半端ないアウェー感! 日本なのに「船内 = ほぼ韓国」という摩訶不思議な船旅をご存じか
LCC登場で海外渡航劣勢
日本と外国を結ぶフェリー国際航路は次のとおりだ(2024年8月1日時点、カッコ内は船社名。※高速船が就航)。
●日本~韓国
・大阪~釜山(サンスターライン)
・下関~釜山(関釜・釜関フェリー)
・博多~釜山(カメリアライン)
・博多~釜山(JR九州高速船・未来高速)※
・比田勝・厳原(対馬)~釜山(サンスターライン・未来高速)※
●日本~中国
・大阪・神戸~上海(日中国際フェリー)
かつては、
・稚内~コルサコフ(ロシア・サハリン州)
・名古屋~大阪~那覇~宮古~石垣~基隆・高雄(台湾)
という航路もあったが、いずれも現在は休止している。
日本からフェリー貨客船で行ける外国は韓国と中国に限られている。さらに中国渡航には査証(ビザ)取得が原則義務付けられており、気軽に利用できるのは釜山航路だけと考えたほうがいい。しかも格安航空会社(LCC)の登場で、いまや船での海外渡航は飛行機よりも
・値段が高い
・時間がかかる
・船酔いに悩まされる(人もいる)
という、あまり“ありがたくないイメージ”が定着しているように思われる。
そんな海外への船旅だが、飛行機では味わえない魅力に満ちあふれている。ここでは、筆者(カナマルトモヨシ、航海作家)が大阪から釜山まで乗船した
「パンスタードリーム」(サンスターライン)
での経験をもとに、その魅惑の旅を紹介したい。
国際航路の“アウェー感”
飛行機の旅は、羽田や関空などの国際空港から飛び立ち、目的地の空港に下り立って
「初めて異国を感じる」
ものだ。しかし船旅は違う。道頓堀でコテコテの大阪に触れたあと、地下鉄でコスモスクエア駅(住之江区)へ行き大阪国際フェリーターミナルへ。
館内に一歩足を踏み入れると、そこは韓国語が飛び交い、
「何を詰めているのかわからない段ボール箱」
がいくつも積み上げられている。ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)や通天閣などでみんなが知っている大阪はみじんもない。乗り場からしてもうそこは韓国。空港にはない“アウェー感”にめまいを覚える人も多いに違いない。
この圧倒的なアウェー感は、乗船後さらに強まる。乗組員は韓国などすべて外国籍で、日本人の接客スタッフは見当たらない。これは韓国船籍のパンスタードリームだけではなく、
・下関航路の日本船籍「はまゆう」
・博多航路の同「ニューかめりあ」
でも同じこと。例外はJR九州高速船の「クイーンビートル」で、日本人の客室乗務員がいる。これは国際航路ではレアケースで、クイーンビートルはどちらかというと飛行機旅の感覚にかなり近い。
韓国の香り漂う日本の海景
話を元に戻すと、日本語を話すスタッフがいるため、コミュニケーションで苦労することはない。ただ、船内ショップがまるで韓国のコンビニエンスストアのような品ぞろえで、出港前からハングル文字の洪水の洗礼を浴びることになる。また、船内に漂う香りに、
「すでに現地に着いてしまった錯覚」
に襲われるはず。さらに、レストランメニューがほぼ韓国料理である。筆者の乗船時は夕朝食ともにビュッフェスタイルだったが、釜山に上陸する前に
「いろいろな意味でおなかいっぱい」
となる。ここで気づくだろう。パンスタードリームは“海に浮かぶ韓国”なのだ、と。
しかしアウェー感満載の船だからこそ、
「飛行機ではまず得られない旅のだいご味」
というものがある。大阪を出港したパンスタードリームは間もなく右手に神戸の街と六甲の山並みを望み、明石海峡大橋をくぐる。淡路島が後方に過ぎ、やがて小豆島のたそがれ、そして高松の夜景を見ているうちに、瀬戸大橋の下を通過する。
いずれもまぎれもなく瀬戸内海で展開する風景。出国審査を終え、身は日本を出てしまったのに、まるで関西から九州に向かうフェリーの上にいるようだ。しかし船内はバリバリのコリアンワールド。
「船内は韓国・景色は日本」
という不思議なパラレルワールド感覚にどっぷり浸ることができる。
翌朝、目覚めると左手に対馬の島影が見える。「なんだ、まだ日本か」と思っていたら、間もなく釜山の高層ビル群が水平線の向こうにバーンと出現する。
「日本と韓国ってこんなに近いのか」
ということを肌で感じられるのも、この航路の魅力だ。
3国航路の魅力
ところで、2024年8月3日から国際航路が新たに加わった。厳密にいえば「復活」。それは
