著名人の画像映像を勝手に使う偽広告 人生相談に乗る「アシスタント」が出現するケースも

 SNS、なかでも米・メタ社の運営するフェイスブックやインスタグラムで多くあらわれる偽広告の勢いが止まらない。なかには著名人やニュース番組をディープフェイクによって作成し、ぼんやり見ていたら本物だと勘違いしそうなものもある。ライターの宮添優氏が実際に偽広告をクリックし、促されるままに”投資グループ”へ参加して起きたことについてレポートする。

【写真】中国語の原文が残っている

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 4月10日、実業家の前澤友作氏ら複数の著名人たちが、SNS上に無数に存在する、自身らの写真や映像を悪用した広告の存在について、自由民主党本部で開催された勉強会で訴えた。大手紙社会部デスクが説明する。

「前澤氏や、同じく実業家の堀江貴文氏らの映像を使ったSNS上の偽広告は、この数年、特にフェイスブックとインスタグラム上において、頻繁に表示されるようになりました。ほとんどが株や暗号資産への投資を募るものですが、この偽広告を入り口にした詐欺被害が拡大しています。当初は、こんなものに誰が引っ掛かるのかというほど粗い作りの広告でしたが、日を追うごとに手口が巧妙化し、ディープフェイクを使ったものまである。数十万円から数百万円を失ったり、中には数千万円を騙し取られ、自宅の売却を余儀なくされた被害者もいて、その数は増えています」(大手紙社会部デスク)

 名指しされたSNSはいずれも、米国・メタ社が運営するサービスだ。当然、被害を訴える著名人らは再三にわたり、対策を取るようメタ社側に求めているというが、減るどころか様々なパターン、バリエーションが次々と登場し、客観的に見ても、同社が本腰を入れて対策に乗り出している様子は見られない。

フェイスブックの偽広告をクリックしたら

 まず、前提として抑えておきたいのは、無断で有名人の写真や動画を使った広告、そしてその広告を通じて促さされる投資や消費行動は、ほぼ100%詐欺であるということだ。入り口が偽物で出口が本物、ということはあり得ない、という認識を持った上で筆者は、フェイスブックやインスタグラムに表示される著名人の写真などを悪用した偽広告をいくつかクリックした。そして、その先にどういうことが起きるのか、そして、偽広告の主や、嘘の投資話を仕掛けてくる連中の素性を探った。すると、見えてきたのは、極めて体系的に組み上げられた詐欺のシステムと、中国の影だ。

 まず、偽広告をクリックするとほぼ100%の確率で誘導されるのが「LINE」だ。例えば、前澤氏の写真に「今すぐ投資を」などの文言が書かれたSNS上の広告をクリックすると、こちらも高い確率で「ランディングページ」と呼ばれる、別のサイトに移動させられる。そこには投資で成功する方法や、仮想通貨などの暗号資産、未公開株に関する情報など、とにかく「金儲けができる」といったニュアンスの文言が並んでいて「LINE」で繋がれば、その具体的な情報が得られると誘っていた。ランディングページ自体は、一般的な通信販売、情報商材販売などにおいても頻繁に利用されるが、詐欺にも多用されることは覚えておきたい。

 多くの場合、このときLINEで繋がる相手は、クリックした偽広告に登場する著名人を名乗るユーザーである。筆者は様々な偽広告をクリックしまくったが、前澤氏や堀江氏はもちろん、楽天の三木谷浩史氏やソフトバンクの孫正義氏と称するユーザーらともやり取りをした。もちろん、彼らが本人だと思ってはいないが、理解していてもやり取りを続けてるうち”まさか本物じゃないよな”と妙な気分になってしまう。それほど、有名人の威光というのは、庶民に深く刷り込まれているのだ。「あやしい」と感じながら被害に遭った人も多く、被害者の心理にその威光が影響していることを物語っているのかと思う。

 ここから、また高い確率で「アシスタント」を名乗る女性、および男性を紹介される。例えば、自称前澤氏がいきなり「私のアシスタントが、あなたの投資を全てサポートします」などといって、アシスタントとやり取りをするよう促される。ほぼ同時に、この自称前澤氏が主宰するという、投資に関するLINEグループにも追加される。

