M&A仲介協会、業界自主規制ルール制定の背景を解説 設計思想や規程を読み解くポイントも

M&A仲介業の自主規制団体「M&A仲介協会」(代表理事・荒井邦彦ストライク社長)が1月23日に都内で開催した加入者説明会では、2023年12月に策定・公表した業界自主規制ルールについて、制定の背景や設計思想の解説も行われた。事務局の横井伸(日本M&Aセンター法務部長・弁護士)氏が解説を担当した。

業界自主規制ルール策定の背景

業界自主規制ルールは、M&A仲介業の職業倫理を定めた「倫理規程」と「業界自主規制ルール(コンプライアンス規程、広告・営業規程、契約重要事項説明規程)」からなり、2023年12月にM&A仲介協会が公表したもので、説明会ではまず、M&A仲介協会の設立から公表に至るまでが紹介された。

協会の設立は2021年10月。同年4月に中小企業庁発表の「中小M&A推進計画」で自主規制団体の設立が謳われ、日本M&Aセンター、M&Aキャピタルパートナーズ、ストライク、オンデック、名南M&Aの5社の5社で結成。2023年9月には支援の質の確保・向上について、業界全体での取り組みが求められた「中小M&Aガイドライン(第2版)」が公表、同協会は準備を経て2023年12月に自主規制ルールを策定したと述べた。

自主規制ルール策定の背景については、さまざまな見方があるが、M&A仲介業がいわゆる「業界」として成立したことが理由に挙げられた。M&A仲介業は今や6社が上場、中小企業庁のM&A支援機関登録制度では3000社近くも登録。M&Aが日々、活用されるなか、現場では多数の問題が生じている。そうした現状に対処するには、業界団体がルールを策定して対処していくことが必要であると説明した。

ルールの設計思想

さらに、自主規制ルールの設計思想にも踏み込んで解説。ルールの遵守と適切な運用によって「会員による公正な自由競争の世界を実現」することにあるとし、多様な価格・サービスで会員企業同士が切磋琢磨しあう競争環境の創出を図りたいと述べた。

また、協会と事業者との関係性について、策定ルールをもって事業者を統治する上下関係ではなく対等でありたいと強調。会員からは情報提供や提言が寄せられることを期待し、加入社には信用の提供、業界の最新知見や会員企業同士の相互交流の場の提供など行い、協会と会員が相互に作用し発展していくことを望んでいると説明した。

条文を読み解くポイント

説明会では自主規制ルールを深く理解するためのポイントも紹介。各規程を読み込むのではなく、別分類でアプローチするほうがわかりやすいという。

主な内容
コンプライアンス規程 1.利益相反行為の禁止
M&A実態に応じた具体的な5つの利益相反行為の特定と全面禁止
2.報酬体系の開示
報酬基準の各項目をウェブサイト上で一般公開
3.高いレベルの実効性確保措置
コンプライアンス責任者の設置、独立した相談・通報窓口の設置・運用、営業部門から独立した年1度以上の監査
広告・営業規程 1.総則/雑則
6つの基本原則と一定の場合の広告停止措置の導入
2.広告
15項目の広告禁止行為と不実表示・フィッシング広告等の禁止
3.営業
32項目の営業禁止行為と利益相反行為・追加報酬要求行為・テール条項不当利用等の禁止
契約重要事項説明規程 1.実施範囲・方法等
後継者不在型に限らず、広く中小M&A一般に対して重要事項説明の対面実施の原則化
2.実施項目
仲介メリットだけ強調しない、成功報酬額のパターン提示、インサイダー取引などの上乗せルールの導入
発表資料をもとにM&A Onlineが作成

苦情・トラブルなどへの対処を目的とした「禁止規範」、仲介サポートの質の観点から望まれる行動を規定した「行為規範」、法律ではない自主規制の実効性を確保するための「組織規範」に分けられ、この3つの規範に該当条文を紐づけて考えるほうが理解しやすいと紹介された。

目的 主な内容
禁止規範 苦情・トラブルなどへの対処 ・虚偽や迷惑な広告・営業の禁止
・利益相反5類型の禁止
行為規範 会員の質の向上や選別 ・M&A成立後のリスク説明
・企業情報の重要事項説明
・重要事項説明の実施方法・対象の充実化
・報酬体系の開示
組織規範 法律でない自主規制の実効性の確保 ・監査や調査の仕組み
・苦情窓口の設置
・ブティックの簡易特例の存在
・退会規定
発表資料をもとにM&A Onlineで作成

禁止規範には、嘘や迷惑行為に該当する広告・営業の禁止ほか、コンプライアンス規程第4条に記された利益相反5類型の禁止などが該当する。行為規範は重要事項説明や報酬体系の開示などが該当。さらに、M&A成立後のリスク説明(広告・営業規程第12条)も含まれ、これは今後、会員と会員外との仲介サポートの質に注目した場合に、重要な条文になるとも考えられるという。

組織規範では、監査や調査の仕組み、苦情窓口の設置などについて規定した条文が該当する。規程作成にあたっては、少規模会員に配慮し、一定の条件下で相談・通報窓口やコンプライアンスに関する責任者の設置を顧問弁護士に代える条文(コンプライアンス規程第14条)も規定したという。

文:M&A Online

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