「このままでは寂れる一方や」 北大阪急行延伸で“途中駅”に没落した「千里中央」 しかし駅周辺で大規模再開発! かつての繁栄を取り戻せるのか?

かつてのにぎわいはいずこへ

千里中央駅に到着した北大阪急行の大阪方面行き列車(画像:高田泰)

千里中央駅に到着した北大阪急行の大阪方面行き列車(画像:高田泰)

 千里ニュータウンの北大阪急行電鉄千里中央駅周辺で大規模再開発が始まる。商業施設閉館や北大阪急行電鉄延伸で存在感が薄れていたが、にぎわいを取り戻すことができるのか。

「北大阪急行が箕面へ延伸して客が減った気がする。商業施設も老朽化し、このままでは寂れる一方や」

9月中旬に訪れた大阪府豊中市新千里東町の千里中央駅。駅ビルの商業施設「せんちゅうパル」で飲食店従業員の女性が肩を落とす。

 平日の昼どきに駅周辺を歩いてみた。大阪市の難波、梅田方面から来た北大阪急行の列車は、今も乗客の大半を千里中央駅で吐き出している。コロナ禍が落ち着いて人々が街へ繰り出すようになっているだけに、日中の人出にも大きな変化は見えない。

 だが、約120店が集う複合商業施設で、「アイドル歌手の登竜門」といわれるほど頻繁にライブが催された「千里セルシー」は2022年で閉店した。約30店が入居した商業施設の「オトカリテ千里中央」は、2023年に営業を終えて取り壊されている。かつてのにぎわいに暗い影が落ちていることは否めない。

千里セルシー跡・千里阪急を一体再開発

一部の店舗から危機感が上がっている千里中央駅周辺の飲食街(画像:高田泰)

一部の店舗から危機感が上がっている千里中央駅周辺の飲食街(画像:高田泰)

 そんななか、大阪府と豊中市、地権者らが参加する千里中央地区活性化協議会は8月末、遅れていた駅前の再整備基本計画をまとめた。2018年に策定した前の計画に延べ床面積10万平方メートル級の大型商業施設などを追加する意欲的な内容だ。

 駅東街区では、阪急阪神不動産とエイチ・ツー・オーリテイリングが千里セルシー跡と営業中の百貨店千里阪急を一体化して再開発する。

・百貨店
・物販
・飲食
・エンターテインメント

機能などを持つ大型商業施設で、延べ床面積10万平方メートルは千里セルシー、千里阪急の合計面積を上回る。

 公園南街区では、2025年度末閉館予定の千里阪急ホテル跡ににぎわい広場など交流機能を持つ施設整備を目指す。駅西街区では、読売新聞と読売テレビが商業施設「SENRITO」を先行開業し、イオンモールが専門店街を展開している。さらに、イオンモールはオトカリテ跡地に商業、オフィス、ホテル、高度医療機能を備える複合施設を計画している。

 豊中市都市整備課は

「民間事業者がコロナ禍や建設資材の高騰で計画を見直したため、予定より策定が遅れたが、この計画で大阪府の北部をリードする新しい街を作りたい」

と意気込んだ。事業完了目標は2032年としている。

施設が老朽化し、終着駅から途中駅に

タワーマンションも登場した千里中央駅周辺(画像:高田泰)

タワーマンションも登場した千里中央駅周辺(画像:高田泰)

 千里中央駅は1970(昭和45)年、吹田市の江坂駅から同市内の大阪万博会場へ向かう路線として開業した。万博が終わると、現在の千里中央駅南側にあった仮駅から急カーブして東へ延びていた会場へ向かう部分が廃止されて終着駅になる。

 北大阪急行が当初から大阪メトロの前身・大阪市営地下鉄御堂筋線と相互乗り入れする一方、1990(平成2)年に大阪モノレールが開業した。駅前には豊中市内だけでなく、吹田市や箕面市などへ向かう路線バスが多数発着した。

 千里中央駅が位置するのは、豊中市と吹田市にまたがる千里丘陵約1160haを造成した千里ニュータウンの中心部。当初から大阪府北部の中心とする思惑が込められ、周辺に大型商業施設が相次いで整備された。千里ニュータウンは国内初の大規模ニュータウン。当時としては最先端となる新しい街の形を提示した格好だ。

 駅の乗降人員は千里ニュータウンの人口増加にともなって増え、ピークの1990年代には1日平均10万人以上を記録した。その後、千里ニュータウンが人口減少に陥り、乗降人員が8万人台に下がったが、若い世代向けの建て替えやマンション整備で人口が回復すると、再び増加に転じ、コロナ禍前は9万人台に戻している。

 だが、集客の要となる大型商業施設は、いずれも大阪万博前後の開業。築40年が過ぎた2010年代に入ってそろって老朽化が目立ち始めた。千里セルシーが2018年の大阪北部地震で被災し、営業を見合わせるなど、耐震性の問題も表面化してきた。

 そこへ追い打ちをかけたのが、北大阪急行の延伸だ。2024年3月に箕面市の箕面萱野駅まで延伸したことにより、千里中央駅は終着駅から

「途中駅」

に変わった。阪急バスが路線バス網を再編した結果、駅前に発着するバスの本数も減る。地元の一部商業者からは千里中央の危機を訴える声が上がった。

高い潜在能力は健在

駅東街区の大規模商業施設開業イメージ(画像:阪急阪神不動産)

駅東街区の大規模商業施設開業イメージ(画像:阪急阪神不動産)

 しかし、千里中央駅が持つ潜在能力は高い。北大阪急行に乗ると、乗り換えなしに

・淀川区の新大阪駅まで約15分
・北区の梅田駅まで約20分
・中央区と浪速区にまたがる難波駅まで約30分

で着く。大阪モノレールは15分足らずで兵庫県伊丹市と大阪府池田市、豊中市にまたがる伊丹空港に直通している。

 千里ニュータウンの人口回復も心強い。豊中市と吹田市の住民基本台帳人口では、2023年は約10万4000人。2019年に10万人台を回復したあと、微増している。千里中央駅近くでは、都市再生機構の団地再生事業で新千里東町団地に3棟、計380戸の高層住宅が登場し、若い世代を呼び寄せた。

 関西のニュータウンは堺市と大阪府和泉市にまたがる泉北、神戸市の西神、京都市の洛西、向島などほとんどが人口減少に苦しんでいるが、千里ニュータウンは地の利を生かして人口回復を実現した珍しい例だ。

 大阪府市で組織する大阪都市計画局拠点開発室は

「2022年に策定した大阪のまちづくりグランドデザインでも千里中央を大阪府北部の中枢と位置づけている。駅周辺の再整備でかつての繁栄を取り戻せるのではないか」

と期待している。

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