全固体電池の開発に成功! 中国の電池メーカー「鵬輝能源」は、EV市場のゲームチェンジャーになれるのか?

開発競争加熱中

広州鵬輝能源科技の全固体電池(画像:広州鵬輝能源科技)

広州鵬輝能源科技の全固体電池(画像:広州鵬輝能源科技)

 2024年8月、中国広東省の電池メーカー、広州鵬輝能源科技(鵬輝能源。Guangzhou Great Power Energy & Technology)が全固体電池の開発に成功し、2026年に量産を開始することを発表した。このニュースは大きな注目を集めている。現在、各国の企業が全固体電池の開発に力を入れており、その競争はますます激化している。

 全固体電池は、リチウムイオン電池の次世代技術として期待されている。電解質に固体を使用することで、従来のリチウムイオン電池に見られる電解質の蒸発や液漏れといった安全性の懸念を解消できる。また、寿命が長く、広い作動温度範囲を持ち、小型化や薄型化、大容量化、さらには重ねることや折り曲げることが可能という自由度の高さも大きなメリットとされている。

 日本では、トヨタが2027年度に国内で固体電解質のパイロットプラントを稼働させ、2027年から2028年にかけて発売予定の電気自動車(EV)に搭載して商品化する計画を立てている。また、日産自動車も2028年に全固体電池搭載車の量産を開始する予定だ。

 中国でも、EV市場での覇権を目指し、全固体電池の開発が進んでいる。2024年5月には、中国政府が比亜迪(BYD)などの企業に60億元超を投資し、支援することが報じられた。実用化と販売を予定している企業も現れており、EV大手の上海汽車集団は2027年に全固体電池を搭載したEVを市場に投入するとしている。

中国企業の躍進と国策

広州鵬輝能源科技のウェブサイト(画像:広州鵬輝能源科技)

広州鵬輝能源科技のウェブサイト(画像:広州鵬輝能源科技)

 リチウムイオン電池の原料資源が偏在していることや地政学的リスクが背景にあり、日本は早期から全固体電池の開発に着手している。その一方で、中国も急速に追い上げを見せている。

 この背景には、両国のシェア獲得に対するアプローチの違いがある。日本企業は品質と安全性を重視して市場投入前に慎重な研究を繰り返しているのに対し、中国企業のなかにはシェア獲得を優先し、早期の市場投入を狙う傾向がある。リチウムイオン電池においても、日本企業は安全性を特に重要視しており、これは中国を含む他国との大きな違いである。このため、市場投入の遅れにもつながっているといえる。

 中国企業の勢いがあるのは、EV市場での世界シェアを目指す国策と、電池での成功事例が非常に多いためだ。例えば、現在のEV電池メーカーで世界一の寧徳時代新能源科技(CATL)は2011年に創業した。創業者の曾毓群は福建省の片田舎から出発し、今や世界屈指の大富豪になっている。

 全固体電池での成功には大きな可能性があり、特許を保有し開発を行う企業が次々と現れている。今回注目を集めた鵬輝能源は2001年に設立された企業で、比較的長い社歴を持ち、リチウムイオン電池やニッケル水素電池などの二次電池から、マンガン電池などの一次電池まで製造している。

株価急騰、市場の期待感

広州鵬輝能源科技の全固体電池(画像:広州鵬輝能源科技)

広州鵬輝能源科技の全固体電池(画像:広州鵬輝能源科技)

 新たに発表された全固体電池について、鵬輝能源からの情報は次のとおりだ。

●主要スペック
・エネルギー密度:280Wh/kg
・容量:20Ah
・動作温度範囲:-20度~85度

●技術的特徴
・酸化物複合固体電解質の採用
・電解質湿式コーティング工程の開発成功

●安全性
・最も厳しい針刺し試験をパスし、高い安全性を実証

●コスト目標
・現行のリチウムイオン電池と比較して15%増程度
・3~5年以内に同等のコストを目指す

 同社は、2025年にパイロット研究開発と小規模生産を開始し、2026年に正式な生産ラインを確立して量産を開始する予定を示している。

 これらの発表内容は革新的だ。特にエネルギー密度は280Wh/kgで、現在のリチウムイオン電池(260~280Wh/kg)と同等か若干上回る水準を実現しており、コストも抑えられている点が注目される。

 ただし、その実現可能性については慎重な見方も根強い。しかし、市場の関心は高く、発表以降、同社の株式の取引量が増加している。発表前は株価が18元前後で推移していたが、9月5日時点で25元前後に上昇している。

財務厳しさと株価上昇

広州鵬輝能源科技の全固体電池(画像:広州鵬輝能源科技)

広州鵬輝能源科技の全固体電池(画像:広州鵬輝能源科技)

 鵬輝能源は発表当日に2024年の半年間の業績報告を行った。この報告によると、同社の財務状況は次のようになっている。

・営業収入:37億7300万0960・61元(前年同期比13.75%減)
・株主に帰属する純利益:4167万9012・00元(前年同期比83.41%減)
・非経常的損益を除いた株主に帰属する純利益:11,653,858.94元(前年同期比95.05%減)
・経営活動によるキャッシュフロー:-2億8472万8599・50元(前年同期比428.02%減)
・基本的1株当たり利益:0.0828元(前年同期比84.67%減)

 これを見る限り、鵬輝能源は厳しい財務状況にあるといえる。しかし、市場で株価が上昇しているのは、同社の全固体電池が注目を集め、ゲームチェンジャーとしての期待を持たれているからだ。

 全固体電池の実用化については依然として懐疑的な見方もあるが、鵬輝能源の動きは、多くの企業が競争を繰り広げていることを示している。

日本企業の存在感低下

全固体電池の試作生産設備(画像:日産自動車)

