トラブル続出のボーイング「KC-46A」 最新給油技術が招く米国の頭痛のタネ、空自の機体採用は本当に“賢明”だったのか?

空中給油の命運を握るRVS問題

KC-46A(画像:航空自衛隊)

KC-46A(画像:航空自衛隊)

 8月6日、航空自衛隊の空中給油・輸送機KC-46Aが、空中給油ブーム(ブーム:給油機から受油機に燃料を供給するための伸縮式のパイプ状の装置)を引き込むことができないトラブルに見舞われ、鳥取県境港市の米子空港(美保基地)に緊急着陸した。

 続いて21日には、カリフォルニア沖でF-15戦闘機への空中給油を行っていた米空軍のKC-46Aが、やはり空中給油ブームのトラブルで、ブームを降ろしたままカリフォルニア州トラビス空軍基地に緊急着陸している。

 それぞれの不具合に関する詳細は不明だが、KC-46Aは空中給油システムに数々の不具合を抱えており、米国が頭を痛めている航空機のひとつだ。ただでさえ(悪い意味で)注目されているKC-46Aにとって、“泣き面に蜂”の連続トラブルが発生したことになる。

 KC-46Aで特に問題になっているのは、

・給油を受ける航空機に燃料を送り込む給油ブーム
・これを機上の給油オペレーターが操作するためのシステム

である。機体そのものはボーイング767を母体にしているため、飛行能力そのものに問題は指摘されていないが、空中給油システムの完成度が低すぎるのだ。

 KC-46は、KC-135など旧式化した空中給油機の後継として開発されたが、空中給油システムにRVS(リモート・ビジョン・システム)などの新機軸を採用したことが、今も続く問題の始まりだった。

 従来の空中給油機では、給油オペレーターが受油機と給油ブームを直接目視して給油ブームを操作していたが、これを

・遠隔カメラ
・画像処理システム

に置き換えたのがRVSだ。給油ブームのコントロール系統にも、デジタル制御の「フライ・バイ・ワイヤ」方式が採用された。いわばアナログ的だった旧システムを、全面的に「ハイテク・デジタル化」したわけだが、これが大きな“落とし穴”だったのである。

翻弄される給油オペレーター

KC-46AのRVS(画像:空軍研究所)

KC-46AのRVS(画像:空軍研究所)

 KC-46Aの給油オペレーターは、3Dゴーグルを装着し、デジタル処理された遠隔カメラの映像に頼って給油ブームを操作することになるが、受油機との遠近感の把握は容易ではなく、しばしば給油ブームと受油機の不時接触が発生した。

 また、遠隔カメラが昼夜の多様な照度条件に対応することも難しく、このシステムはまだ十分実用に耐えないと判定され、米空軍も厳しい運用制限を設けている。

 こうした事態に対応して、米空軍とボーイング社では2020年からシステムの再設計に乗り出しており、2024年から2025年には問題が解決されるはずであったが、どうも進捗(しんちょく)は思わしくない。これらの問題は、航空自衛隊の装備するKC-46Aでも同様なのだが、問題解決は米空軍とボーイング社に委ねられている状況である。

 その一方では、エアバス社のA330MRTT空中給油・輸送機が、世界的にセールスを伸ばしている。エアバスのA330旅客機を母体にした空中給油・輸送機だが、戦闘機などに空中給油できるフライング・ブーム式の給油システムを装備した機種としては、米国製以外では唯一の機種である。

 エアバス社がフライング・ブームを持つ空中給油機の開発に乗り出したのは、ちょうど日本が初めて空中給油機の導入を計画した時期だった。航空自衛隊による機種選定にあたっては、KC-767の対抗馬としてエアバスも名乗りを上げていたのである。

 しかし、当時のエアバス社はシステム開発を始めたばかりで、試作機も用意できない段階であったため、この提案は有力な対抗案になることなく、航空自衛隊は2001(平成13)年にKC-767を選定した。だが、KC-767を採用したのは、結果的にイタリアと日本だけになった。

 その後の2008年2月、米空軍はKC-135の後継にKC-767を採用せず、A330MRTTの採用を決定した。ところが、ボーイングからの異議申し立てによって、この機種選定はやり直しとなり、KC-767の発展型とも言えるKC-46が2011年に採用されたのである。

エアバスの後塵を拝する米国

エアバスA330MRTTのA3Rシステム(画像:エアバス)

エアバスA330MRTTのA3Rシステム(画像:エアバス)

 A330MRTTの空中給油システムは、基本的にはKC-46Aと類似のデジタル化システムで、コンピューター処理された遠隔カメラの映像によって給油オペレーションが行われる。しかし、エアバス社のシステムが特徴的なのは、高度な自動化も実現されていることだ。

 エアバス社ではこの自動空中給油システムを「A3R」と呼んでいるが、受油機側には特別な改修は必要なく、給油機側のシステムが受油機を認識し、オペレーターが操作することなく給油が行われる。この自動システムは完全に実用段階にあるが、どう見てもKC-46のシステムより進んでおり、空中給油システム技術に関して、米国は完全にエアバスの後塵(こうじん)を拝しているのだ。

 このようなありさまだから、オーストラリアに続いて、英仏両国、サウジアラビアやシンガポール、韓国などがA330MRTTを採用し、エアバスが空中給油機の国際市場でボーイングを圧倒している。航空自衛隊に先駆けてKC-767を採用していたイタリア空軍も、当初はKC-46の導入を予定していたが、今年7月に決定を覆し、A330MRTTも含めた再検討を行うとしている。

 航空自衛隊がKC-767に続いてKC-46Aを採用したのは、

・米空軍との共用性
・早期警戒機も含めた既存の767型機との共用性

も理由だろうが、これが“賢明な判断”であったのか疑問の余地は残る。

 KC-46Aの不具合解消がいつのことになるのか見通しは立たず、購入済みの機体を改修する費用などの問題もある。近年、防衛関連事業に関する不透明さが増しているが、政府には本件も含めた十分な説明が求められるだろう。

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