宇宙スタートアップ、上場で安定軌道へロックオン QPS研究所<九州大>-大学発ベンチャーの「起源」(91)

QPS研究所<5595>は、九州大学発の人工衛星ベンチャー。1995年からスタートした九州大での小型衛星開発の技術を伝承し、同大の八坂哲雄名誉教授と桜井晃名誉教授、三菱重工業<7011>でロケット開発を手がけた舩越国弘氏が2005年に設立した。大西俊輔社長兼CEO(最高経営責任者)も同大大学院航空宇宙工学専攻在籍時に50kg級小型衛星プロジェクト「QSAT-EOS」に参加している。

小型SAR衛星で宇宙ビジネスを展開

社名の由来は「Q-shu Pioneers of Space」の頭文字で、文字通り九州宇宙産業の開拓者となり、九州から日本そして世界の宇宙産業の発展に貢献するとの思いを込めた。

得意技術は合成開口レーダー(synthetic aperture radar)を搭載したSAR衛星の小型化だ。SAR衛星はセンサーから発射して地表で跳ね返ってきたマイクロ波のデータを重ね合わせることで、解析性能を向上させる最先端の人工衛星。

得られるデータは画像としては医療で用いられるエコー検診のようなザラザラした印象だが、調査対象物の有無や変化、対象物が人工物か自然物かの判別、土壌水分などを高精度で解析できる。可視光による観測ではないので、曇りや夜間でも測定できるため定時定点調査が可能だ。

しかし、合成開口レーダーは技術的に小型化が難しく、最近まで民間の人工衛星ビジネスで活用されることはなかったという。QPS研究所は従来のSAR衛星の20分の1の重量となる100 kg台の高精細小型SAR衛星「QPS-SAR」を開発し、100分の1のコストでの運用を可能にした。


順調な資金調達で、最先端の衛星開発を実現

2014年に「つくし」の愛称で知られる「QSAT-EOS」の打ち上げに成功。微小デブリ観測や三次元地磁気観測による高精度宇宙天気予報、データ通信用電波を用いた局地的な集中豪雨や積乱雲の成長などのリアルタイム観測といった運用を始める。

2017年にはSeries A投資ラウンドで九州最大規模となる総額23億5000万円を調達した。この資金を元に、2019年には小型SAR衛星の第1号機となる「イザナギ」の打ち上げ成功。2021年には小型SAR衛星2号機「イザナミ」の打ち上げに成功し、日本で最高精細となる分解能70cmの画像取得を実現するなど、着実に成果を積み上げてきた。

2023年6月に小型SAR衛星6号機「アマテル-III」の打ち上げに成功。「イザナミ」をしのぎ、国内民間SAR衛星として最高分解能となる46cmの画像取得を実現している。

2021年12月にシリーズBファーストクローズとして総額38億5000万円、2022年2月にシリーズBセカンドクローズで約10億5000万円、2023年3月には追加で10億円の資金調達に成功。累積調達額は約92億円に達している。同12月には東証グロース市場への上場を果たした。

2024年1月5日には、元旦に発生した能登半島地震で被災したエリアの画像データーを公開。大規模災害の状況把握や今後の防災対策に貢献している。平時から非常時まで、あらゆるデータ収集に役立つSAR衛星だけに、今後も安定した成長が見込めそうだ。

QPS研が公開した石川県輪島市のSAR衛星写真(同社広報資料より)

文:M&A Online

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