タダモノではないフェラーリ「テスタロッサ」が驚きの価格で落札! “1980年代の狂気”が再評価中の「チューニング界の異端児」とは
ドイツ・チューニング界の異端児ともいうべきケーニッヒ社がチューニングしたフェラーリ「テスタロッサ」が、アメリカのオークションにて驚きの価格で落札されました。1980年代のバブル景気の中、羨望の眼差しが送られたマシンへの評価が再び高まっているのでしょうか?
1000馬力を実現したタダモノではない「テスタロッサ」
ドイツ・チューニング界の異端児であるウィリー・ケーニッヒが仕立てたフェラーリ「テスタロッサ」が、先日、アメリカのオンライン自動車オークションサイトBRING A TRAILORにて驚きの価格で落札されました。
“1980年代の狂気”を体現したマシンへの評価が、あらためて過熱しているようです。
1984年、華やかなスポットライトを浴びてデビューしたフェラーリ「テスタロッサ」。ワイド&ローの流麗なボディラインと最高出力385馬力を誇るパワートレインは、世界中の自動車ファンを魅了したものです。
しかし、ある男の目には物足りなく映ったようです。その男こそ、ケーニッヒ・スペシャルズ社を立ち上げたドイツ・チューニング界の異端児であるウィリー・ケーニッヒ。
ケーニッヒ・スペシャルズは、1977年に設立された会社です。とはいっても、ウィリー・ケーニッヒ自身は1974年から、すでに自動車のカスタマイズパーツ開発と販売をおこなっていました。彼は成功したレーサーであり、また風変わりな億万長者としても知られていました。ケーニッヒの会社は、AMG、ブラバス、ルーフ、ACシュニッツァーなどと同様、高級車のチューニングを専門としていました。
そして、「テスタロッサ」を見たケーニッヒの頭の中では、狂気ともいえるアイデアが渦巻いていました。「なぜ385馬力で満足する? 1000馬力だって可能なはずだ!」と。そう、彼は世界の誰もが見たこともないような、とてつもないマシンをつくり上げようとしていたのです。
ケーニッヒ・スペシャルズの工場では、昼夜を問わず作業が続きました。エンジンはバラバラにされ、ツインターボチャージャーが組み込まれました。インタークーラー、オイルクーラー、ウェイストゲート、次々と最新のパーツが追加されていきます。
そして、すべてを制御するのは、最先端のMoTeCのECUでした。当時、最高出力385馬力はスーパーカーとして十分な性能だったにもかかわらず、ケーニッヒは驚異の1000馬力オーバーを達成させたのです。
完成したモデル名は「テスタロッサ・ケーニッヒ・スペシャルズ・コンペティション・エボリューションII」。ちなみにブガッティ「ヴェイロン」が市販車として1000馬力オーバーを実現させるのは、20年も後の話です。
●オークションは驚きの落札価格に
このモンスターエンジンを制御するために、ブレーキとサスペンションも大幅に強化する必要がありました。
APレーシング製の巨大なキャリパー、特注の2ピーススロットローター、17インチのマルチピースホイールと高性能タイヤ、そして、コニ製ショックアブソーバーとH&Rのスプリングが、獣のような「テスタロッサ」を路面にしっかりと食いつかせます。
エクステリアも、大胆に変貌を遂げました。フロントマスクやリア回りは大幅にイメチェンを図り、アグレッシブです。
フロントフェンダーは「F40」を、リア回りは「288GTO」を想起させるデザインです。「テスタロッサ」のアイコンであったサイドエアインテークのスリットはあえてスムージングされています。
また、エンジンカバーはプレキシガラス製となり、「F40」のようなエンジンフード一体型のリアウインドウを備えています。さらに、オリジナルのポップアップ式ヘッドライトは固定式へと変更されました。
インテリアも当時の豪華さと華やかさに満ちています。
赤いレザーで装飾された電動調整式バケットシート、ケーニッヒのロゴが入ったシュロス製の4点式シートベルトが装備されています。
ソニー製のAM/FMカセットステレオ、クォート製のスピーカー、デジタル時計など……今の感覚ではゴチャゴチャしていますが、1980年代バブル期ならではのノスタルジックな雰囲気が漂っています。
そんなケーニッヒ・スペシャルズによる「テスタロッサ」の改造は、本家フェラーリの怒りを買うことになりました。
実際、フェラーリは法的措置をとり、ケーニッヒが改造した「テスタロッサ」からフェラーリのバッジを取り除くよう要求したほどです。それでも、差別化を求めるバブル期の紳士・淑女たちからは羨望の眼差しが送られたとか。
そんな「テスタロッサ・ケーニッヒ・スペシャルズ・コンペティション・エボリューションII」が、先日、アメリカのオンライン自動車オークションサイトBRING A TRAILORに登場。なんと52万5000ドルで落札されました。
昨今の円安もあってか、日本円換算で約7672万円という価格に驚きを隠せません。1980年代の狂気を体現したマシンへの評価は3周くらい回って、あらためて過熱しているようですね。今後、日本に現存している車両への影響もあることでしょう。
09/01 21:10
VAGUE