 LINEグループには、数十から100人程度のメンバーが既にいて、自称前澤氏の投稿に「素晴らしい」「ありがたい情報だ」と大絶賛したり、生々しい現金や大きな額が預けられた通帳の写真をアップして「200万円を投資してきた」といった、一見すると投資家グループのやり取りが展開される。

 後述するが、これらのやりとりはAIなどを使って巧みに作り上げられた、会話に見える自動投稿の可能性が高いと思われる。LINEグループに加えられた筆者だけを狙い撃ちにすることが目的の、詐欺師の罠なのだ。筆者は、騙されたふりをしてみたり、急に口調を変えたりして相手を翻弄しようとしたが、実に流暢な日本語で、こちらの発言内容に応じた反応がすぐに返ってくるなど、確かに人がやっているのかAIがやっているのか全くわからない。

LINEでのやりとりで垣間見えた「中国の影」

 会話は自動投稿と指摘したが、やりとりしている相手が「人ではないのか」と思ったことが一度だけあった。それは、投資グループの中の日本人女性(風)の書き込みだった。中国語と思われる記述の下に、その日本語訳が記されていた。つまり、中国語を日本語に機械変換していたが、元の中国語も含めてコピペしてしまった、という風に解釈ができるだろう。

「中国の影」を感じるのはこれだけではない。まず偽広告に使われているフォントの多くが、日本語ではあるものの中国国内で使われるフォントになっていることは、大きな特徴といってよい。確かに日本語として表示されているのだが、ひらがなが不自然な形だったり、たとえば漢字の「才」がカタカナの「オ」のような字で表示されるなど、簡体字が多く混じっているのだ。さらに、ランディングページのページ情報(ソース)を確認すると、そこにもちらほら、簡体字による記述が散見される。

 そして、これらの偽広告から誘導された先のページにはさらに、それぞれ広告主(スポンサー)がいる。ところが、偽とはいえ投資情報や金融情報の広告を出しているスポンサーが、なぜか東南アジアの花屋だったり、北欧の自動車工場だったり首を傾げるようなところばかりだなのだ。表示された広告主たちに、なぜ広告を出稿しているのか連絡がとれる限り確認をとったが、名前を無断で使われていたり、アカウントを乗っ取られていたり、稀に「報酬をもらってアカウントを貸している」と答えた広告主もいた。だが、いちばん知りたい、最初にSNSで表示された偽広告の主は見つからない。

 疑念を抱きつつLINEグループ上でのやりとりを続けるが、実に活発に投資に関する議論が行われることに驚く。それがAIを使ったものにせよ、中国語を日本語に翻訳したものにせよ、当日の日経平均株価に関してや、その日に起きた世界的な経済ニュースに関する会話が繰り広げられる。実在する数字や出来事をベースにした、極めて最近の話題に関する会話が進められるため、まるで、実在する投資グループの中にいるような錯覚に陥ってしまう。

 そのうち、自称前澤氏がグループメンバーのために作成したという投資の指南書が、PDFで配布される。この資料にもグループでの他メンバーからの投稿と同じく中国フォントが踊り、内容は粗末なもので、中学生の娘が学校の授業で作ったレポートの方が随分マシともいえるレベルだ。もちろん、メンバーはこの粗末な資料も手放しで絶賛。そしてまたしばらく経つと、今度は実際に「投資をした」というメンバーが次々と現れる。

 中には、銀行の取引明細の写真とともに「数百万を下ろしてきて投資に回した」と投稿するメンバーもいた。明細には、確かにその当日のわずか数十分前になっている取引時刻が印刷されている。だが、写真をダウンロードして色味の調整をすると、合成であることが一目瞭然だ。

