ボーイング1万7000人削減の衝撃! 「B777X」も完成延期で、ストライキ1兆円損失で泣きっ面に蜂! 一体どこへ向かうのか?

ストライキとB777X納品延期

B777X(画像:ボーイング)

B777X(画像:ボーイング)

 10月中旬、ボーイングは従業員の約10%に相当する約1万7000人を削減する計画を明らかにした。同社は、航空機の安全確保に向けて取り組んでいる最中でもあり、突然の人員削減の発表に驚くとともに、今以上に安全な航空機を製造できるのか疑問を持ったのはいうまでもない。

 実は、ボーイングは労働組合との関係が悪化し、ストライキが1か月以上続いており製造がままならない状況だ。ストライキによる損失は、ボーイングとサプライヤーを含めて

「約76億ドル(約1.2兆円)

との試算もあり、経営へのダメージの大きさがうかがえる。もちろん、

・三菱重工業
・川崎重工業

といった日本のサプライヤーにも影響が出ると見られている。

 ただ、ボーイングの従業員によるストライキは、ここ16年以上行われたことはなく、この蓄積してきた不満が一気に噴出したともいえなくもない。組合の関係者は

「ここ10年で失われたものを取り戻す」

としており、ストライキに対する思いは強い。10月24日付けの報道では、ボーイングが4年間で35%の賃金増を提案したものの、労働組合が拒否したのも自然な流れといえよう(11月5日の読売新聞によると、11月4日、ボーイングが提示した4年間で38%の賃上げを中心とする新しい労働協約案を承認した。9月13日に始まった16年ぶりのストライキは、約2か月で終わることになったという)。

 1万7000人削減やストライキに加え、開発中のB777Xの完成が2026年に延期されたという報道も見受けられた。8月下旬には、B777Xのテスト飛行が中止されており、延期の予兆はあった。納期を延期してでも航空機の安全を確保する姿勢は評価されるべきだろう。しかしながら、B777Xはもともと2021年の納入が計画されていたのであり、延期につぐ延期の影響がないことはない。

航空会社への大きな影響

B747-400(画像:ルフトハンザドイツ航空)

B747-400(画像:ルフトハンザドイツ航空)

 次から次へと出てくるボーイングの報道の一方で、頭を悩ませる航空会社もある。

 ドイツのルフトハンザ航空は、B777Xを導入し2021年からB747の置き換えを計画していたが、もちろん進んでいない。現在もB747-400とB747-8のふたつのタイプを使用している。

 このうちB747-400は、平均して24年以上使用しており、設備のアップグレードがままならず、燃費が格段に異なるため経済的な負担が続く見通しだ。現時点では、B777Xの納品遅れにより損失は明らかにされていないが、経営計画に影響を及ぼすのは間違いないだろう。

 機体の安全確保やストライキによりB737MAXの納入が遅れており、航空会社が新たな機体を確保できない状態が続いている。ライアンエアーは、ボーイング機を主として運用している欧州最大の格安航空会社である。機材不足により乗客数の目標を修正しなければならなくなり、薄利多売の格安航空会社にとっては厳しい状況には違いない。

 ユナイテッド航空は、非常扉脱落にともなうB737MAX9飛行禁止措置により2億ドルの追加費用が生じたが、B737MAX10の納入遅れの影響も受けておりふんだりけったりだ。また、米国の格安航空会社であるサウスウエスト航空も、B737MAXシリーズの納品遅れにより、輸送能力の見直しおよびフライトスケジュールの見直しを余儀なくされていた。

すでに納品待ち

中国東方航空のボーイング737-8(画像:N509FZ)

中国東方航空のボーイング737-8(画像:N509FZ)

「ボーイングがだめならエアバスで」

といきたいところであるが、エアバスは旺盛な需要を受けていっぱいいっぱいの状態だ。直近では、中国の航空機リース会社が80機のA320Neoを発注したことが明らかになっているが、最初の納入は2030年とのことだ。また、フィリピンのセブパシフィック航空は、70機のA321Neoを発注している。

 日本航空機開発協会による主要民間輸送機の受注・納入状況によると、2024年9月末現在における残高は、

・B737MAXシリーズ:5184機
・A320シリーズ:2980機
・A321シリーズ:4692機

となっている(出典は日本航空機開発協会)。B737MAXシリーズとA320・A321シリーズは、今現在需要が最も高い座席数200席前後の、近・中距離旅客機であり、ボーイング、エアバスいずれにとっても“稼ぎ頭”といっていい。A320・A321シリーズの2023年の納入機数を見ると、

・A320シリーズ:247機
・A321シリーズ:317機

であり(同出典)、残を解消するには単純計算で

「10年以上」

かかることがわかる。もちろん、エアバスは2026年までにA320ファミリーの生産を1か月あたり75機に増やすとしている。しかしながら、エンジンなどサプライヤーの生産能力次第で未達となる可能性が残されているのが気になるところだ。

安全を最優先する文化の醸成を祈るのみ

ケリー・オルトバーグCEO(画像:ボーイング)

ケリー・オルトバーグCEO(画像:ボーイング)

 ボーイングは、2024年8月にデビッド・カルフーン氏からケリー・オルトバーグ氏に最高経営責任者(CEO)を交代している。2020年にCEOに就任したカルフーン氏により、経営の立て直しを行っていたが、2024年1月に発生したB737MAXの非常扉脱落などの品質トラブルを受けて退任することとなった。

 つまるところ、カルフーン氏では

「安全性や品質管理よりもスピード重視で飛行機を生産してきた」

ボーイングの長年の文化を変えることができなかった。航空宇宙産業で35年以上の経験があるオルトバーグ氏の手腕に期待するところである。しかしながら、就任するやいなやストライキ問題が持ち上がり厳しい船出となったといえよう。

 ボーイングの現状は、非常にもったいない気がしてならない。引き続き航空機需要は高いと見られており、商機がないわけではないからだ。目の前においしい料理があるにもかかわらず、箸を使いこなせないため食べられないようなものだろう。

 安全を最優先する文化は、突然発生するものでも与えられるものでなく、経営者と従業員が時間をかけて積み上げていくものだ。オルトバーグCEOのもとで、過去の反省から安全を軽視することなく、地道に歩み続けることを期待するのみである。

ジャンルで探す