トヨタ「全方位戦略」は本当に最適解だったのか? ヒョンデ・ボルボも相次ぎEV戦略見直し、市場の逆風で考える

EV戦略見直しの波

2022年10月31日撮影、東京都内の自動車ショールームに掲げられたトヨタのロゴマーク(画像:AFP=時事)

2022年10月31日撮影、東京都内の自動車ショールームに掲げられたトヨタのロゴマーク(画像:AFP=時事)

 8月下旬から9月上旬にかけて、自動車メーカー各社がEV戦略の見直しを発表した。

 最初に発表したのは現代自動車で、2024年8月28日に韓国・ソウル市のコンラッドホテルで「2024現代自動車CEOインベスターデイ」を開催し、最新のEV戦略を発表した。また、9月12日にはGMと車両の共同開発を含む協力の検討に入ったことも発表された。

 一方、ボルボは2030年までに100%の電気自動車(EV)化という目標を取り下げ、ハイブリッド車(HV)の比率を高める戦略に転換することを発表した。トヨタ自動車も、EVの生産台数を約30%減少させるとの報道がある。

 EV需要の減速を背景に、各社がEV戦略を見直す動きが進むなかで、トヨタが提唱する

「マルチパスウェイ(全方位)」

が注目を集めている。本稿では、相次いで発表された最新EV戦略のポイントを解説し、マルチパスウェイが最適解であるかどうかを考える。

EVモデル21種への拡充計画

アイオニック5N(画像:現代自動車)

アイオニック5N(画像:現代自動車)

 現代グループの中長期戦略「ヒョンデウエイ」では、主に

・電動車
・ソフトウエア
・エネルギー

に関する各戦略を掲げている。この戦略の目標は、2030年までに世界販売台数を555万台(うちEVは200万台)、連結ベースの営業利益率を10%以上とすることだ。

 電動車戦略の注目点は、HVのラインアップを現在の7モデルから14モデルに拡大することだ。大型車や高級車にも導入し、2028年までには2023年比で約4割増の133万台の販売を目指す。特に、北米でのハイブリッド需要に対応していく。

 さらに、EV需要の減速に対応するため、

「レンジエクステンダーEV(EREV)」

の開発も進めている。EREVはプラグインハイブリッド車(PHV)をベースにしており、エンジンで発電し、駆動力はモーターのみで動く。北米や中国などで10万台以上の販売を目指す。

 EV市場の回復を2030年頃に見込んでおり、EVのラインアップを21モデルに拡充し、EV販売台数目標を200万台とする計画だ。また、米国ジョージア州のEV生産工場を2024年中に稼働開始させ、2026年までに韓国・蔚山(ウルサン)にEV専用工場を建設する予定である。その他の戦略としては、

・ソフトウエア定義車両(SDV)と新モビリティー事業の開発
・AIを基にした製品やサービスの強化
・水素エネルギーの交通以外のさまざまな産業分野での利用

を目指している。

EV比率9割目指すボルボ

EX40 (画像:ボルボ)

EX40 (画像:ボルボ)

 一方、ボルボは2030年までに販売する全モデルをEVにするという目標を見直し、PHVを含めたEVの販売比率を9割以上にすると発表した。その理由として、

・ドイツやスウェーデンでのEV補助金の停止や削減
・欧州全体でのEV需要の鈍化

を挙げている。

 ボルボのプレスリリースによると、EVの販売比率は2025年までに50~60%に達すると見込まれ、2020年代末までにEVをフルラインアップする計画だ。市場の条件が整えば、いつでも完全な電動化に移行できるように準備を進めている。

 日本経済新聞などは、2024年9月6日にトヨタ自動車が2026年のEV世界生産台数を約100万台、つまり全体の3分の2に減少させると報じた。

 この情報についてトヨタは公式には発表していないが、サプライヤー各社に対してEV生産の縮小方針が伝えられたとされている。今回の生産見直しは、2026年のEV需要を見越しての販売目標の修正であり、生産体制には変更はないようだ。

 トヨタが掲げるマルチパスウェイ戦略では、HVやPHV、バッテリー式EV、燃料電池車(FCV)など、さまざまなパワートレインのニーズに応えるために幅広く開発を進めている。

トヨタのEV戦略、柔軟な修正

トヨタおよびBMWの燃料電池車(画像:BMW)

トヨタおよびBMWの燃料電池車(画像:BMW)

 FCVに関しては、BMWとの水素分野での協業が強化されることが発表された。商用車と乗用車の両方に対応する第3世代燃料電池技術を活用し、乗用車用のパワートレインシステムを共同開発する計画だ。BMW初の量産型FCVは2028年に生産開始の見込みで、両社はそれぞれのブランドの独自性を保ちながら、ユーザーに多様なFCVの選択肢を提供するとしている。

 トヨタ自動車の豊田章男会長は2024年1月、都内での講演会で

「EV市場シェアは最大3割、残りはHVなどで、エンジン車は必ず残る」

と発言し、注目を集めた。この時点ではEV需要の減速の兆候は見られなかった。トヨタはEV需要がそれほど伸びないと予測し、販売が好調なHVを中心にマルチパスウェイを推進していく方針にかじを切ったと思われる。

 そもそも、トヨタのマルチパスウェイは本当に最適解なのか――。

「幅広い選択肢を用意する = 単にリスクを分散しただけ」

という見方もあるが、トヨタは今後もマルチパスウェイを基本にしながらEV戦略を柔軟に変更していくであろう。

 このように、EV需要を短期および中長期にわたって予測し、タイムリーに戦略を見直すことは、変動の激しいEV市場において重要な企業の行動となるだろう。

 充電インフラの整備や手頃な価格のEV普及といった課題が解決されるまで、EV需要が安定して成長するレベルには数年かかると考えられている。この期間中、自動車メーカーは一度掲げたEV戦略や販売目標を柔軟に見直す必要があり、戦略の変更は日常的に起こる可能性が高い。

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