「V型エンジン」が高級車にめっきり採用されなくなった根本理由

V型エンジンの魅力とは

V型6気筒エンジンのイラスト(画像:本田技研工業)

V型6気筒エンジンのイラスト(画像:本田技研工業)

 パワフルでスムーズな動きを実現する「V型エンジン」。その魅力は、省スペースで高出力を発揮できることにある。例えば、V型6気筒エンジンなら、シリンダーが60度または90度の角度で配置され、コンパクトな設計が可能になる。

 このおかげでエンジンルームのスペースを有効活用でき、他の機器やシステムの配置も最適化できる。結果として、車全体のレイアウトが効率的になり、高級車らしいスタイルにも合うのが特徴だ。

 さらに、V型エンジンには低振動や高いエンジン剛性といったメリットもある。1950年代頃からフォーミュラーカーや高級車に採用され始め、国内でもトヨタや日産といった有名メーカーがV型エンジンを搭載した、パフォーマンスとエレガンスを兼ね備えた車を数多く世に送り出してきた。

 しかし近年、国内の高級車は直列エンジンやハイブリッドシステムへの移行が進んでいる。なぜ国産高級車はV型エンジンを搭載しなくなったのか、その理由を本記事で考察していく。

厳しい環境規制と燃費性能の悪さ

2.4L直列4気筒ターボエンジンを採用したトヨタ「クラウン(クロスオーバー)」(画像:トヨタ自動車)

2.4L直列4気筒ターボエンジンを採用したトヨタ「クラウン(クロスオーバー)」(画像:トヨタ自動車)

 V型エンジンの採用が減っている大きな理由のひとつは、環境規制が厳しくなっていることだ。

 V型エンジンは燃費効率があまりよくないため、燃費性能が重視される現在、選ばれにくくなっている。環境問題への関心が高まり、各国で排出ガス規制も強化されるなか、燃費の悪いV型エンジンは次第に使われなくなっている。

 最近の自動車業界では、燃費と環境への配慮が特に重要視されている。例えば、欧州では欧州連合(EU)がCO2排出量の制限を強化し、2030年までに新車のCO2排出量を約50%削減する目標が掲げられている。この影響で、各メーカーは燃費の良いエンジンや電動化技術の開発に力を入れている。

 例えばトヨタのクラウンは、以前はV型エンジンを採用していたが、2022年から販売している16代目エントリーモデルでは、直列エンジンやハイブリッドシステムを搭載している。これによって燃費性能が大幅に向上し、環境への負荷も軽減されている。

 またトヨタは、2030年までに全車種をハイブリッドか電動車にする目標を掲げ、電動化技術の開発を加速させている。次世代バッテリー技術や燃料電池車の普及にも力を入れ、2025年までに世界での販売台数の半分を電動車にする計画を立てており、その内訳にはハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)などが含まれている。

 日本国内でも、政府が2035年までに新車販売をすべて電動車にする方針を発表しており、このような政策の後押しもあって、各メーカーは環境対応型技術の開発に余念がない。V型エンジンから直列エンジンやハイブリッドシステムへの移行は、こうした厳しい環境規制や消費者の意識の高まりに応えるための、自然な流れといえる。

技術進化やコスト削減の影響も

新型直列6気筒エンジンを採用した「S 450」(画像:メルセデス・ベンツ日本)

新型直列6気筒エンジンを採用した「S 450」(画像:メルセデス・ベンツ日本)

 技術の進化やコスト削減の影響も、V型エンジンが減っている理由のひとつだ。

 直列エンジンは設計がシンプルで、製造コストの削減やメンテナンスのしやすさがメリット。シンプルな構造で組み立ても容易になり、部品の数も少なくなるため、全体的にコストを抑えられる。実際、直列エンジンの製造コストはV型エンジンに比べて20~30%安いといわれている。

 さらに、ハイブリッドシステムは燃費向上だけでなく、静かさや加速性能の向上も実現するため、消費者の好みにも合っている。HVは電動モーターとエンジンを組み合わせ、低速時はモーターのみで走行し、高速時はエンジンが効率よく動くことで、燃費を大きく向上させる。特に都市部での短距離移動で効果を発揮し、エンジンが不要なときはモーターが静かに作動するため、静粛性も高まる。

 例えば、メルセデス・ベンツは直列6気筒エンジンを採用し、効率的な設計でコスト削減を実現している。新技術を活用することで燃焼効率を高め、排ガスも削減。さらに、このエンジンには電動ターボチャージャーや48ボルトのマイルドハイブリッドシステムも組み合わせ、優れたパフォーマンスと環境性能を両立させている。

V型エンジンの行方

ミニバンの6気筒エンジンルーム(画像:写真AC)

ミニバンの6気筒エンジンルーム(画像:写真AC)

 では今後、V型エンジンはどうなっていくのか。環境規制や消費者のニーズを考えると、V型エンジンが再び主流に戻る可能性はかなり低い。

 前述のように、世界的な環境規制の強化に加えて、燃費効率が悪いというV型エンジンのデメリットも影響していて、各メーカーはより環境に優しいエンジン技術や電動化技術の開発に力を入れている。

 また、消費者の好みも電動化に影響を与えている。多くの人が環境への意識を高めていて、特に若い世代は化石燃料を使う従来のエンジン車よりも、HVやEVを選ぶ傾向が強まっている。

 インドの調査会社フォーチュン・ビジネス・インサイトによると、世界のEV市場規模は2024年には6714億7000万ドル、さらに2032年までに1兆8910億8000万ドル(約289兆円)に成長すると予測されている。予測期間中の年平均成長率は13.8%だ。2023年にはアジア太平洋地域が51.24%のシェアを獲得し、EV市場を独占している。

 また、コスト削減の面でもV型エンジンは厳しい状況だ。V型エンジンは構造が複雑で製造コストが高い。一方、直列エンジンや電動モーターはシンプルな設計で、コストを抑えやすい。自動車メーカーは競争が激しい市場で利益を確保するため、コスト削減のためにシンプルな設計のエンジンを採用する傾向が強まっている。

 こうした状況を踏まえると、V型エンジンが再び主流になる可能性はかなり低いだろう。自動車業界は環境規制とコスト競争のプレッシャーを受けて、電動化やハイブリッド化への移行を加速させている。将来的には、環境に優しい電動車が市場を支配し、V型エンジンは一部の高性能車や趣味性の高い車に限られるかもしれない。

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