欧州を震撼させる「中国発通販サイト」 ドイツではすでに約130万人利用も、ECサイトは“関税のがれ”にすぎないのか?

欧州におけるTemuの快進撃

越境ECのイメージ(画像:Pexels)

越境ECのイメージ(画像:Pexels)

 中国発のショッピングモール型通販サイト「Temu」が欧州に上陸し、利用者を猛スピードで伸ばしている。ドイツでは、2023年4月のサービス開始にもかかわらず、2024年上半期でAmazon、eBay、Otto、Zalando、Kauflandに次いで第6位にランクインし、半年間で約130万人が利用した。

 欧州連合(EU)全体では、毎月7500万人がTemuを利用しているとの調査結果もある。Temuの快進撃は、日本でも知られているところだろう。日本での参入は2023年7月だったにもかかわらず、2024年1月には利用者が1500万人を超え、今ではAmazon、楽天市場、Yahoo!ショッピングに続きトップ4の一角をなしている。

 他国のECサイトの売り上げが増加すればするほど、地元の商工業者とのあつれきが生じるのが世の常だ。欧州では、商品の

・品質
・不当な廉価販売
・ダークパターン

が批判されている。ダークパターンとは、現在何百名が購入を検討している、あともう少しで在庫が切れる、個人情報の開示をせまる、解約を難しくするなど、ユーザーをだまし、判断を誤らせるインターフェースをいう。そして、欧州でより問題となっているのは

「関税のがれ」

である。

150ユーロ以下は非関税のルール

Temuのウェブサイト(画像:Temu)

Temuのウェブサイト(画像:Temu)

 EU域内に商品を輸入する場合、150ユーロ(約2万5000円)以下は非関税というルールがある。ECサイトで150ユーロ以下の商品を購入すると、もちろん関税はかからない。

 ただ一方で、ある欧州の業者が同じ商品を大量ロットで輸入した場合、関税を払うこととなり商品価格にも関税がのせられる。その結果、商品を輸入して販売する業者は価格で太刀打ちできなくなるのはいうまでもない。関税を回避したECサイトの廉売が、不当ではないかと不満を抱くのも自然な流れだろう。

 もうひとつ疑いの目がかけられているのが、

・過小申告
・意図的な分割による租税回避

だ。商品価格は、書類ベースであり、そこに150ユーロ以下の価格が記載されていれば関税がかからない。税関職員が開封して調べると、50ユーロと記載されていた商品が1000ユーロを超えていたこともあったそうだ。

 悪質な例では、製品を分割して150ユーロ以下で欧州に送り、現地で組み立てて丸々関税を回避している。EU委員会の調査では、2023年

「約20億個」

の過少申告があったという。また、150ユーロ以下の輸入小包のうち65%が過少申告されているのではないかとみられている。

とはいえ、ECサイトの日常化によって、今や輸入小包が膨大な数になっている。欧州最大の航空貨物センターであるベルギーのリエージュ空港には、中国から日々100万個以上の輸入小包が届いているのだ。これだけの小包の数をわずかな税関職員でチェックするのは不可能といっていい。つまり、申告ベースで処理するしかないのだ。

 ちなみに、日本で国内に拠点のない海外のECサイトで買い物をすると消費税および関税の対象となるが、課税免除のルールがある。課税価格が1万円以下の場合、つまり商品価格にして1万6666円未満の場合は免除される。ただし、革製のカバンなど関税を免除されない物品もある。

150ユーロ以下の非関税ルールの撤廃も視野に

越境ECのイメージ(画像:Pexels)

越境ECのイメージ(画像:Pexels)

 過少申告も分割もやり放題の現状では、EU各国や地元企業が関税を回避した不当廉売が公正な競争を妨げていると主張するのは無理もない。

 ドイツでは、けん制目的として大ホールに輸入小包を集め、大量に学生アルバイトを投入して定期的に全数チェックをすべきだと主張する意見もあるくらいだ。

 なおEUの規制当局は、輸入小包の過少申告や分割問題を受け、2028年までに150ユーロ以下の非関税ルール撤廃を検討し決定を下すとしている。

 また、EUでは関税だけでなく

「輸入売上税」

の問題もある。EUに商品を輸入する場合、関税のほか輸入売上税(150ユーロ以下の商品にも適用)を支払わなければならない。海外の事業者の場合、EU域内のどこかの国に登録して輸入売上税を支払うこととなる。

 例えば、TemuやShein(中国発のファッション通販サイト)はアイルランドに登録しており、アイルランドに支払われた輸入売上税が各国に配分されている。ただ、この配分される金額が実態にあっていないとドイツは批判している。これは、輸入小包データのプラットホームの未整備に起因しており、EUならではの問題といえなくもない。

ECサイトの特性と課税ルールのミスマッチ

越境ECのイメージ(画像:Pexels)

越境ECのイメージ(画像:Pexels)

 ひと昔前は、個人が海外のショップで購入して商品を取り寄せる方法は「個人輸入」とも呼ばれ、数は多くはなかった。

 しかしながら、国を超えたECサイト通販が日常化した今日では、個人で購入した輸入小包が増える一方だ。輸入業者が大量に輸入して関税を支払い、国内で販売することを前提とした関税の仕組みでは、

「毎日送り続けられる大量の小包」

には対応不可といっていい。そういう意味では、150ユーロ以下非関税ルールを撤廃して、おしなべて関税を徴収するのもありかもしれない。とはいえ、記載された金額ベースでの課税額とならざるを得ず、過少申告はなくなることはないだろう。

 もちろん、関税や輸入売上税の脱税を防ぐ取り組みも行われている。ドイツでは、法律を改正しECサイト運営者が税務署に協力することを義務付けた。さらには、国内に拠点のない海外の事業所を対象としたベルリン国際税務署を昨年末に設立した。

 大手のECサイトだけでなく、プラットホームを利用して販売する小売業者もベルリン国際税務署に登録しなければならない。これにより、登録した事業者数が合計115000以上(うち110000以上がアジア圏の事業者)となったという。ただ、数が数だけに事務処理だけでも膨大な作業量となるのはいうまでもない。

 ECサイトの普及により、小包の数が爆発的に膨れあがり

「配送能力の逼迫」

を引き起こしているが、国際的には税関や課税処理能力が限界を迎えているといえよう。今後は、ECサイトの特性にあわせた新たな国際ルールが生まれるかもしれない。

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