自動車産業の10分の1も、成長は無限大! 農林水産物輸出が切り開く「モノづくり日本」再生への道筋とは?
海を渡る農林水産物・食品
9月中旬に、日本政府と中国政府が日本産水産物の輸入再開について合意したと報道された。実際には、合意したものの再開時期は未定とのことである(産経新聞によると、11月11日時点で、中国は、福島第1原発の処理水海洋放出分析結果を確認後、日本産水産物の輸入を段階的に再開する方針)。
日本産水産物の禁輸措置が緩和されれば、水産物の需要が回復し価格も上昇すると見られており、期待を寄せる関係者が多い。水産物の関係者が一大消費地である中国の動向が気になる一方で、今や日本産の農林水産物・食品は海を渡って世界各地に届けられている。
中国による日本産水産物の禁輸措置が始まったときは、ホタテやウニがマスコミで取り上げられていたが、日本各地の生産地では、さまざまな水産物の輸出に力を入れている。宮城、広島といったカキの生産地は、輸出に力を入れており、中国・香港を除くと
・東南アジア
・オーストラリア
・欧州
まで販路を拡大している。山口県下関市の下関ふく輸出組合は、1989(平成元)年から米国向けにフグを輸出しており、シンガポールやマレーシアなどへ販路を拡大してきた。
農産物の輸出といえば、イチゴを思い浮かべる人も多いのではないだろうか。畜産産業振興機構の資料によると、2021年の輸出量は1776tであり2014年と比較すると
「8.6倍」
にも成長している。以前は台湾、香港、シンガポールといったアジア中心だったが、米国やドバイにも広がっている。畜産物では、タマゴの輸出が顕著に伸びてきている。
輸出は10年間で飛躍的に増加
農林水産物・食品の輸出額は、円安の追い風もあり2023年に過去最高を記録し、1兆4547億円となった。2012(平成24)年の実績はわずか4497億円であり、ここ10年間で
「3倍以上」
も拡大していることがわかる。加工食品や畜産品、野菜、果物といった農産物、木材などの林産物、および水産物の輸出額の推移を見てみよう(農林水産省)。
●農産物
・2012年:2680億円
・2017年:4966億円
・2023年:9064億円
●林産物
・2012年:118億円
・2017年:355億円
・2023年:621億円
●水産物
・2012年:1698億円
・2017年:2749億円
・2023年:3901億円
ここ10年間では、どの分野も輸出を拡大していることがわかる。2023年の農産物の内訳と見ると、
・加工食品:5103億円
・畜産品:1321億円
・穀物等:667億円
・野菜・果物等:671億円
・その他農産物(たばこ、緑茶等):1301億円
となっている。加工食品は、日本酒やウイスキーといったアルコール飲料、調味料、菓子、醤油などが含まれており、これらのなかではアルコール飲料が1350億円と最も多い。例えば獺祭で有名な山口県の旭酒造は、2002年の台湾向けの輸出を皮切りに、今では米国、欧州、中国、台湾など30か国・地域以上で販売している。2022年度は、輸出額70億2014万円を記録した。
2023年の実績を国・地域別で見ると。
・1位:中国 2376億円
・2位:香港 2365億円
・3位:米国 2062億円
・4位:台湾 1532億円
・5位 韓国 761億円
となっている。6位以降は、
・ベトナム
・シンガポール
・タイ
・オーストラリア
・フィリピン
と続いており、農林水産物・食品であるがゆえか、輸出先がかたよっているのが気になるところだ。
農林水産物・食品の場合、鮮度や味の維持といった課題もあるが、国や地域との政治的な課題、食品安全基準といった課題もクリアしなければならないため、販路を拡大するのが難しい面もある。そのような状況下であっても地道に販路を拡大しており、欧州連合(EU)でさえ724億円まで伸びてきている。
農林水産物・食品の輸送方法は航空貨物と貨物船
農林水産物・食品の輸出方法は、もちろん
・航空貨物
・貨物船
のいずれかとなる。
航空便のメリットは、なんといっても速達性、安全性・確実性だろう。鮮度が求められる農林水産物・食品は航空便でといきたいところであるが、貨物船と比較して一度で運べる重量が限られていることや、料金が高いことがネックとなる。
一方貨物船は、安価に大量に運べるところであるが、安全性・確実性に劣る。例えばカキの場合、鮮度が命の生ガキは航空貨物で、時間のしばりが少ない冷凍カキは貨物船でとうまく使い分けられている。イチゴは、傷がつくと商品価値が下がるため、損傷防止の観点から航空貨物が使用されてきた。
ただ、航空貨物だと確実ではあるが、運賃の高さから現地では高級品とならざるをえない。そこで、近年では外観・果肉品質の低下を抑えながら、イチゴを貨物船で輸送する方法が考案されている。
また、海上コンテナも野菜や果物を輸送できるように進化してきた。コンテナ内の温度調節が可能なリーファーコンテナに加え、酸素や二酸化炭素濃度もコントロールできるCA(Controlled Atmosphere)コンテナが活躍している。
実は、野菜や果物は収穫後も呼吸をしており、その呼吸が品質を低下させる原因だった。そこでCAコンテナを開発し、酸素や二酸化炭素濃度の濃度をコントロールすることで野菜や果物の呼吸を抑え、かつ鮮度を保つことに成功したのだ。CAコンテナは、今や良質な野菜や果物の輸出には欠かせないといっていい。
農業・漁業でモノづくりがカギ
農林水産物・食品の輸出額が、2023年に1兆4547億円と過去最高を記録したとはいえ、自動車の17兆2652億円と比較すると「約10分の1」にすぎない。しかしながら、裏を返せば現状は
「伸びしろしかない」
と捉えることもできる。これからは、自動車といった産業製品だけがモノづくりではなく、農業・漁業もモノづくりだと認識すべきではないだろうか。
もうからない、収入が少ないから農業や漁業のなり手がいないのであれば、輸出に活路を見いだして、稼げる工夫をすべきだ。
欧州の料理番組を見ていると、キタアカリやシイタケ、エノキ、ミソなど、なじみのある日本の食材が普通に使われていることに気づく。安全で良質な食材は、国に関係なく需要があるということだ。もし商品に自信があり、買い手がいるなら、もっと積極的に商売をして、国内の何倍、何十倍の価格で販売してもいい。農林水産物・食品は、外貨を稼ぎ得る可能性を大いに秘めており、
「海を渡って輸送するロジスティクス分野」
の役割がますます重要になってくるだろう。
11/14 14:11
Merkmal