39歳貯金600万円。勤務先が倒産し、その後就職できません
子どもなし夫婦、老後資金はどう考えればいいですか?
皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。今回の相談者は、会社倒産で突然無職になってしまった39歳の専業主婦の方。夫は契約社員でボーナスがなく、老後や家計管理に不安を抱いているとのこと。ファイナンシャル・プランナーの深野康彦さんがアドバイスします。
相談者
まるるんさん(仮名)女性/専業主婦/39歳
九州/賃貸住宅
家族構成
夫(契約社員/48歳)相談内容
会社倒産のため、私(前職正社員、月20万円で賞与なし)が失業しました。正社員としての再就職活動も行っていますが、もともと転職回数が多かったため再就職が難航しています(失業給付は受給満了しました)。契約社員の夫の会社は今後の昇給が見込めず(しかも年収は10年前から200万円も年収が下がった)、定年は70歳であるものの、雇用契約は1年更新です。ですので、今までまるまる私の給与が貯金できていたのを、減額しました。
将来的に子どもは持たない予定です。またお互いの実家が持ち家のため、私たちがマイホームを購入することも考えていません(将来はどちらかの実家に住む予定)。
とりあえずで、今は夫の扶養に入っていますが、今後双方の両親の介護が必要になる可能性なども考えると、正社員ではなく扶養の範囲内のパート勤務の仕事を探したほうが得なのかな?と最近悩んでいます(税制変更で150万円の壁と聞いたので)。
今後、さらに支出を減らして貯蓄を増やすには、どの費用を削ればいいのか。また子なし老後のためには最終的にどの程度貯蓄が必要なのか、相談したいです。
家計収支データ
まるるんさんの家計収支データは図表のとおりです。家計収支データ補足
(1)クルマについて自動車ローン(夫)の完済は2年後。相談者のクルマも買い替えたいが、資金的に2年後と考えている。軽自動車を予定。
また、車検や保険費用、税金はボーナスがないため貯蓄から出しているが、結果的に毎月の貯蓄がほぼそれに回ることになるため、実質貯蓄ではないことに気付き、いささかショックとのこと。
(2)雑費について
日用品費:2万円
指輪ローン:4000円(婚約指輪代。残35回ぐらい)
被服費:1万円
美容衛生費:5000円
医療費:6000円(主に歯医者)
交際費:5000円(慶弔金など)
(3)加入保険の保障内容
・夫/終身保険(80歳払い済み、死亡保障200万円、介護保障特約1000万円、災害特約500万円、医療特約入院1万円付き)=毎月の保険料1万4338円
・夫/災害積立保険=ほぼ養老保険(積立期間5年間、保険期間10年、満期金61万8000円)=毎月の保険料1万円
・相談者/がん保険(診断給付金50万円、入院5000円)=毎月の保険料280円
・相談者/養老保険=毎月の保険料2000円
他に自動車保険
(4)食費について
多いのは自覚あり。共働きのときはもっと多かったが、少しずつ減らして今これくらいになっている(ふるさと納税も始めた)。夫婦とも食べるのが「好き」。どれくらいまで減らしたほうがいいのか悩んでいる。
(5)住居と実家について
現在住む賃貸物件については、実家(双方の実家は割と近い)と比較して通勤や生活に便利で、かつ相場より家賃が格安(半値近い)なので、当分住むつもり。
また、双方との親も自分たちの生活を大事にしたいということで、相談者夫婦との同居には前向きではない。ただし、介護が必要になった場合は同居の可能性があるとのこと。
とくに夫の父親は80代で目が不自由なため、母親が倒れたりしたら介護時期は早まるかもしれない。
FP深野康彦の3つのアドバイス
アドバイス1:親の介護は「親のお金」の範囲内でアドバイス2:月10万円超の貯蓄も不可能ではない
アドバイス3:老後対策のカギは継続的な相談者の収入
アドバイス1:親の介護は「親のお金」の範囲内で
まず、今後のマネープランを考えれば、奥様である「まるるんさん」が働いて収入を得ることは必須といえます。その上で、ご自身も希望されているように、できれば正社員が望ましいですが、それにこだわり続け無収入状態が長引くのは避けなくてはなりません。したがって、契約社員等でも構いませんので、少なくとも厚生年金に加入できる働き方を目指してください。老後までまだ20年以上あります。加入期間の長さで、受け取る老齢厚生年金の受給額も違ってきます。
また、親御さんの介護を考え「パート勤務のほうが都合がいいのでは」とのことですが、そこはまだ考えなくてもいいと思います。実際にどのような介護が必要かは不明です。
その必要性が生じた時点で、まずは自治体の福祉課や最寄りの地域包括支援センターに相談した上で、その後の対応を判断しても遅くはありません。加えて、所得税等の税金面で収入を抑えたほうがいいのでは、という点ですが、それも今は気にせず、より高い収入を目指していけばいいでしょう。
それと、親御さんの介護について。同居されて、普段の生活を自分たちで介助できるなら問題ありませんが、それも時間的、体力的にきびしいなら介護ヘルパーの手を借りたり、介護施設を利用することになるはずです。
