国家公務員の退職手当の平均は?民間より高いの?

国家公務員の退職金(正式名称は退職手当)は高額で民間企業との差は大きい、というイメージが定着しています。真偽のほどは? まずは退職理由別の退職金の平均額を調べ、その後4つの統計から民間企業の60歳定年退職金と比較しました。

退職手当は常勤の国家公務員に支給

国家公務員は、大臣や国会議員、裁判官・裁判所職員、防衛省職員・自衛隊員などの特別職と、行政職や外交官、税務署職員などの一般職に分かれています。

退職手当は、特別職・一般職の区分にかかわらず、「司法・立法・行政全ての国家公務員のうち、常時勤務に服することを要する職員及びこれに準ずるもの」に適用されます。令和6年度の国家公務員は約59.3万人(特別職29.8万人、一般職29.5万人(令和6年度末予算定員))です。

令和5年7月1日時点の一般職の常勤職員数は26万9061人(うち女性は6万4069人)、そのうち15万2206人(56.5%)が一般の事務職員が対象となる「行政職俸給表(ー)」の適用者です。国家公務員の給与は職務内容によって俸給表が用意されており、専門分野によってはより給与水準の高い表が適用されます。

2024年度の国家公務員の定年年齢は61歳

国家公務員の定年年齢は、令和5年4月に「国家公務員法等の一部を改正する法律」が施行され、2年に1歳ずつ段階的に引き上がることが決まりました。これにより令和4年まで60歳だった定年年齢は、令和13年には65歳になります。

ただし、職務と責任の特殊性・欠員補充が困難な医師等の定年年齢は、職務の特殊性や欠員補充が難しいため、令和5年の66歳から段階的に上がって令和13年に70歳となります。

地方公務員も国家公務員に準じますので、2023年度・2024年度の定年年齢は61歳です。

それでは国家公務員の「退職手当」についてみていきましょう。

60歳に達した日以降、定年前に退職した場合の退職手当は、当分の間「定年」と同等の算定が行われます。

国家公務員の退職金の計算方法

公務員は1年目から退職金が支給されます。勤務年数以外にも、自己都合や早期退職制度への応募、あるいは病気による退職など退職理由によって退職金の額は変わります。懲戒免職等の処分を受けた場合は退職金は支給されません。

国家公務員の退職手当額は、「基本額(退職日の俸給月額×退職理由別・勤続年数別支給率×調整率)+調整額」で算出します。

定年退職の支給率は、勤続1年の0.837から始まり、勤続35年まで1年ごとに上がって勤続35年以上は47.709を用います。

国家公務員の退職金は平均1104.3万円、定年退職は2112.2万円

内閣人事局「国家公務員退職手当実態調査(退職手当の支給状況)令和4年度」によると、常勤職員の令和4年度中の定年・中途含めた退職者は3万5511人で、平均退職手当は1104.3万円(前年度は1060.7万円)です。うち行政職俸給表(一)適用の退職者は8276人、平均退職手当は1391.0万円(同1441.7万円)です。

定年退職者は1万4283人で、平均退職手当は2112.2万円(同2106.4万円)、うち行政職俸給表(一)適用者は4086人、平均退職手当は2111.4万円(同2122.7万円)です。

退職理由別の退職手当受給者数と平均退職手当は次の通りです。( )内は令和3年度の退職手当額です。

●常勤職員
退職者数3万5511人/平均退職手当1104.3万円(1060.7万円)

<内訳>
・定年退職:1万4283人/2112.2万円(2106.4万円)
・応募認定退職(※1):1699人/2524.7万円(2540.7万円)
・自己都合退職:9854人/274.5万円(274.2万円)
・その他(※2):9675人/212.1万円(199.6万円)

●常勤職員のうち、行政職俸給表(一)適用者
退職者数8276人/平均退職手当1391.0万円(1441.7万円)

<内訳>
・定年退職:4086人/2111.4万円(2122.7万円)
・応募認定退職(※1):857人/2250.0万円(2279.1万円)
・自己都合退職:1944人/327.5万円(364.4万円)
・その他(※2):1389人/230.0万円(230.0万円)

(※1)応募認定退職とは、平成25年10月31日で廃止された「勧奨退職」に代わって導入された制度
(※2)その他は、任期制自衛官等の任期終了(常勤職員)や死亡等による退職を含む

公務員と民間企業の退職金の差は1.5万円?

