49歳会社員、貯金5080万円。このままでは身体も心も壊れてしまうと危機感を感じ退職します
元夫からの養育費は、全て子どもの教育資金として貯金してきました
皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。今回のご相談者は、離婚して息子さんと2人で暮らす49歳の会社員女性です。現在の仕事の責任が重く、退職を考えているとのこと。ファイナンシャル・プランナーの深野康彦さんがアドバイスします。
相談者
たあままさん女性/会社員/49歳
関西/持ち家(マンション)
家族構成
子ども(19歳・大学1年生)相談内容
仕事を辞めても生活できるか不安です。自分が相談者となることを想定しない頃から、深野先生のさまざまなご回答をこれまでたくさん拝見してまいりました。同じ回答をいただくにしても、私にとっては深野先生からでないと相談する意味を成さないと思うほど尊敬しております。深野先生からのご回答を強く希望いたします。
離婚して子と2人暮らしです。自宅から通える大学の1年生で大学院博士課程まで9年通う予定です。奨学金は受けていません。
毎月の自身の収入から一部と、元夫からの養育費を全て子の教育資金として貯金してきました。大学院卒業までの9年分の学費や交通費、小遣いなどは別の貯金(約800万円)から出すとしており貯金額および支出に含めておりません。
離婚を機に今の仕事に就き10年、契約社員から正社員となり役職に就き4年経ちますが給料はこの金額です。何とか踏ん張ってきたつもりですが責任ばかりが重く精神的にも体力的にもつらく、このままでは身体も心も壊れてしまうと危機感を感じ、未来の自分ためにまずは退職することを選びました。
離婚後は先々のためにと節約し、私にもしものことがあっても息子に何か残るよう結婚前の貯金などを資金としマンションを購入、現在、残債はありません(管理費等と固定資産税が毎月発生します。管理費等が将来にわたり値上がりすることは承知しております)。
年金はこれまでの掛け金で65歳から年額110万円とのことです。
貯金することに重きを置いてまいりました。やっと子育ての終わりが見えて来て、少しはゆとりある生活をしても良くなってきたはずの今になって収入がなくなるので漠然とした不安があるのと、無収入でも発生する国民年金・健康保険(2人分)などの支払いや貯金を取り崩すことへの抵抗があります。
養育費や将来の息子の収入はあてにしていません。細々とでもまた働くのが経済的にも精神的にも最良の策とも承知しているのですが、この不安を深野先生にアドバイスいただき、ぜひ勇気をいただきたいです。どうぞよろしくお願いいたします。
家計収支データ
たあままさんの家計収支データは図表のとおりです。家計収支データ補足
(1)退職時期について退職意思を会社に伝えて直近での退職を希望しましたが異動を提案され、数カ月後から契約社員として異動先で勤務することとなりました。どんなに心身がきつくとも、無収入となることへの不安が勝りました。その場合の収入は手取り14万円ほどになります。ただ、継続して勤務する(できる)かは未定のため、相談内容には変更ありません。社員から契約社員への変更にあたり退職金はありません。
(2)収入について
現在も勤務で給与の手取額です。人材派遣会社の正社員ですがボーナスはありません。業績に左右される期末手当がありますがこれまで最大でも年10万円程度ですので、ないものとしました。また、契約社員転換後は期末手当やボーナスは一切ありません。
(3)年間の支出について
固定資産税15万円/年、趣味(ライブ遠征・プチ旅行・飲み代)15万円、火災保険3000円/年。投資信託は現時点での評価額です。給与から趣味娯楽費は支出していませんが、実際は投資から得る毎月の分配金を貯蓄や趣味娯楽費として支出しております。投資総額は1720万円(ほとんどスポット買い)、受取済みの分配金と現在の評価額で+400万円ほどです(支出を除くプラス分は普通預金に含みます)。
(4)貯蓄について
退職後、貯蓄は不可能と想定しております。iDeCoは貯蓄から振り替えてでも続けたい(節税効果が少なくなることは承知しております)のですが、そんな余裕があるのかも知りたいです。
今現在の生活なら貯蓄を取り崩して何とか90歳くらいまで生きられるのか、一般的に、未来に今より余計にかかる費用や、逆にかからなくなる費用なども知りたいです(子が巣立った後の毎月の生活費は10万円以内に収めたいと思っています)。
また、現在の投資比率が大きいと感じているのですが、やはり収入がなく生活していくには時期をみて少しずつ手仕舞うべきでしょうか。分配金や評価額の上昇も期待し、継続したい気持ちもあります。
(5)保険について
子の共済と自身の医療保険(クレジットカード会員の団体保険です)。いずれも掛け捨てのものです。私の医療保険(入院日額5000円)は5年ごとに保険料が高くなる(次節は急に800円ほど高くなると記憶しています)ので、次のタイミングで解約しようと考えていますが適切でしょうか。
(6)今後の働き方、生活について
重い持病があるわけでなく、更年期障害(治療中です)で心身共に疲れ果てています。更年期障害には働けなくなるほど重いものがあることを身を持って知りました。社会に出ること、少しでも納税し社会へ貢献すること、他者とかかわり、いきいきと日々を過ごすこと、誰かの役に立つことを生きる目標としていましたが、思いがけず現在の状況となり鬱々とした日々を過ごしています。この時期を乗り越えられたなら、また収入額にかかわらず何らかの形で社会貢献できたらと思っております。
子どもが就職したら自分や他者(ボランティアなど)のためにお金を使い、いろいろな経験をして人生を終えたいです。特に困っている家庭や子どもの助けになれるようなボランティア活動がしたいです。
