2ヵ月でドル円は20円も下落。円高・株安はまだまだ続くのか?

日銀は20日、政策金利の据え置きを発表。一方、アメリカのFRBは17日に0.5%の利下げを発表している


日銀は20日、政策金利の据え置きを発表。一方、アメリカのFRBは17日に0.5%の利下げを発表している

円安が近年の株高を演出してきたかと思えば、3月下旬から1ヵ月ほどは円安・株安となり、そして今夏は円高・株安に! 為替と株価は影響し合うと聞いてたけど、チグハグすぎてワケわからん!(泣) 今、いったい何が起きている? そして今後はどうなる? ズバッと解説!

【図表②】日経平均株価とS&P500の関係

■ドル円レートの動きは○○に連動している

世界中が空前の猛暑に襲われた今夏、日本の金融市場も灼熱にあてられたかのような激動が続いた。まずは為替。7月初頭に1ドル=162円に迫ったドル円レートは、2ヵ月後の9月16日には一時140円を割り込む猛烈な円高となった。

8月初頭には、株価も大きく動く。日経平均は値を崩し始めた8月1日から5日までで、7323円もの大暴落を演じたのだ。中でも下げ幅が最大だった5日は「令和のブラックマンデー」として金融史に刻まれる一日となった。

ここで疑問なのは、為替と株価の関係だ。直近は円高・株安に動いたが、その前の約1年半はおおむね円安・株高で推移してきた。さらにこのさなか、今年の3月下旬から4月下旬にかけては円安と日経平均約3000円下落が同時に進行する円安・株安の局面まで発生していた。

なぜ不安定な相場が続いているのか? ストラテジストとして世界経済の分析を行なうカツキタロウ氏にこの謎を解きほぐしてもらった。まずは、そもそも今回の円高が起こった背景について。

「ひと言で言えば、『あるべき位置に戻った』になります。たとえるなら、伸びきっていたゴムの端から手を離したら一瞬で縮んで元どおりになった、みたいな話です」

実は近年のドル円レートは図表①のとおり、日米の実質金利差にほぼほぼ連動している。実質金利とは、その国の満期10年の国債金利から物価上昇率を差し引いた数値だ。

「一般的に、お金の流れは金利が低い国から高い国へと動きます。米国の金利が上昇して日米の実質金利差が拡大する時期には、円をドルに替える動きが強まって、ドル円レートは円安に振れやすくなるんです」

図表①の左端から24年5月まで、太線がおおむね右肩上がりになっている時期には、細線のドル円レートもそれに沿った動きをしていることが見て取れる。われわれの生活をも大きく左右する為替レートは、実は金利差というガイドに沿って動いていたわけだ。

■この円高はトク? ソン?

「ところが、今年の5月から7月にかけて、実質金利差とドル円レートの動きが逆方向になりました。金利差は縮小に向かっているのに、円安は止まらなかったのです。これはヘッジファンドなどの投機筋が円をむやみやたらと売り続けていたためだといわれています」

この時期、金融市場では「キャリートレード」と呼ばれる取引が流行していた。これは低金利の円を借り入れて高金利のドルに替えて運用し、金利差を利益として得る取引で、最終的には借りた円を返済して利益を確定することになる。

このとき、ドル円が円高に振れていると返済する円の額面が大きくなるため、金利差で得た利益が目減りしてしまう点がポイントだ。

「7月から8月にかけて、日銀の利上げや米国の景気悪化の兆候などが立て続けに起こり、投機筋は5月から始まっていた金利差縮小をいよいよ無視できなくなりました。そこでキャリートレード解消の売買が殺到し、円高が進行したのです」

そして9月18日には米FRBが0.5%の利下げを発表し、さらに日米の金利差は縮まった。こうして、為替市場はあるべき状態に戻ったというのがカツキ氏の見解だ。となると、ここから先は落ち着いた展開になると考えていい?

「基本的には、年内は135~150円台程度の幅に収まると考えています。米国の景気が堅調なので10年国債の金利がそれほど下がらず、金利差が大きく動くこともないと考えられるからです」

大事なのはやはり金利差。裏を返せば、米国の景気悪化による利下げや、日銀の利上げが想定外に進めば再度の円高もありえるわけだ。

ところで、株式市場の「令和のブラックマンデー」についてはどう見る?

「日経平均下落の最大の要因はやはり円高です。日本の株式市場は円安で業績が伸びる企業が多く、海外投資家もそう見ているのです。要は『円安・株高』と『円高・株安』が基本線で、3月に起きた『円安・株安』はイレギュラーというわけですね。

さて、図表②は円換算した米国株(S&P500)と日経平均を描いたものですが、なんとほぼ同じ動きになっています。つまり日本の株価は、米国株の動きにドル円レートの動きをかけ合わせたものでほぼ説明できてしまうのです」

日本株が再び上昇気流に乗るには、円安か米国株の上昇が必須だとカツキ氏は強調する。この点では、米国景気が堅調なのは今後の日本株にも前向きな材料と考えてよいだろう。

「現状の140円前後のドル円レートが続くと仮定すると、数年前に比べれば十分に円安。引き続き海外からの投資呼び込みやインバウンドにはプラスで、日本経済の成長に寄与すると思います」
 
直近の円高進行は、物価高の緩和という点ではわれわれの生活にとってプラスに働く可能性もある。現状の「程よい円安」と、広まりつつある賃金上昇が定着すれば、この先の未来は意外と悪くないかも?

取材・文/日野秀規 写真/時事通信社

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