「境港(鳥取県)~東海(トンヘ、韓国)~ウラジオストク(ロシア)」
を結ぶものである。以前、この航路には韓国の船会社DBSクルーズフェリーの「イースタンドリーム」(かつて鹿児島と那覇を結んでいたマリックスライン「2代目・クイーンコーラル」)が就航していた。筆者も5年前(2019年6月)に境港から乗船したことがある。
その乗船直後、輸出管理をめぐる対立や元徴用工問題などで日韓関係が悪化。乗客の大多数を占めていた韓国人乗客が激減し、2019年11月に運航を休止。さらに2020年からのコロナ禍で、同年4月に廃業に追い込まれた。しかし、
・コロナ禍の収束
・日韓関係の修復
で航路復活の動きが促進され、韓国のトゥウォン商船がイースタンドリームを再利用するかたちで、5年ぶりの就航が実現した。
この航路が他と違うのは3か国にまたがること。5年前の筆者は境港~東海のみの乗船だったが、他の日本人乗客(10人くらい)はすべてウラジオストクまで乗船し、その大半がシベリア鉄道でモスクワに向かい、そこから欧州行き列車へと乗り継ぐユーラシア大陸横断目的の旅人であった。そしてウラジオストク行きの乗客も韓国での一時下船が可能で、普通の旅ではほぼ訪れる機会のない東海という町を歩くことができた。
新造船続々登場、フェリーの進化
ロシア軍のウクライナ侵攻という国際情勢下で、外務省がロシア全域に渡航中止勧告(レベル3)を継続する現在、ロシア行きのハードルは極めて高い。しかし、かなりユニークな航路である。
そして、欧州と1本のレールでつながるウラジオストク駅舎を見ながらの入港シーンには、ロシアという国というよりも
「ユーラシアという巨大な大陸」
に近づいていく壮大なスケール感がある。
ウラジオ航路の復活以外にも2024年から2025年にかけて日本発フェリー国際航路にはトピックがめじろ押しだ。
大阪・神戸~上海航路には新造船「鑑真號」が就航。旅客の運航は上海港のターミナル改修が完了する9月に再開する予定だ。新船では個室が増え、乗客のプライバシー重視。
・ロビー
・レストラン
・ラウンジ
・バー・ダンスホール
・多目的ホール
・ジム
・ゲームコーナー
・マージャン室
・キッズルーム
なども備える。
先述の大阪~釜山航路ではパンスタードリームに代わって、2025年春から新造船「パンスターミラクル」が登場する。客室の多くにバルコニーを設け、デッキには屋外プールやジェットバス、屋台なども設けたクルーズフェリーで、従来船よりもかなりグレードの高いものとなる。
これまでの国際フェリーは、船はかなり古いが、飛行機では得られない特別体験ができる
「希少性」
という魅力がふんだんに詰まっていた。しかしパンスターミラクルのようなクルーズフェリーの登場は、海外への
「船旅そのもの」
を優雅に楽しめる時代の到来を告げるものだ。
石垣~基隆航路復活、17年ぶりの再開
そしてもうひとつ、国際航路が復活する可能性がある。
2025年、石垣(沖縄県)~基隆(台湾)に国際定期フェリー航路が開設されるかもしれないのだ。しかも就航予定の船は、いま大阪~釜山航路に就航しているパンスタードリームだという。
先述のように、かつて名古屋~大阪~那覇~宮古~石垣~台湾を結ぶ国内および国際航路が存在した。ここで有村産業が
・クルーズフェリー飛龍
・クルーズフェリー飛龍21
の2隻を運航していたが、2008(平成20)年6月に運航停止。以来、日本と台湾どころか沖縄本島と宮古・石垣を結ぶ航路も途絶した。
筆者は2006年に大阪から台湾まで4泊(!)かけてクルーズフェリー飛龍21に乗船したことがある。石垣までは
・本土から南の島を目指す観光客
・島々を往来する島民
であふれる国内離島航路だった。
ところが石垣での一時下船を利用して、竹富島に行って船に戻ってきたら、様子は一変していた。乗客のほとんどが台湾の人となり、日本語がほとんど聞かれない世界へと。船内で出国手続きを済ませ、石垣を出港したとたんに自動販売機のビールが免税のため激安(100円)になったのもビックリした。
魅惑のトロピカル航路が17年ぶりによみがえろうとしている。残念ながら那覇~石垣航路は失われたままなので、以前のような石垣での魔訶不思議な体験はできない。が、海から基隆の街に近づいていくという経験は、飛行機では味わえない瞬間だろう。
これからの船旅は国際航路が面白い。
08/25 21:31
Merkmal