M&Aが活発化、一方で「破談」も高止まり

買収や経営統合で基本合意しながら、最終的に条件が折り合わなかったり、思わぬ事態が発生したりしてM&Aを中止するケースは少なくない。アフターコロナ到来による経済正常化を背景にM&Aが一層活発化する中、最近の状況はどうなのか。

中止案件、 2019年から高止まり

ルネサスエレクトロニクスは2月23日、フランスの半導体企業シーカンス・コミュニケーションズの買収(公表は昨年8月)に関する基本合意書を解除したと発表した。これに伴い、昨年9月に始めたTOB(株式公開買い付け)を取りやめた。計画通りに買収を行うと、当初想定していなかった税負担が生じることが判明し、基本合意書に基づく解除権を行使したという。買収金額は約280億円と見られていた。

同じく2月中、アジャイルメディア・ネットワークは昨年末に公表していた2件の買収を中止した。基本合意書に定められた決済期日までに買収資金を用意できなかったのが理由。同社は昨年、年間7件のM&A(うち1件は売却)を発表したが、残る5件は取引を完了している。

M&A Onlineが上場企業に義務づけられた適時開示をもとに、M&Aの中止案件を調べたところ、2019年13件を境に高止まりしていることが分かった。2020年8件、2021年9件を経て、2022年、2023年(ただし、ルネサスのシーカンス買収は適時開示対象外のため集計に含まず)は各10件だった。

2019年のM&A件数(適時開示ベース)は853件と11年ぶりに年間800件台を回復した。コロナ禍初年の2020年は足踏みしたものの、2021年以降は増勢が際立ち、2023年は1068件と16年ぶりに1000件の大台に乗せた。これにつれて、M&Aの中止案件も2ケタが定着しつつある。

M&A Online作成

過去には4.2兆円売却の破談も

2023年の中止案件をみると、全10件がそろって小粒だった。最も規模が大きかったのが広報・PR支援のプラップジャパンによる案件。プレスリリース配信のソーシャルワイヤーが行う11億3800万円の第三者割り当て増資を引き受けて子会社化する予定だったが、ソーシャルワイヤー側の事情で増資資金の払い込み条件を満たさないおそれが生じたという。

足元の2024年のM&A件数はここまで約170件と前年を20近く上回るハイペースとなっているが、今のところ中止案件は見当たらない。

日本企業による大型M&Aで過去最大の破談劇はソフトバンクグループ(SBG)による半導体設計子会社・英アームの売却案件。SBGは2020年9月、米半導体大手のエヌビディアに4.2兆円で売却することを発表したが、各国競争当局の審査が難航したなどを理由に1年半後の2022年2月に売却を白紙に戻した。当のアームは昨年9月、米ナスダック市場に上場した。

国内の上場企業同士による経営統合の破談も散発的に起きている。最近では保育大手のグローバルキッズCOMPANYと、さくらさくプラスが2022年7月、経営統合で基本合意したが、3カ月後に撤回した例がある。

◎近年の主なM&A中止案件

中止発表当初の合意内容(カッコ内は発表時期、HCはホールディングス)
2023/11関西ペイント、アフリカの塗料子会社2社をオランダのアクゾノーベルに売却(2022/6)
2022/10グローバルキッズCOMPANY、さくらさくプラスが2023年4月に経営統合(2022/7)
2022/2フィデアHD、東北銀行が2022年10月に経営統合(2021/7)
ソフトバンクグループ、半導体設計子会社の英アームを米エヌビディアに売却(2020/9)
2021/9新日本建設、元東証1部上場の建設会社「冨士工」(東京都中央区)を子会社化(2021/8)
2020/10日本触媒、三洋化成工業が2020年10月に経営統合(2019/5)
2020/8キリンHD、豪子会社の飲料事業を中国・蒙牛乳業に売却(2019/11)
2020/1オリンパス、デジカメ製造の中国子会社を現地社に売却(2018/12)
2019/11富士フイルムHD、事務機器大手の米ゼロックスを子会社化(2018/1)
2018/11LIXIL、イタリア建材子会社のペリマスティリーザを中国企業に売却(2017/8)
2018/3東洋製罐グループHD、ホッカンHDが2017年4月に経営統合(2016/4)
2017/9
JKホールディングス、橋本総業HDが2017年10月に経営統合(2017/2)
2016/4
加賀電子、UKCホールディングス(現レスターHD)が2016年10月に経営統合(2015/11)
2015/4
東京エレクトロン、米半導体製造装置大手アプライド・マテリアルズが経営統合(2013/9)

文:M&A Online

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