満月の夜、なぜ「野生動物との衝突事故」が1.5倍も増加するのか? 11月16日「ビーバームーン」で考える

冬の満月が引き起こす運転リスク

満月(画像:写真AC)

満月(画像:写真AC)

 10月17日のスーパームーンに続き、11月16日の満月は「ビーバームーン」と呼ばれている。これはビーバーが冬の準備を始める時期にちなんだ名前だ。さらに、12月15日の満月は「コールドムーン」と呼ばれ、寒さが厳しくなる冬を象徴する月だ。

 冬は夜が長く、晴れる日が多いため、満月をじっくり観察する機会も増える。そのため、冬の満月は印象に残りやすい。

 最近の研究では満月の夜に車を運転する際、特に注意が必要だといわれている。後述するが、実際、満月の夜は新月の夜に比べて車と野生動物の衝突事故が多くなるというデータがある。

 夜間の運転は昼間よりも注意が必要なのはいうまでもないが、夜はドライバーが疲れていることが多く、注意力が低下しやすい。さらに、満月の夜は晴れていれば普段よりも明るいため、安心しすぎて注意が緩んでしまうこともある。

衝突事故「46%」増加

テキサスA&M大学(画像:OpenStreetMap)

テキサスA&M大学(画像:OpenStreetMap)

 米テキサスA&M大学の研究チームが2024年8月に「Transportation Research Part D: Transport and Environment」で発表した研究によると、満月の夜は新月の夜よりも野生動物との衝突事故が

「45.8%」

増加することがわかった。

 研究チームはテキサス州で過去10年間の衝突事故データを集め、満月と新月の夜の野生動物との衝突事故を比較した。その結果、野生動物以外の事故には大きな違いはなかったが、野生動物との衝突事故は満月の夜の方が新月の夜よりも多かった。この傾向は都市部よりも野生動物が多い郊外で顕著だった。

 研究結果を踏まえると、ドライバーは満月の夜、特に明るい夜に注意を強化する必要があり、

・安全対策
・交通インフラの改善

を考えるべきだという問題提起にもつながる。

 満月の夜に野生動物との衝突事故が増える理由は完全には解明されていないが、

・普段よりも明るい月明かりがドライバーの注意力を低下させる
・野生動物の活動が活発になる

ことが考えられる。そのため、交通科学と動物行動学の両面からさらなる研究が必要とされるかもしれない。

 また、農村部の道路の照明や高速道路沿いの野生動物警告パネル、夜間の緊急サービスなどの改善についても、専門家による検討が求められるだろう。日本でも野生動物との衝突事故が増えているため、今回の研究結果は重要な警鐘となるべきだ。

「7万件超」ロードキルの現実と対策

ロードキルのイメージ(画像:写真AC)

ロードキルのイメージ(画像:写真AC)

 道路上で発生する野生動物の死亡事故、いわゆる「ロードキル」は、モータリゼーションにともなう深刻な問題である。国土交通省の報告によると、2022年度における直轄国道でのロードキル件数は約

「7万件」

にのぼる。

 ロードキルの犠牲になる野生動物には、シカやクマ、イノシシなどの大型動物から、タヌキ、キツネ、イヌ、ネコなどの中型動物、さらには鳥類などの小型動物まで多岐にわたるが、その中で最も多いのは中型動物である。

 衝突被害を軽減するためのAEB(衝突被害軽減ブレーキ)は、中型動物以下の検知や衝突防止には十分に効果的でないこともあるといわれている。しかし、それでも備えている方が事故防止に役立つのは確かだ。2024年、このAEBの性能が大きく向上したことが報告されている。

 米国自動車協会(AAA)は、10月24日に発表したリポートで、2017~2018年モデルの車両と2024年モデルの車両のAEBシステムを比較し、2024年モデルのAEBが着実に改善されていることを報告している。

 AEBは、先進運転支援システム(ADAS)の一部で、センサーを利用して車両やその他の障害物との衝突の危険を検知する。もし衝突の危険があると判断され、ドライバーの反応が遅れると、システムは自動的にブレーキをかけ、車両を減速させるか、完全に停止させることで衝撃を軽減するか、衝突を回避しようとする。

高速走行で残る課題、

論文「Does wildlife-vehicle collision frequency increase on full moon nights? A case-crossover analysis(野生動物と車の衝突頻度は満月の夜に増加するのか? ケース・クロスオーバー分析)」(画像:Transportation Research Part D: Transport and Environment)

論文「Does wildlife-vehicle collision frequency increase on full moon nights? A case-crossover analysis(野生動物と車の衝突頻度は満月の夜に増加するのか? ケース・クロスオーバー分析)」(画像:Transportation Research Part D: Transport and Environment)

 検証実験では、各車両のAEBを時速

・12マイル(約19km)
・25マイル(約40km)
・35マイル(約56km)

でテストし、AEBが追突事故をどのように防ぐかを確認した。

 旧型モデルのAEBは衝突を51%しか回避できなかったが、2024年型車両のAEBはどの速度でも衝突を100%回避した。さらに、2024年型では時速45マイル(約72km)でもテストを行った結果、4台中3台が衝突を回避。しかし、時速55マイル(約89km)では、残念ながらすべて衝突を回避できなかった。

 高速走行時にはまだ課題が残るものの、AEBの性能が着実に向上していることが確認でき、技術の進歩が感じられる。

 ただし、AAAは、ドライバーがテクノロジーに完全に頼るべきではないと強調している。AEBは衝突の被害を軽減したり、衝突を防ぐのに役立つが、自動運転技術ではないため、ドライバーの注意が必要である。

 走行速度が高いほどAEBの効果は低くなり、ロードキルのリスクも高まる。安全運転はもちろんのこと、速度には常に注意を払いながら運転することが大切だ。旅行中にレンタカーを利用する際は、特に野生動物が多い地域では、不慣れな車での運転に気をつけ、野生動物をひかないよう心掛けたい。

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