なぜ「乗り物オタク」は公式発表にあっさり騙されるのか? 戦闘機・鉄道・自動車み~んな同じ、軍事ライターが冷静に分析する

マニアの盲点

F-2(画像:写真AC)

F-2(画像:写真AC)

 マニアはしばしば正確に間違える。現実とは真反対の形に理解することも珍しくない。元3等海佐(中級幹部)の筆者(文谷数重、軍事ライター)は以前、当媒体に「「軍事オタク」が専門家から全く相手にされない3つの理由 元海上自衛官が冷静に分析する」(2024年6月30日配信)という記事を書いた。

 F-2戦闘機のオリジナリティーはその好例である。米F-16のコピーだが、軍事マニアは日本の独自設計と信じて疑わない。

 なぜ、マニアは正確に間違えるのか。

“愛好家気質”から離れられないためだ。具体的には

・心地よい内容を好み
・公式発表に誘導され
・趣味集団内の言動に流される

それにより誤った結論でも真実と信じ込むのである。

 前述の記事で書いたとおり、これは軍事趣味だけでなく、

・鉄道趣味
・自動車趣味
・アニメ趣味
・特撮趣味
・アイドル趣味

でも同様で、公式を正解として扱う価値観がある。例外はプロレスくらいである。

F-2はF-16のコピーでしかない

F-16(画像:写真AC)

F-16(画像:写真AC)

 果たして、F-2は日本オリジナルの戦闘機なのだろうか。

 F-2は米F-16戦闘機のコピーでしかない。デザインとエンジンは同じである。寸法や重量、性能も大同小異である。F-16のうちのC/D型とXL型ほどの違いはない。

 開発もライセンス生産に近い。製造元との協定下である。製造権を購入したのと変わらない。開発支援も受けておりクリーンルーム設計からもほど遠い。

 しかし、マニアはこの事実を認めようしない。

「日本が独自に開発した国産戦闘機」

といった身内の神話を信じ切っている。

 そして、その否定に躍起である。

「F-2は主翼の面積が1割大きい」
「素材が違う」
「風防の分割形状が異なる」

だからF-16のコピーではない。そう反論する。内容としてはザ・タッチやバラモン兄弟、古くはザ・ピーナッツを見分ける方法でしかない。

「国産戦闘機」を喜ぶ

自動車のイメージ(画像:写真AC)

自動車のイメージ(画像:写真AC)

 なぜ、そのような奇妙な解釈に至るのか。

 第一の理由は、「心地よい内容」だからである。マニアもまたファンであり趣味対象を褒める話を聞きたがり、信じたがる特性がある。

 例えば自衛隊、警察、消防のマニアは

「いかに役に立っているか」

の話を好む。「国民の自衛官」のような政治臭い表彰も喜んで読む。そのいずれにもいる心技体そろった愚か者が起こした事件記事や、筆者のような“非国民”の元自衛官の主張は忌避して読まない。

 そこにナショナリズムが絡むとさらに食いつく。鉄道マニアは

「日本の新幹線が台湾で採用された」

類の記事を好む。アニメや漫画のマニアですら「欧米でクールジャパン、中国でも酷日本として評価」の話を好む。

「F-2は日本のオリジナル神話」はこれである。これは事実であるが、もともと「世界水準の戦闘機」の心地よさがある。その上に「日本が独自に開発した戦闘機」と“愛国心”も刺激されるのである。

 マニアの願望と一致している。だから喜んで受容し信じ込むのである。

公式にだまされる

アイドルのイメージ(画像:写真AC)

アイドルのイメージ(画像:写真AC)

