「なんでこんなに遅いの」 スターリンク導入で「機内Wi-Fi」が劇的に進化する根本理由
航空業界の大変革
多くの航空会社でWi-Fiサービスが利用できるものの、実際には通信が遅く、天候や地域によって接続が不安定で、満足のいく使い勝手とはいえない状況だ。
そんななか、注目を集めているのがスペースXが提供する「スターリンク(Starlink)」だ。ユナイテッド航空は他社に先駆けて、2026年からこの衛星通信を使った機内インターネット接続サービスをスタートさせることを発表した。
これは航空業界最大規模の契約で、1000機以上の機体でスマートフォンなどWi-Fi対応機器によるネット接続が無料で利用できるようになる。
また、ハワイアン航空も日本路線を含むアジアやオセアニア路線のエアバスA330型機にスターリンクの導入を完了したことを発表している。
解消する遅延と不安定通信
スターリンクの衛星通信を導入すれば、通信の遅延や不安定さが解消されると期待されている。スターリンクは高速で低遅延が特徴で、特にリアルタイムでのやり取りが求められる場面で強力な効果を発揮する。
高度約550kmの
「低軌道衛星」
を使っており、通信距離が短いため遅延が少なく、高速な通信が可能になる。また、複数の低軌道衛星を活用することで、帯域幅(同時に送受信できるデータ量)が広がり、多くの端末を同時接続しても安定した通信ができる。
一方、現在多くの航空会社が使っている衛星通信は「静止軌道衛星」で、高度約3万6000kmの位置にあり、通信距離が長く、遅延が発生しやすい。
また、帯域幅が限られているため、複数端末を同時接続すると通信速度が低下しやすいのだ。
スターリンクは、複数の衛星を使って通信網を構築しており、通信距離が短いため、信号が大気を通過する時間も短く、地球の周りを周回するため天候や地理的な影響を受けにくい。
また、複数の衛星を使用しているため、台風の影響を受けた場合でも、他の衛星がその分をカバーできる。スターリンクを使うことで、どんな場所や状況でも、天候や地理の影響を受けず、安定した通信が可能になる。
一方で、従来の静止軌道衛星を使った機内Wi-Fiは、天候やフライトルートの影響で接続が不安定になることが多い。特に悪天候や海上、山岳地帯、高緯度地域では通信が途切れやすい。そのため、スターリンクの導入によって、高速で低遅延な快適な通信環境が期待されている。
航空機事故時の連絡強化
スターリンクを導入することで、これまで連絡が困難だった場面でも活用できると期待されている。例えば、航空機事故が発生した際、過去にはパイロットとの連絡が取れなくなることがあった。
もし事故の衝撃で機内ハンドセット(通信機器)が故障しても、安定した通信手段があれば、コックピットと客室乗務員(CA)との迅速な意思疎通が可能になるだろう。
また、医療サポートが必要な緊急時にも役立つだろう。機内で病人が発生した場合、専門の医療従事者が搭乗している可能性は低いため、衛星通信を使って地上の専門家と連絡を取り、アドバイスを受けることができる。緊急時には一刻を争う判断が求められるため、これが大きな助けとなる。
スターリンクの強みは、高速で低遅延な通信を提供するだけでなく、完全に無料で利用できる点だ。この流れを受けて、多くの航空会社がWi-Fi無料化を進めている。
例えば、JALは2024年10月1日から、国際線エコノミークラスでも一部のWi-Fiサービスを無料で提供することを発表した。ANAでも、国際線ファーストクラスやビジネスクラスに加え、エコノミークラスでもテキスト通信が無料で提供されるようになっている。
Wi-Fiの無料化が進むことで、利用者にとってより身近で快適な空の旅が実現するだろう。
低軌道衛星が変える日常通信
これから数年で、機内の通信環境は大きな変化を迎えることになる。
現在、日本の航空会社では、JALの子会社であるZIPAIRが機内インターネットの高速化に向けて、スターリンクの導入を検討している。この取り組みは、日本国内の航空機内通信に革命をもたらす可能性が高い。
また、スターリンクは機内だけでなく、地上でも注目されている。
例えば、2024年1月1日に発生した能登半島地震では、通信手段を確保するために重要な役割を果たしたことが記憶に新しい。
低軌道衛星通信は、地上の状況や気象に関係なく、安定したWi-Fiサービスを提供できるため、飛行機内だけでなく、私たちの日常生活にも大きな利点をもたらし、緊急時の重要な支援手段となる可能性がある。
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Merkmal