専属のアシスタントが親身に相談にのる

 LINEグループでの大勢のユーザーたちのやりとりとは別に、自称前澤氏のアシスタントを名乗るユーザーと一対一でのやり取りも並行して行われる。アシスタントは、こちら側の経済状況などを詳しく、そしてしつこく聞いてくるが、人生相談に乗ってくれることもある。例えば「今すぐ楽に大金が欲しい、犯罪でも厭わない」と筆者が書き込んだところ、そんなことで身を破滅させるべきではないとか、勉強して明るい人生を思い描こう、など励まされた。要は、こちらの発言に対して何一つ嫌な態度を示さず、淡々と粛々と、相手をしてくれるのだ。

 このアシスタントからは、「テレビ電話でも大丈夫」と驚くべき提案をされたこともあった。どんな顔の人が出てくるのか気になったので応じたところ、画面の向こうには、不自然な日本人風の女性のような顔が不鮮明に映し出されていた。あまりに不自然で、AIのアバターであることが簡単に推察できた。

 もちろん他にも様々なパターンがあるだろうが、最終的には必ず、自分に専属の誘導を行う存在、この「アシスタント」に直接投資を促されるのが典型であるようだ。

 たとえば、アシスタントから架空の投資サイトを紹介され、そこでアカウントを作り、何らかの形(銀行口座、送金サービスなど)で金を入金するようすすめられる。この誘導も巧妙で、アシスタントに言われるがまま買った株などの投資商品の価格は、架空の投資サイト上にリアルタイムで表示され、これが、毎日、毎時間のようにぐんぐん伸びていくのだ。自分の投資が成功していると思い込まされた被害者は、さらに種銭を準備して大きく儲けたいと考えるようになるし、アシスタントからも「今がチャンス」「残りの人生は遊んで暮らせる」などと煽られるのである。もちろん、サイトに表示される価格上昇の表示は、何の根拠もない架空のものだ。それを信じて振り込んだら、どうなるかは分かりきったことだろう。

 以上が、筆者の検証だ。1円でも金を払ったが最後。残念ながら、詐欺師たちが捕まる可能性は現状においてゼロといってよく、従って被害金を取り戻すことも絶望的である。当然、偽広告詐欺師たちにとってはリスクの低い”仕事”となるわけで、偽広告の勢いが止まることはない。

自称著名人アカウントやアシスタントの元“中の人”たち

「現地の人たちは詐欺というより遊びに近い感覚、アルバイトでやってます。昔は日本人がたくさんいたけど、今は翻訳ソフトの機能も上がり、現地の人たちを安く雇っている」

 こう話すのは、かつて東南アジアに拠点を置き、その後摘発された特殊詐欺集団の”頭領”と親交のあった、元暴力団員のN氏だ。偽広告の作成には、中国の反社グループや、東南アジア各国の反社組織が関与しているとういう。

「日本でも”オレオレ詐欺”が流行っていますが、中国でも同様に、東南アジアなどの海外に拠点をおき、中国国内に電話をかけて詐欺を働く人たちが数多くいました。ただ、それは中国国内の経済が良かった時の話で、彼らのターゲットは言葉が同じ台湾、そして日本に移っていった。彼らの仕事のうちの一つが偽広告詐欺で、広告制作には日本人も絡んでいる。例えば、この著名人なら日本人が信用しやすいとか、日本語の添削をすることもあります。そこで働くのはタイ人やカンボジア人など東南アジア系の人たち。日本の若者のように、闇バイトで連れてこられた人もいれば、現地の司法当局と癒着によってマフィアが堂々”ビジネス”としてやっているパターンもあると聞きます」(N氏)

 偽広告の温床となっているプラットフォーム側が、こうした現状にどこまで本気で対峙し、問題解決に動くかは未知数である。最後に付け加えておくと、つい最近はX(旧Twitter)においても、有名人を騙る偽アカウントが散見され、やはりここで紹介したような投資詐欺へと誘導されるもようだ。プラットフォームが変わっても、オレオレ詐欺など従来の犯罪と比較しても足がつきにくく、費用もかからない偽広告詐欺、そしてなりすまし系の詐欺は、今なお犯罪組織にとって非常に使い勝手が良いものである事実だけは変わらない。

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