 第二の理由は、「公式発表を信じて疑わないこと」である。そのため、公式発表が正しくない場合には正確に間違えることになる。

 マニアにとって「正解」とは権威筋からの発表を指す。何よりも公式発表であり、次には趣味誌等の記事である。

 しかし、権威筋は必ずしも正しいとは限らない。

 政府や業界からしてそうである。ウソはあまりつかないが、いつも本当のことをいっているわけでもない。防衛ムラや電力ムラは、そうやってだまそうとする傾向がある。

 趣味誌には

「広告や取材先の影響」

もある。TOTOの広告があればINAXの製品は持ち上げない。日本たばこ産業(JT)の取材協力があればタバコの害に触れてはならない。

 ただ、マニアはそれに気づかない。権威を信用しきっている上、内容を批判的に読み解けないからである。

 だから正確にだまされるのである。

 実際のところ、F-2への言及はポジショントークにあふれている。

 当時の防衛庁は国内開発を強調せざるを得ない。F-16コピーを認めると「それならF-16を買え」となる。だから「新素材を採用し日本の要求に合わせてゼロベースから設計した」と強調したのである。

 防衛産業も独自性を強調しなければならない立場である。F-2採用は防衛産業保護のためでしかない。しかもF-16の「車輪の再発明」である。それに3500億円を投じた。製造単価もF-16の2倍以上となった。その事実は認めるわけにはいかない。

 趣味誌も本当のことはいわない。広告主、取材元に泥を塗る上、愛読者の願望にもそぐわない。だから、いかにF-16とは違うか、F-16よりも強いかを力説する。記者も真摯(しんし)に読者に事実を伝えることは、

「大人げないことであり」
「大事なお客さんを切る行為である」

そう心得るものも珍しくない。

 これはH-3ロケットも同じである。その実態は宇宙開発詐欺でしかない。ファルコン9にはじまる再利用型の登場で経済性は打ち上げ前に消滅している。しかし、政府は成長産業の重点事業といい、産業サイドは世界に伍(ご)するロケットといい、科学技術の記事では世界に誇る技術とヨイショしている。そしてマニアは正確にだまされるのである。

自分で判断できない

鉄道のイメージ(画像:写真AC)

鉄道のイメージ(画像:写真AC)

 第三の理由は、「自分で判断しないこと」である。マニアは判断を他人任せ、特に趣味集団における評価に委ねている。

「みんながどのようにいっているか」

に流されてしまう。

 これも「F-2は日本のオリジナル」が膾炙(かいしゃ。広くいわれていること)した理由である。まず第一、第二の効果で軍事マニアが受け入れる。そうなると「みんなもそういっているから正しい」と信じてしまうのである。

 集団への没入ゆえに異論も拒絶する。悪化すると反論も自分の信念が揺らぐので直視できなくなる。反論がウェブ記事なら「PVを稼がせない」と合理化して読まずに一蹴する。このあたりは

「鉄道マニア」

も同じである。趣味集団の価値観に染まりきっている。

“過激派”は世間との調節もできなくなっている。線路内立入や大光量のフラッシュといった鉄道安全への挑戦や、公衆面前での“罵声大会”に疑問を抱かない。

 それでいて出てくる写真はみんな同じである。だからか、収差に至るまでの出来を持ち出して競っている。ピクセル規模でも「ちょっとピンボケ」は門前払いにする。(ロバート・)キャパが撮っても失敗作の扱いである。

国産にしなければよかった

P-8(画像:写真AC)

P-8(画像:写真AC)

 当事者はこのマニア連をどう見ているのか。

 現場は「公式発表を素直に信じるものだな」と見ている。意図ある公式発表にも正確にミスリードされるからである。

 当事者だから組織方針の誤りもよく見えており、だますことにも批判的である。

 実際に国産機について自衛隊員に「よかったところはなんですか」と筆者が聞くと

「国産なんかしなければよかった」

と答える。これは国産哨戒機P-1の話である。

「石破防衛相のいうとおりP-8にすればよかった」

ともいっていた。

「担当も『今のうちにP-8を買わないと将来が』と危機感を持っている」

との話も別に聞いている。

 だが、マニアは心地よくない話は信じない。筆者が聞いた「P-1のうち飛行可能な『ステイタスA』は半分もない」や、さらに踏み込んだ清谷信一さんの「可動機は三割」の話は受容できない。F-16コピーの事実提示と同様に

「ボクの大好きな国産機が失敗作なわけがない」

と拒絶するのである。

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