「国家公務員の定年退職金は民間企業のそれに比べると高額」というイメージがありますが、それは本当でしょうか。

人事院が令和4年4月に公表した「民間の退職金及び企業年金の実態調査の結果並びに国家公務員の退職給付に係る人事院の見解の概要」によると、国家公務員と民間企業の退職金の差はわずか1.5万円でした。

・民間/約2405.5万円(退職一時金1148.0万円+企業年金1257.5万円)
・国家公務員/約2407.0万円(退職手当2185.0万円+共済年金給付222.0万円)

*企業年金と共済年金給付は、使用者拠出分の額で、将来、支給される年金額の総額から、その間に生ずると見込まれる利息相当分を含まない現在の金額に換算した額

一方、厚生労働省が5年ごとに行う調査「退職給付(一時金・年金)の支給実態」の最新版では、令和4年1年間の民間企業の大学・大学院卒(管理・事務・技術職)で勤続20年以上かつ45歳以上の定年退職者への退職給付額は1896万円。国家公務員との差は511万円です。勤続35年以上の定年退職者でも2037万円で、国家公務員のほうが370万円高くなりました。

*「退職給付額」は、退職一時金制度のみの場合は退職一時金額、退職年金制度のみの場合は年金現価額、退職一時金制度と退職年金制度併用の場合は、退職一時金額と年金現価額の計である

中小企業の退職金の約2倍

民間企業は企業規模により退職金額が大きく違いますので、他3つの統計の大学卒のモデル定年退職金から退職給付の実態を見てみましょう。モデル退職金は、学校卒業後すぐに入社して、同一企業に継続勤務し、普通の能力と成績で勤務した場合の退職金水準です。

・中央労働委員会「令和3年賃金事情等総合調査」:2563.9万円(総合職、退職年金制度を併用している企業は退職年金原価額を含む)

*退職年金原価額は、将来、支給される年金額の総額(事業主負担分の掛金に係る部分に限る)から、その間に生ずると見込まれる利息相当分を含まない現在の金額に換算した額。したがって年金受取総額は通常はこれより多くなる

・日本経済団体連合会「2021年9月度 退職金・年金に関する実態調査結果」(2022年3月15日発表):2243.3万円(退職一時金のみ・退職一時金と年金併用・退職年金のみの場合の額を合算し単純平均したもの)

・東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和4年)」:1091.8万円

国家公務員の常勤職員のうち、行政職俸給表(一)適用者の定年退職手当は2111.4万円。これは、日本経済団体連合会に加入する企業の定年退職金より若干低く、中小企業のほぼ2倍に相当します。

日本経済絵団体連合会に加入する企業は、日本を代表する大企業です。従業員規模300人以上の大企業は全企業の0.3%。従業員数は908万人で従業員全体の15.7%にすぎません(「令和3年経済センサス―活動調査結果」経済産業省)。東京都産業労働局の調査対象は、常用労働者が10~299人の中小企業です。と言うことは、国家公務員の定年退職手当は、民間企業の多くの従業員より高い、と考えてもいいのでは?

文:大沼 恵美子(ファイナンシャルプランナー、年金アドバイザー)

大沼FP・LP設計室代表。FPとして2002年に独立開業。「健康は食のバランスから、貯蓄は生活のバランスから」という考えを提唱する。企業や地方自治体等の各種セミナーやFP資格取得講座、福祉住環境コーディネーター資格取得講座の講師も務める。
(文:大沼 恵美子(ファイナンシャルプランナー、年金アドバイザー))

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