扱いカテゴリーを広げています。

特に、アマゾンフレッシュについては、2022年11月、温度管理を徹底した専用物流拠点「アマゾンフレッシュ葛西フルフィルメントセンター」(延べ床面積:約6000㎡)を開設、生鮮食品全体の商品保管・出荷能力の拡充を進めました。

また、協業による品揃えの拡大も進めており、食品スーパー(ライフ、バロー、成城石井、アークス)との協業によるネットスーパーの運営、アイスタイルとの協業によるコスメ・美容の総合サイト「アットコスメ(@cosme)」の公式ストアもオープンしています。

中国からの販売者

一方で、2003年からは自前でのEC展開が難しい事業者でも、アマゾンのプラットフォームから商品を販売できるマーケットプレイスを開設、さらに品揃えの幅を広げていきました。

現在、マーケットプレイスの出品者のうち3分の1が中国からの販売者(セラー)で、積極的に出品を増やしており、2019年に4億アイテム、2020年には5億アイテムを超えました。

アマゾンジャパンでは2015年頃から、中国のセラーからのマーケットプレイスへの出品に注力。FCを成田空港の近くに設け、航空便で成田に入ったものを効率よく出荷できる体制を整えました。

中国のセラーの商品は雑貨や小物が多いこともあり、ベリー便(belly:腹部)と呼ばれる、旅客機の底のスペースを用いた貨物便を利用し、輸送コストの抑制も進めています。

トラック便の場合には、荷物を届けた後の空荷の便をチャーターしてコストを抑えることもしていますが、アマゾンの場合、そもそも物量が多いこともあり、同様のことを旅客機で実践しているわけです。

自社で物流に対応できない企業に対して、アマゾンの物流を提供するサービスもあります。

「フルフィルメントバイアマゾン(FBA)」で、あらかじめアマゾンが指定する物流センターに商品を納品しておくと、注文に従って、アマゾン側がピッキング、梱包、出荷までやってくれます。梱包資材の共通化により、使用する資材の量を抑制できるのです。

FBAを利用すると、他社のECサイトからの注文にも対応できるということもあり、販売意欲の旺盛な中国のセラーからの利用が増えているようです。

エネルギーコスト、人件費の高騰などもあり、2023年4月からFBAに関する手数料(配送代行、在庫保管など)が値上げされました。


図/書籍『アマゾン、ヨドバシ、アスクル…… 最先端の物流戦略』より
写真/shutterstock

アマゾン、ヨドバシ、アスクル…… 最先端の物流戦略(PHP研究所)

⻆井亮一

アマゾン、ヨドバシ、アスクル…… 最先端の物流戦略(PHP研究所)

2024/2/19
1,045円(税込)
208ページ
ISBN: 978-4569856551
人手不足、EC市場の成長による宅配数の増加、トラックドライバーの労働時間規制、輸送費の高騰……。物流における「2024年問題」は、課題が山積している。

この問題が2024年だけで終わればいいが、今後も物流を巡る環境は過酷さを増していくことが予想される。当然、その影響からは日本企業で働く我々も免れない。今後、物流は「企業格差」を広げる原因の一つとなるだろう。

物流は、企業の生産性や収益性を大きく左右する。そのことにいち早く気づいた企業たちは、先手を打つ。アマゾン、ヨドバシ、アスクル……、独自の「物流戦略」をもとに圧倒的な競争力を生み出す企業は、どんな取り組みをしているのか?

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