バスドライバーを疲れさせる「プルプル運転」とは何か? 自動運転時代の落とし穴! 過剰な安全対策が招く危険とは

「プルプル運転」の謎

バスドライバーのイメージ(画像:写真AC)

バスドライバーのイメージ(画像:写真AC)

 先日、大阪市内を走る自動運転バスの実証実験の映像がニュースで流れた。交通量の多い大都市圏で運賃を取って自動運転バスが走る国内では先進的な取り組みだ。その映像のなかで、ドライバーが「ハンドルから1cmほど手を浮かせて構えている姿」が映し出されていた。

 報道によれば、今回の自動運転はレベル2だそうなので、運転の主体はドライバーであり、システムは支援を行うのみである。だからこの

「(手が)プルプル運転」

は、何かあればドライバーが直ちに操作できるという要件を満たそうとしてのものと考えられる。映像にはドライバーの足は映っていなかったが、同じ考え方であれば、足もプルプルしながらペダルの上に浮かせているに違いない。

 この過剰とも思える待機姿勢は、果たして本当に必要な「構え」なのだろうか。

 実は道交法や道路運送車両法のなかには、ドライバーがどのくらいの時間で運転を引き継がなければならないのかの具体的な時間は書かれていない。それどころか、例えば道交法には

「自動運行装置により自動車を安全に運転することができなくなったときは、当該自動運行装置の使用を終了しなければならない」

と書いてあるだけで、「直ちに」とか「いつでも」のような表現も見当たらない。しかし、現場では

「一瞬たりとも遅れてはならない」

という過剰な解釈が独り歩きを始めているのかもしれない。

疲労と緊張で運転能力低下

自動運転のレベル分けについて(画像:国土交通省)

自動運転のレベル分けについて(画像:国土交通省)

 このようなプルプル運転は、人間工学的な観点からもあまり好ましくないだろう。実際に試してみればわかるが、手足を宙に浮かせた状態を長時間維持するのはものすごく疲れる。

 ハンドルを持っていれば、手の重さをハンドルに預けることができるが、揺れる車内でハンドルを触らずに一定の空間を維持するためには、筋肉も神経も常に緊張していなければならない。もちろん足も同様だ。このような緊張は、単なる不快感にとどまらず、実際の危険場面での対応力を低下させる可能性が高い。

 特に深刻なのは、

「ペダル操作への影響」

である。路線バスには立っている乗客もいるので、急ブレーキは車内人身事故を引き起こす可能性がある。だから、非常に繊細なブレーキ操作が要求される。

 しかし、足を宙に浮かせた状態から、適切な強さでブレーキを踏むことは極めて困難だ。むしろ、足を自然な位置に置いておき、必要なときに落ち着いて操作する方が、はるかに正確なブレーキングが可能なはずである。

自動運転時代に旧式インターフェース

道路交通法のイメージ(画像:写真AC)

道路交通法のイメージ(画像:写真AC)

 同様に、ハンドル操作についても、手を宙に浮かせた状態は問題が多い。緊急時のステアリング操作には、適度な力加減と正確な舵角制御が必要となる。

 しかし、すでに疲労している腕で、突然の危険に適切に対応できるだろうか。膝の上などに自然に手を置いておき、必要に応じて素早くハンドルを握る方が、より確実な対応が可能ではないだろうか。

 より本質的な問題は、自動運転を行おうとしているのに、ハンドルやペダルなどの

「人間が運転するインターフェース」

をそのまま使おうとしていることにあるのかもしれない。ハンドルやペダルという操作系は、常時人間が運転することを前提に設計されている。

 もっといえば、これらの操作系は、パワーステアリングやブレーキブースターが存在しなかった時代に、人間の限られた筋力でも車両をコントロールできるように考えられたインターフェースだ。

 操作のほとんどが電気信号に変換され、コンピューターを介して制御されている時代に、まして自動運転が始まろうとする時代に、いつまでも旧式のインターフェースを使い続けるのは無理があるのかもしれない。

ドライバーの負担を減らすインターフェース

エアバスA380の操縦室。左側の座席の左側と右側の座席の右側に、黒いサイドスティックがある。中央コンソールのスロットルコントロールは黒色で、1~4と表示されている(画像:Naddsy)

エアバスA380の操縦室。左側の座席の左側と右側の座席の右側に、黒いサイドスティックがある。中央コンソールのスロットルコントロールは黒色で、1~4と表示されている(画像:Naddsy)

 航空業界では、すでにこの課題に対する解決策を見いだしている。

 現代の多くの旅客機では、従来の操縦かんに代わってサイドスティックが採用されている。これにより、パイロットはより自然な姿勢で操縦が可能となり、自動運航時の監視業務との両立も容易になった。

 自動車にどのようなインターフェースが適しているかは議論の余地があるが、ドライバーの役割が「運転」から

「監視」

に変わりつつあるのだから、インターフェースの側もこれに応じた最適化を行わなければならないだろう。

 自動運転技術の導入は、人間の負担を軽減し、より安全で快適な移動を実現するためのものである。しかし、現状の運用では、かえってドライバーに

・不自然な緊張
・疲労

を強いており、本末転倒である。安全性は妥協できない要素だが、ドライバーが適度にリラックスした状態で、確実に監視業務を遂行できる環境を整えることが負担軽減にも安全にもつながるのではないだろうか。

 当面は現行の車両のインターフェースを使い続けざるを得ないが、そのなかでもより合理的な運用は可能なはずだ。交通事故の判例では、人間に求められる反応時間を

「0.75~0.8秒」

とすることが多いが、これは手や足を自然な位置に置いた状態でも実現できる反応時間である。だからドライバーは不自然な姿勢で手足をプルプルさせなくてもよいはずだ。

過剰な安全対策が招くリスク

自動運転のイメージ(画像:Pexels)

自動運転のイメージ(画像:Pexels)

 プルプル運転は、より高いレベルの自動運転へと移行していくための過渡期の措置であるとは思うが、過剰な安全対策によってかえってリスクが高まる状況は好ましくない。

 現状の矛盾を解決するためにも、今後より高度な自動化を進めるにあたっても、

・人間工学的な視点
・自動運転技術の本質的な目的を見失わない姿勢

が重要だと思うのだがいかがだろうか。

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