「EV売らないと罰金300万円」 排出ゼロ規制がイギリス自動車業界を直撃、消費者の不満がネットにあふれるワケ
ゼロエミッション80%達成の現実味
英国では、2030年からガソリン車とディーゼル車の新車販売を中止する計画である。保守党政権下では、2030年2035年に延期されていたが、2024年7月に大勝した労働党が、選挙公約で2030年に戻すと約束している。ハイブリッド車の新車販売は、2035年まで継続されることになるという。
この計画を強力に推し進めるため、2024年1月に始まったのが、ゼロエミッション車(ZEV)規制である。メーカーが販売する新車の乗用車は、
「22%以上」
が電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)でないといけない。達成できない場合は、1台あたり最高
「1万5000ポンド(約295万円)」
の罰金を科せられる。目標を上回る成績を収めたメーカーからクレジットを購入するなどして回避する方法もある。2024年は22%だが、
・2025年:28%
・2026年:33%
と段階的に引き上げられていき、2030年には
「80%」
がゼロ・エミッション、残りの20%は特定のハイブリッドモデルにのみ割り当てられると現状はなっている。
2024年9月の全体の状況
ところで、英国では実際にEVはどれだけ売れているのか。2024年9月の総販売台数の20.5%がEVだった。年初来では17.8%であり、年末には
「18.5%程度」
になると英国自動車製造販売協会(SMMT)は予測している。
英国では9月と3月が自動車の売り時となっている。ナンバープレートには自動車購入年が判別できるような数字が入るのだが、9月と3月に数字が更新されるので、これらの月に買うと、より車の価値が長持ちすることになるからだ。
つまり、10月から12月に、これより大きく売れる可能性は高くない。
2024年9月のEV登録台数は、
「前例のない大幅値引き」
もあって、過去2番目に多い5万6387台(前年同月比24.4%)であった。
内訳としては、税制優遇は商業用購入にのみ適用されていることもあり、これらが4分の3以上(75.9%)を占めた。個人用は、410台にすぎなかった(『SMMT』2024年10月4日付け)。
英国は、EV先進国で欧州2位のEV市場を誇るが、2024年に入りEV需要の世界的な減速もあって低迷している。
メーカーの苦戦
EV需要が芳しくないなか、自動車メーカー各社は2024年、少なくとも20億ポンド(約3942億円)を値引きに使う予定だが、持続不可能といえるほど負担がかかっている。
SMMTとBMW、フォード、トヨタら大手メーカー13社の幹部らは財務大臣に書簡を送り、
「英国が政府の補助金を縮小しながら内燃機関の段階的廃止を急ごうとしている」
「義務化では市場は生まれない」
と主張し、新たなEV優遇策を要請した。
メーカー各社はここ数か月、短期的・長期的な戦略の調整を行ってきた(2024年10月15日付け、『This is MONEY』)
例えば、フィアットは販売減少のため500eモデルの生産を7週間停止し、ボクスホールはEV価格を大幅に引き下げ、トヨタは2026年のEV生産計画を下方修正といった具合だ。
る。
メルセデスやBMWは22%を上回る見込みだ。ホンダは2024年19%を目指している。日産は16.4%、ハイブリッドに注力するトヨタはわずか
「10.9%」
で年末を迎えると予想されていて、これは 全20社の主要自動車メーカーのなかで最低の数字だ。
しかし、環境シンクタンク『ニュー・オートモーティブ』の最高経営責任者ベン・ネルメス氏は、ライバル企業からクレジットを購入する可能性はあるが、2024年、ZEV関連の罰金を支払う必要のある自動車メーカーは
「1社もない」
と考えている。
ネット上に集まる個人の声
日本企業を含め、自動車メーカーが政策とEV低迷需要の板挟みになっている現状はわかったが、英国の消費者たちはどう考えているのか。インターネット上には、
「なぜ他人の車を割引するために税金を払わなければならないのか?」
「税金が企業に継続的に投入されてまだやるネットゼロとは?」
「一方で財務大臣は資金に困っている。EVは高価すぎるし、今後も変わらないだろう」
「EVを売りたいなら、開発費の回収のために価格をつり上げるのではなく、コストを自ら削減して利益を追求すべきだ」
「人々が購入したいと思う、リーズナブルな車をつくればいかなるインセンティブも必要なくなるはず」
といった意見が並んだ。英国でEVを購入する平均価格は約4万8000ポンド(約944万円)である。
2024年5月時点で102ものゼロエミッション車が市場に並び、スーパーミニからコンパクトクロスオーバー、高級セダン、スポーツカーまで選択肢は広がっているなか、普及拡大の妨げとなっている主な障壁は、特に
・手頃な価格
・充電への不安
である。
バッテリー航続距離は平均300マイル(約482km)に向かっており、450マイル(約724km)以上のものさえあるが、路上を走るプラグインハイブリッド車35台につき標準充電器が1台しかない(『SMMT』2024年5月23日付け)とのことだった。しかし2024年初頭以降、イングランドの高速道路サービスエリアには150kW以上のEV充電器が200台追加設置された。過去8か月間で
「51%増加」
し、設置数としては新記録となっている。(2024年10月8日付けき、『RAC』)。
今後価格がどう変化していくのかが、最も気になるところだろう。
10/25 05:41
Merkmal