全固体電池の試作生産設備(画像:日産自動車)

 前述のとおり、日本の企業は品質と信頼性を重視する伝統的なアプローチを維持しており、具体的な成果の発表や量産化の時期について慎重な姿勢を崩していない。このため、ある事情通は

「国内の各社は全固体電池に関する情報開示が限られているため、開発の進行について疑問が生じている」

と声を潜める。

 国内各社は慎重な姿勢を保っているが、開発段階で積極的に市場にアピールし、投資家や顧客の関心を引く新興企業によって、日本の大手企業の存在感が薄れる懸念がある。

 技術の完成度を追求するあまり、市場の先行者利益を逃すリスクもある。日本企業は、より積極的な情報開示や市場へのアプローチ戦略を再検討する余地があるかもしれない。

 ただし、単なる宣伝合戦に終わらせず、実際の技術力と製品の信頼性が重要である。

全固体電池が開く280Wh/kgの未来

 最後に、鵬輝能源が2024年8月31日に自社ウェブサイトで公開した全固体電池に関する文章を紹介する。

●第1世代の全固体電池 ピンニングによる大幅なコスト削減
 今回の会議で、鵬輝能源は第1世代の全固体電池(20Ah)の物理的構造や内部構造を公開した。同社が独自に開発した高イオン伝導性・高安定性・低コストの酸化物複合固体電解質によって、全固体電池のプロセスと材料の両面で画期的な進展があり、酸化物固体電解質の技術的な課題を解決した。

 鵬輝能源は、この酸化物複合固体電解質を使って全固体電池を開発し、電池の安全性を高めるだけでなく、コストも大幅に削減した。安全性の向上とコストダウンが、鵬輝能源の第1世代全固体電池の最大の強みとなっている。

●独自の電解質湿式コーティングプロセス 全体のコストは従来のリチウム電池より約15%高くなる予想
 鵬輝能源の第1世代固体電池技術は、電解質湿式コーティングプロセスの革新により、酸化物電解質の調製プロセスの課題を解決し、固体電池の工業化を大きく進めた。従来の酸化物電解質は、高温で緻密なセラミックに焼き固める必要があり、エネルギーを多く消費する上に効率が悪かった。また、セラミックのもろさから、大容量の電池セルの製造も難しかった。

 しかし、鵬輝能源は独自の電解質湿式コーティングプロセスを使い、酸化物固体電解質の高温焼結を避けることに成功。さらに、セラミックのもろさを克服し、プロセスも大幅に簡素化した。この方法で製造した固体電池のコストは、従来のリチウム電池より約15%高いと予想されるが、今後3~5年でプロセスや材料をさらに最適化し、リチウム電池と同等のコストになる見通しだ。

●無機複合固体電解質 隔膜と電解質の交換
 鵬輝能源が開発した第1世代の固体電池は、従来の隔膜と電解液の代わりに無機固体電解質を使っている。このことで、有機電解液の安全性の問題を排除し、次世代の高性能固体電池開発にさらなる可能性をもたらしている。

 鵬輝能源は、新しい無機複合バインダーを使うことで、セラミックが持つもろさを改善し、電解質層の密着性と可塑性を高めることに成功している。これにより、固体電池の短絡のリスクを大幅に減らすことができた。また、機能性添加剤を加えることで、無機複合電解質層のイオン伝導性を向上させ、電池セルの内部抵抗を下げることにも成功している。さらに、高熱伝導性の機能性添加剤と安全性を高める添加剤を追加することで、固体電池の放熱性能と安全性も向上している。

 鵬輝能源が独自に開発した無機複合固体電解質層は、ただの電解質ではない。

●針刺し試験に合格した真に安全な電池 煙も火も爆発もない
 自社開発した複合固体電解質、高熱伝導性添加剤、そして自動安全機構により、第1世代の固体電池は最も厳しいピン刺し試験に合格した。ピン刺しを受けると、内部エネルギーの放出を迅速に抑制でき、極限状態でも固体電池のすべての構成要素が無傷であることを効果的に保証する。その結果、発生源からの危険を回避することが可能になる。

 不燃性の固体電解質と「自動安全機構」を組み合わせることで、鵬輝能源は固体電池に求められる「本質的安全性」を真に実現した。

●-20度~-85度で安定した充放電が可能 広い温度範囲での使用可能
 鵬輝能源の第1世代固体電池は、広い温度範囲で優れた性能を発揮する。-20度から-85度の温度環境で安定して充放電ができ、極限環境下でも正常に動作する。極寒から酷暑まで、さまざまな気候に適応できるため、宇宙船や屋外探査機器など、過酷な環境での作業に大きな意義がある。

 広い温度範囲を持つ固体電池は、より安定したエネルギー出力を提供し、設備のメンテナンス頻度とコストを削減することができ、明らかな経済的利点をもたらす。

 鵬輝能源の第1世代固体電池は、本質的な安全性を確保しつつ、エネルギー密度は280Wh/kgである。2025年には、シリコン系負極の割合が高まり、エネルギー密度が300Wh/kg以上に達する見込みだ。同社は2025年に試験的な研究開発と小規模生産を開始し、2026年には生産ラインと量産を正式に確立する予定である。固体電池の工業化に向けて、鵬輝能源は技術プロセスと支援設備に関する実務作業を推進している。

 革新は電池産業の永遠の目的であり、電池産業が発展するたびに技術の進歩を目撃し、ユーザーに環境に優しいより良い生活を提供してきた。鵬輝エネルギーは「実用的な仕事は、海の中心、夢を構築する」という理念のもと、電池技術革新のためのあらゆる機会をつかみ、人々にとってより安全で効率的、持続可能な電池ソリューションを提供することにコミットしている。

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