「茅ヶ崎の米軍ヘリ = 予防着陸」という欺瞞! なぜ正々堂々「不時着」と呼ばないのか?

米軍ヘリ、茅ヶ崎海岸に不時着

ヘリコプター(画像:米海軍)

ヘリコプター(画像:米海軍)

 10月10日に米軍ヘリが不時着した。米海軍の艦載ヘリ、MH-60Rが厚木基地から離陸した直後に不調のため南方15kmにある茅ヶ崎の海岸に降りた事件である。

 その説明として防衛省は

「予防着陸」

の語を使った。「警告灯が点灯したので、安全のために飛行を中止して至近の空き地に着陸した」との組み立てである。

 これは、不時着事故を軽く見せるための“いい換え”でしかない。

 都合の悪い刑事事件や人身事故を「事案」といい換えることと変わらない。従来ならば不時着として扱っていた。それを軽く見せかけようと予防着陸にいい換えたのである。

緊急着陸より安全か?

茅ヶ崎の海岸(画像:写真AC)

茅ヶ崎の海岸(画像:写真AC)

 滑走路外への危急な着地を予防着陸と呼んでよいものだろうか。

 それには無理がある。今までのいい回しならば

「不時着」

となる。

 航空機が登場して以降、故障で生じた不安全な状態での着地には

・墜落
・不時着
・緊急着陸

の語を用いてきた。

 それぞれを示すなら、つぎのようになるだろう。

・墜落:故障で、滑走路以外に、制御不能で落ちる
・不時着:故障で、滑走路以外に、一定の操縦状態で降りる
・緊急着陸:故障ないし故障の疑いで、滑走路等に、安定した操縦で着陸する

 では、予防着陸はどのように規定すべきだろうか。

 語字からすれば緊急着陸よりも安全となる。「予防」は「緊急」よりも、より安全な状態を指す。つまり予防着陸は緊急着陸より危険性も緊急性も低い。故障についても、故障とその疑いを含む緊急着陸よりは安全側となる。実際には故障はしていない状態だけを指すことにある。それからすれば、

・予防着陸:故障の疑いで、滑走路等に、安定した操縦下で着陸する

となる。

 しかし、今回のSH-60Rの実態は予防着陸からは程遠い。滑走路やヘリパット、飛行甲板以外に着地した。それからすれば緊急着陸よりも危険性も緊急性も高い。それからすれば不時着が妥当である。

安全を装う欺瞞

厚木基地(画像:写真AC)

厚木基地(画像:写真AC)

 もちろん、米海軍ヘリが不時着したこと自体は悪くはない。故障の疑いから安全確保のために飛行中止を決心した。その上で、人がいないだろう至近の海岸まで飛行し、実際に人がいない状態を見極めて安定した操縦下で着陸している。

 ただ、褒めるほどでもない。その場に降りるまでの緊急性や危険性でもない。

 自衛隊なら基地に戻る水準だ。潤滑オイルのなかに微小金属片を探知してたときはそうする。

 基地側もそれほど危険な事態とは見なさない。着陸機について一応は機体番号とコーションライト点灯した旨を構内放送で伝える。ただ、これは

「警告灯がついただけ」

との含意でもある。実際に、部署をかけて基地全員で対応するわけでもない。

 問題は、事態をごまかそうとすることにある。

 防衛省にとって、米軍機不時着の報道は都合が悪い。これは安全のための不時着でも同じである。

 米軍機の安全軽視に注目が集まるからだ。防衛省は円滑な米軍駐留も使命としている。それを損なうような、米軍機を危険視する内容の報道がなされてしまう。

 その注目を避けるために予防着陸の語を作り出した。それを不時着のいい換えとして使っているのである

ものには限度はある

オスプレイ(画像:写真AC)

オスプレイ(画像:写真AC)

 だが、いい換えにも限度はある。今回のように安全のために念を入れての不時着なら欺瞞(ぎまん)でもまだ罪は軽い。それを墜落事故寸前の状態まで使うのは行き過ぎだ。

 2017年の件はそれだ。緊急事態を宣言したオスプレイが大分空港に降りる事件があった。着陸後にエンジンから煙と炎が上がる事態だったが、それを予防着陸と説明した。

 また、今の用例なら発火炎上さえしなければ予防着陸となる。2017年にCH-53が沖縄の東村高江の農地に不時着し大炎上した事件があった。これが着火に至らず燃料が漏れただけで済めば予防着陸といい張っただろう。

 墜落を不時着にいい換え例もある。2017年の沖縄、名護沿岸でのオスプレイ墜落では、機体はバラバラとなった。それにも関わらず防衛省は

「不時着水」

といい換えた。2023年の屋久島沿岸でのオスプレイ墜落も途中までは不時着水の語を使おうとした。

 人は欺瞞にも慣れるのである。陸上に落ちても燃えなければ予防着陸、墜落しても機体の外観が残っていれば不時着とする。担当者はそういい換えるクセがついている。

 いずれは人身事故となっても予防着陸の語を使うだろう。不時着時に市民の生命身体や財産に損害を与えてもそう強弁するのではないか。事故を

「事象」

といいだす例からすればあり得る話である。

批判的な読み解きができない

米軍の応援団イメージ(画像:写真AC)

米軍の応援団イメージ(画像:写真AC)

 さらには、それを是認してしまう報道にも問題はある。

 今回の報道でも、多くのマスコミは予防着陸の語をそのまま使っている。防衛省の発表をうのみにした形である。以前なら不時着の語を使っただろう。

 これは劣化である。発表を批判的に読み解けない。自分で記事の見立てを作れない。作ろうとしても公式発表から踏み出せないからである。

 これは、以前に述べた

「公式発表だから正しい」

と信じ込むマニアと大差はない。

 なお、そのマニア連は今回はさらに上を行っている。予防着陸の欺瞞を信じて疑わない上に、

「米軍の応援団」

との自負からかその肯定に力を尽くしている。

 今回のMH-60R不時着でも「見事な着陸」や「米軍が予防着陸したので市民の被害は出なかった」といいあっている。

「みんなで米軍さんに『ありがとう』といいましょう」

まであと一歩である。

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