【東北新社】映画専門チャンネルをまたもや売却、攻めのM&Aに反転は近いか?

東北新社が事業再構築にアクセルを踏み込んでいる。コロナ禍の影響が広がった2020年以降、4件のM&Aを手がけたが、そのうちの3件は衛星放送チャンネルなどの売却案件が占める。既存事業の構造改革を断行しつつ、新たな収益基盤をどう確保しようとしているのか。

2020年3月期以降、売上低下が続く

東北新社は「総合映像プロダクション」を標榜する。洋画・海外ドラマの日本語版制作を祖業とし、CM制作、番組・映画の制作、グラフィック・Web制作、ライセンスビジネス、BS・CSの衛星放送、映像学校、物販事業まで幅広く手がける。

しかし、稼ぎ頭のCM制作はネット広告の台頭に押され、業界最大級を誇る衛星放送チャンネル運営も配信系サービスとの競合で苦戦を強いられるなど、事業環境が年々厳しさを増しているのが実情だ。

足元の2024年3月期業績予想は売上高6.4%減の523億円、営業利益44.7%減の23億2500万円、最終利益1.5%減の30億8700万円。売上高はコロナ前まで600億円台を確保し、ピーク時は700億円を超えていたが、2020年3月期以降は600億円ラインを大きく割り込んだままだ。

M&A Online作成

「スターチャンネル」をジャパネットに売却

同社が4月19日に発表したのが映画専門チャンネルを運営する子会社のスター・チャンネル(東京都港区)の売却。メディア事業の規模を適正化し、収益力の改善につなげるとしている。売却金額は非公表だが、2024年4~6月期に関係会社株式売却益43億5800万円を計上する。

売却先はジャパネットブロードキャスティング(東京都中央区)。通販大手のジャパネットホールディングスの子会社で、2022年3月にBS放送「BSJapanext」を開局している。

スター・チャンネルは1986年に日本初の映画専門有料チャンネルとして事業を開始。BS放送サービス「スターチャンネル」、動画配信サービス「スターチャンネルEX」を運営し、ハリウッドの大作や世界中から厳選した映画・ドラマを放映・配信してきた。

近年は、多メディア化の進展などによる契約世帯数の減少に伴い、業績が低迷し、債務超過に陥っていた。

実は、衛星放送チャンネルを手放すのは今回が初めてではない。2022年10月、映画専門チャンネル「ザ・シネマ」の運営子会社を、家電量販店大手のノジマに売却した。「ザ・シネマ」はハリウッド最新作からクラシック映画、日本未公開作品などを取りそろえ、シニア世代を中心に視聴者を抱える。

「ザ・シネマ」に続く「スターチャンネル」の売却で、東北新社が運営する衛星放送チャンネルとしては「ファミリー劇場」(主に日本のドラマ・アニメ)、「スーパー!ドラマTV」(海外ドラマ専門)、「囲碁・将棋チャンネル」、「ヒストリーチャンネル」(歴史エンターテインメント)が残る。

2023年は高級スーパー事業を手放す

東北新社がスーパーマーケット事業を売却したのは2023年9月のことだ。子会社のナシヨナル物産(東京都港区)が「ナショナル」ブランドで東京都内に3店舗展開する高級スーパーを、中島董商店(東京都渋谷区)に引き継いだ。中島董商店はキユーピー・アヲハタグループの源流企業で、長年取引関係にあった。

東北新社がナシヨナル物産を傘下に収めたのは1972年。ナシヨナル物産が営むスーパーはチーズなど乳製品の輸入品の品ぞろえで知られた。

スーパー業態とは異色の取り合わせに見えるが、東北新社が扱う海外テレビドラマの食卓シーンに頻繁に登場する乳製品は当時の日本でまだ馴染みがなく、こうした珍しい食品を紹介する狙いが込められていたという。

だが、事業の集中と選択に迫られ、半世紀に及ぶスーパー経営にピリオドを打ったのだ。

東北新社が売却したスーパー「ナショナル」の麻布店(東京・南麻布)

新5カ年計画で売上高700億円目指す

東北新社は2月初め、「企業価値向上に向けた事業再構築」を副題とする中期経営計画(2024年4月~29年3月)を策定した。最終年度に売上高700億円、営業利益65億円を掲げる。PBR(株価純資産倍率)については上場企業の最低ラインとされる1倍以上(4月24日時点0.71倍)を目指す。

中計策定に先駆け、今年1~2月には人員体制の最適化を目的に希望退職者の募集を実施した。勤続10年以上・50歳以上の正社員(マネジャー職を除く)を対象に20~30人を募ったが、応募は11人にとどまった。

既存事業についてはBS・CS関連を中心に、事業ポートフォリオの見直しを進めてきた。4月にスタートした新中計では新たな収益基盤の確保にどう道筋をつけるかが最大のテーマとなる。

5カ年の期間中、構造改革や成長投資、株主還元で合わせて500億円を充てる方針だ。個別の配分額は示していないが、成長投資ではM&Aをテコに周辺領域への展開を最重点としており、従来のメディアの枠にとらわれず、「あらゆる生活シーンにビジネスフィールドを拡大する」としている。

既存事業では売上高の4割以上を占める広告・コンテンツプロダクション事業を中心に一層の収益力強化が求められる。

M&Aについていえば、これまで売却が3件連続した。買収は2021年12月に広報・ブランディング支援のENJIN(東京都世田谷区)を子会社化したのを最後に遠ざかっている。

局面転回に向け、攻めのM&Aののろしがいつ上がるのか、要ウオッチとなりそうだ。

◎東北新社の沿革

主な出来事
1961 東北新社を設立。テレビ映画の日本語版制作に着手
1964 新日本映画製作所を子会社化し、CM制作事業を開始
1972 ナショナル物産を子会社化し、物販事業を開始
1984 CM制作の二番工房を子会社化
1986 映画専門チャンネル「スター・チャンネル」を合弁で設立
1987 広告制作の日本天然色映画(現ソーダコミュニケーションズ)を子会社化
1995 秋田県湯沢市の木村酒造を子会社化
2001 歴史専門「ヒストリーチャンネル」を合弁で設立
2002 ジャスダックに上場(2022年東証スタンダードに移行)
2005 映画専門チャンネル「ザ・シネマ」を合弁で設立
2009 「囲碁・将棋チャンネル」の運営会社をを子会社化
2012子会社が運営するクラシック音楽チャンネル「クラシカ・ジャパン」の放送終了
2015 スター・チャンネルを子会社化
2021 ブランディング支援のENJINを子会社化
2022 ザ・シネマをノジマに売却
2023 ナショナル物産のスーパーマーケット事業を中島董商店に譲渡
2024 6月、スター・チャンネルをジャパネットブロードキャスティングに譲渡

文:M&A Online

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