そこで注意すべきは、経済的支援は原則すべきではないという点。親の介護は親の資金の範囲で行うことが、マネープランの基本だからです。公的介護保険を活用しながら、親御さんの持つ資産、年金の範囲で行うということです。
最初から子どもが負担すれば、自然とそれを頼ってしまいます。結果、自分たちの老後資金が目減りしても、負担し続けるといったことにもなりかねません。
アドバイス2:月10万円超の貯蓄も不可能ではない
次に家計ですが、車検等のクルマの維持費で実質、貯蓄が増えていないとのこと。ご主人だけの収入でやりくりするのであれば、ある程度仕方がないと思います。しかし、これを機会に家計を見直すのはいいことです。ではどこを見直すか。やはり、ご本人も自覚されていますが、食費となります。月8万円は外食も含めているとはいえ、やはり高め。ご夫婦とも食べることが「好き」だとしても、見直す余地はあるでしょう。
ただし、食費だけを大きく減らすとストレスになる可能性もあります。したがって、通信費、雑費、趣味娯楽費と合わせた計17万円から、最初は3万~4万円減らすことを目標にしてみてください。
削りやすいところ、優先順位の低い支出から手をつけましょう。そこで気になるのは、雑費に含まれる月4000円の婚約指輪の支払い。残高が14万円ほどですから、貯蓄から一括返済していいのでは。
保険については、ご主人の終身保険を払済保険にしてください。現状、加入の必要性は低い商品ですし、保険に毎月1万5000円近くコストを掛けるより、貯蓄に回すべきです。
ただし、ご主人の医療保障がなくなりますから、共済保険で割安に確保します。入院は日額5000円で十分。保険料は2000円程度ですから、終身保険との差額分を丸々貯蓄に回せます。
加えて、いただいたデータでの収支は毎月、黒字が6万4000円。一方、貯蓄ペースは毎月5万円前後(投資商品の積立分も含む)ですから、データ上は1万5000円が使途不明金に該当します。
これがもし貯蓄に回せるのなら、毎月10万円、年間120万円の貯蓄も不可能ではありません。
アドバイス3:老後対策のカギは継続的な相談者の収入
最後に老後について。いくらあれば安心かは不確定要素(とくに住宅コスト)が多いため、断定はできません。ただ、仮にどちらかの実家に移り住むとしたら、現在の生活費から推測して、老後の生活費は月平均で22万~25万円(クルマの維持費や旅行費用等は月割りで加算)でしょうか。
老後資金は、公的年金受給額での不足分をカバーすることが目的ですから、もしも、月平均5万円不足なら、65歳から90歳までの25年間で1500万円。
これに予備費(クルマの買い替え、医療・介護費用、長生きリスクなど)として1000万円加算すれば、2500万円が少なくとも必要ということになります。生活費の不足額が月10万円なら、必要額は4000万円に増えるわけです。
では、老後資金をどのくらい準備できるでしょうか。
ご主人の職場が70歳まで働けるとのこと。もしも給与が今のまま維持できるとすれば、ご主人70歳のとき、まるるんさん61歳ですから、夫の給与で生活して、相談者の給与は全額貯蓄という家計が継続できます(※)。
まるるんさんの収入が手取りで15万円とすると、年間180万円。22年間で約4000万円。これに、今ある貯蓄と投資商品、さらにご主人の給与からもいくらか貯蓄できるなら、合計で金融資産5000万円前後にはなるでしょう。
ここからクルマの買い替え費用、実家に移り住んだ際のリフォーム費用を差し引くと、残り=準備できる老後資金は3500万~4000万円でしょうか。
ただし、この試算はあくまで、夫婦ともあと22年までは安定して収入を得る(できれば、まるるんさんも65歳まで働く)という条件付きです。
投資について。純金積立はまだいいですが、プラチナ積立は現状を考えると、投資商品としての将来性はきびしいと言わざるを得ません。現金化して、積立はやめてもいいと思います。
また、まるるんさんが働き始めたら、老後資金づくりとしてiDeCo(個人型確定拠出年金)を始めてはどうでしょう。節税効果も得られます。
(※)70歳まで働くと、現状、65歳から支給となる公的年金について、支給額によっては老齢厚生年金の一部もしくは全額、支給停止されます。一方、老齢基礎年金部分は停止されません。
相談者「まるるん」さんから寄せられた感想
老後資金に関して具体的な金額を示していただけて、とても安心しました。大きな金額ではありますが、目安が分かれば今後の貯蓄や節約も頑張れます。また、親の介護費用は親の資金で、というお話もとても意外でした。今回の相談内容を就職活動の励みにしたいと思います。本当にありがとうございました。
教えてくれたのは……深野 康彦さん
マネープランクリニックでもおなじみのベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金周り全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。
取材・文:清水京武
(文:あるじゃん 編集部)
05/26 20:05
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