男性専用車両は必要?不要? SNSで巻き起こる「男女平等vs安全重視」という対決構造、大阪イベント中止で考える
社会が見過ごす「男性の苦境」
2024年11月8日にJ-CASTニュースに掲載された記事「大阪初の『男性専用車両』イベントが中止に 条件付きで話進むも一転…路面電車運行会社『許可出した認識ない』」が大きな反響を呼んだ。男性専用車両イベントは、NPO法人日本弱者男性センターによるもので、過去4回は「東京さくらトラム(都電荒川線)」で開催されていた。
今回は、
「車両を借りられる日程の調整がつかなかったため」(『産経新聞』2024年11月2日付)
東京ではなく大阪で企画を進めていた。
同センターは2022年7月に設立された。2023年10月に発表されたプレスリリースによると、主な活動内容は以下のとおりだ。
・弱者男性に関する社会的認知及び理解への広報活動
・ホームレスや職を失っている男性の生活保護受給や就職活動支援
・DVや性犯罪被害者、痴漢等の冤罪に巻き込まれた男性の支援
・精神疾患や障害を持つ男性の生活支援等
設立の背景には、次のような思いがある。
「「男性専用車両」を始めるきっかけの様に社会では電車による女性専用車両設立やDVシェルターの殆どが女性専用である事等、社会的に女性の支援ばかりに目がいっており、同じような被害にあった男性に対しては「男だから大丈夫だろう?」「男だから性犯罪の被害者や女性からDVを受けるわけがない」といった差別を受けている様に感じられます。その為、私達は少数かも知れませんがそういう被害にあっている男性達を支援する活動を行いたいと思い「男性の幸福を願う男性」を幸せにし、真の男女平等の社会を実現したいと考えてNPO法人として設立いたしました」
弱者男性とは、現代日本社会で使われる言葉で、社会的、経済的、恋愛的に困難を抱えた男性を指す。具体的には、仕事や家庭、恋愛でうまくいかない、経済的に困っている、または社会的に孤立している男性を指すことが多い。また、外見や経済状況、社会的スキルなどが原因で恋愛や婚活がうまくいかない男性にも使われることがある。さらに、社会の男性に対する期待や規範に応えられないと感じる男性も含まれる場合がある。
男性専用車両の難しい現実
日本弱者男性センターによれば、東京ではなく大阪で企画を進めていた結果、9月に阪堺電車(阪堺電気軌道。大阪市内と堺市内で2路線の路面電車を運行している)にイベントの趣旨などを説明した上で予約していたが、10月に貸し出しができないといわれた。
話し合いの結果、制約付きでの貸し出しが可能とされたが、11月に入ってやはり貸し出すことができないといわれたという。その理由は、
「男性専用車両を推奨している会社だと思われたくない」(産経新聞)
「総合判断の結果という以上のことは申し上げられない」(J-CASTニュース)
と記載されている。阪堺電車は、基本として1両34名程度まで
「6万円(税込み)」
で貸し切り可能だ。ウェブサイトには、パーティー含め
「使い方はアイデア次第のフリースペースです」
とある一方で、「ご利用目的・内容によってはご利用をお断りさせていただく場合がございます」とも書かれている。
男性専用車両イベントは、
「男性にも女性が苦手な方や痴漢(痴女)や性犯罪の被害又は冤罪によって辛い人生を歩まれている方おります。そういった方々の為に1日も早く男性専用車両が一般的に設立されるよう」(同センターウェブサイト)
アピールするものだ。
女性専用車両の存在理由
痴漢対策として女性専用車両は国の主導で進められている。2023年3月の男女共同参画局『痴漢撲滅に向けた政策パッケージ』には
「性別・年齢に関係なく被害者となり得ることにも留意が必要」
とあるが、2024年4月に行われた実行連絡会議(第2回)の資料にも、男性専用車両について言及されていない。
女性専用車両は、関西では2002(平成14)年以降、関東では2005年以降、導入が開始され、令和のいまも続いている。
ことの発端は、国土交通省が「女性の社会進出を支える環境づくり」の一環として
「女性の視点から見た交通サービス」
の検討を進めるなかで、2002年にアンケート調査を行い、女性専用車両の導入に対するニーズが高いことが判明したことに起因する。同省によると、2023年3月末時点で32事業者91路線で導入と報告しており、
「女性専用車両の導入・定着に向け、導入状況の関係機関への情報提供など、引き続き実施する」
予定である。
女性専用車両の導入で、鉄道事業者も乗客も一番気にするのは、
「乗車人数の偏り」
である。女性専用車両が空いているのに一般車両が混んでいると“女性優遇”になってしまう。そのため鉄道事業者は、そうならないよう状況を見ながら導入している。
筆者の意見
筆者(才田怜、ジェンダー研究家)は個人的に、男性専用車両も女性専用車両も
「正しい解決策ではない」
と考えている。女性専用車両だけがあるのは不公平に見えるかもしれないが、だからといって男性専用車両を作れば平等になるかというと、むしろ
「さらにいびつな構造になる」
気がする。しかし、どちらの専用車両がなくても安全な時代が来るまでには時間がかかる。過渡期の対策としては“あり”なのではないか。
男性専用車両について、SNSを見る限り、日本では男女ともに賛成派が多い印象を受ける。多くの男性が痴漢の冤罪(えんざい)によって、社会的な立場が“終了”することを恐れているからだ。女性側も、家族や恋人といった身近な男性が、痴漢冤罪(えんざい)になることを恐れている。男性が性被害に遭う危険を認識している女性も少なくない。
また、
「女性ばかり専用車両があってずるい」
と思われることにうんざりしているから、男性専用車両があった方がいいと考える人もいる。シンプルに「女性専用車両があるなら男性専用車両があってもいいのではないか」と書いている意見もよく目にする。
つまり、男性専用車両は、男女ともに
「メリットがある」
と考える人が多いようなのだ。
反対意見や異なる視点
男性専用車両に反対する意見もある。男女平等に対する見方からの反対意見だ。
「男女平等を目指すのではなく、単に分断するに過ぎない」
「多様性を目指す流れをさらに逆行させる」
男性利用者としての危惧もある。
「男性専用車両ができたら、一般車両に乗っていると痴漢するつもりだと思われてしまうのではないか」
「男性専用車両で男性から性被害に遭うのではないか」
また、電車の車両を乗り換えの便利さで選んでいる人が、“乗車位置が選べない”ことで一層不便になると心配する声もある。
専用車両は暫定措置
ここまで見てきて、男性専用車両、女性専用車両が増えていくことで、乗車・下車に便利な車両に乗りたいという
「選択の自由」
が制限されることを改めて不便に感じた。
男性専用車両を導入することで、よくなることもあれば、新たな問題も生まれる。
男性・女性ともに専用車両は導入するにしても、例えば
「10年先まで」
と期限を決めたらどうか。
簡単でないにせよ、それまでに
・電車の混雑を減らす(鉄道会社の利益にも影響するが)
・監視カメラを導入する
・国民の意識を変えていく
といった準備期間にするのがいいと思うのだが、皆さんはどう考えるだろうか。
11/13 11:50
Merkmal