日本が好きなので、元気に身動きできるうちに全都道府県制覇の旅行がしたいです。年に2回できればいいなと思います。あとはお酒が好きなので月に1度程度、気の合う友人たちと気ままにお酒を飲みながらの食事や外出を楽しみたいです。
FP深野康彦の3つのアドバイス
アドバイス1:仕事を辞めても、年100万円の収入があれば大丈夫アドバイス2:65歳で3500万円残れば、一生金銭的には困らない
アドバイス3:投資比率は問題なし。iDeCoではなく、NISAを
アドバイス1:仕事を辞めても、年100万円の収入があれば大丈夫
退職を決意されたものの契約社員として勤務されるとのことですが、しがらみは捨て、ご自身の健康を第一に考えていただきたいと思います。すぐに退職するのは難しいかもしれませんが、健康不安があれば、すぐに仕事を辞めて休養するようにしてください。もしも、すぐに退職したとしても1年程度はのんびり過ごして、体調が整い、働く気持ちが出てきたら次のことを考えればいいでしょう。これまでおひとりで頑張ってこられたのですから、子どもの教育費の心配はないようですし、これからは自分のためにお金を使うようにしてくださいね。
1年後、50歳から公的年金の受給が始まる65歳までの15年間をどう過ごすかを考えてみます。現在の家計に変化がなければ、毎月の支出は13万円で、年間でかかる支出が30万円ですから、年間186万円。年間100万円の収入を得る働き方ができれば、年間の不足額は86万円。15年間で1290万円を貯蓄から補てんすることになります。
現在の金融資産は、貯蓄と投資を合わせて5080万円あります。1290万円を差し引いても3790万円が65歳時点で残ります。年間20万円程度を趣味や楽しみのために使ったとしても3500万円ほどは残る計算になります。
アドバイス2:65歳で3500万円残れば、一生金銭的には困らない
65歳からの公的年金は、現時点の見込み額110万円より若干増えて120万円ほどになっているでしょう。手取りが105万円とし、支出が現在と変わらなければ、年間の不足額は81万円です。3500万円の金融資産がゼロになるのは43年後、つまり108歳のときです。生涯、生活に困ることはあり得ないでしょう。ですから、今我慢して、体調に不安を抱えながら働く必要はありません。お金のために働く必要もありません。
年間100万円の収入を得るという前提での計算ですが、子どもが自立したら生活コストを下げられるとのことですし、体調と相談しながら無理のない働き方をしていただきたいと思います。逆に、60歳までもう少し収入を得る働き方をし、60歳以降はリタイアする、という選択であってもいいと思います。
今、ストレスを抱えながら仕事を継続してしまうと、気持ちを切り替えるタイミングを逃してしまいます。一度、リフレッシュして、細く、長く、働くことが大切なのではないでしょうか? ボランティア活動など社会貢献をしたいという素敵な志を実現するためにも、まずは心身の健康を第一に考えてくださいね。
アドバイス3:投資比率は問題なし。iDeCoではなく、NISAを
細かいアドバイスをいくつか述べます。まずiDeCoですが、ご承知のとおり収入が減少すれば節税効果が少なくなります。運用益、売却益の非課税メリットを考えるのなら、NISAでの積み立てのほうがいいでしょう。貯蓄からの振替になりますが、NISAの積立枠を全部使う必要はありません。楽しみの1つとして考えられるようでしたら、少額で始めてみてもいいでしょう。
また、貯蓄と投資比率としては、金銭信託が1年満期で償還されれば、それほど投資比率は高くありません。満期償還で預け替えるのでしたら、個人向け国債(変動10)など元本保証の安全資産がいいでしょう。
保険については、子どもの共済もご自身の医療保険も不要です。金融資産が少ない場合は保険に頼ることも大切ですが、ご相談者の場合は、貯蓄でまかなうことができますので、解約でいいでしょう。
最後に、国民年金は退職されても60歳までは払込みを続けてください。受給額が減ってしまいますので、その点はご注意ください。健康保険は国民健康保険になりますが、前年の所得に応じた保険料になりますから、退職後は、現在の保険料より減額になるはずです。支払いは続けてください。
貯蓄を切り崩すことに抵抗がある気持ちはわかります。しかしながら、ここまで頑張ってきたのですから、心身の健康のために、今は使うとき、と考えてください。大丈夫ですから、あまり心配なさらないでください。
相談者「たあまま」さんから寄せられた感想
深野先生のアドバイス、とてもありがたく拝読いたしました。これまでの人生において自分のことを誰かに相談したことがなく、自分の状況に近い他の方の相談の回答を参考にするか、独り悩むばかりでした。このたびこのような機会をいただき、どんな回答がいただけるかドキドキしましたが、自分の中にはなかったアドバイスをいただけ、何に重きを置くか、何を優先したいかの整理ができ心がとても軽くなりました。深野先生の数字だけではない、人生にも寄り添った温かいご回答もこの先の人生の励みになります。マネープランについてはご回答を参考に、人生については、先のことばかり心配するより視野を広く持ち今を大切に生きようと思います。
これからも深野先生、マネープランクリニックの皆さまのさらなるご活躍をお祈りしております。このたびは本当にありがとうございました。
教えてくれたのは……深野 康彦さん
マネープランクリニックでもおなじみのベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金周り全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。
取材・文/伊藤加奈子
(文:あるじゃん 編集部)
11/06 22:20
All About(人気記事)