自動車用「空気清浄機」が注目されている根本理由 市場規模は2500億円、賛否両論のワケとは

2024年空気清浄機市場、17億ドル超え

プラズマクラスターイオン発生機「IG-HCF15-B」(画像:シャープ)

プラズマクラスターイオン発生機「IG-HCF15-B」(画像:シャープ)

 近年、多くの自動車メーカーが標準装備として空気清浄機能を搭載したモデルを発表しており、特に高級車にこの傾向が顕著だ。例えば、最新の車両モデルでは、エアコンシステムと連動してナノイー技術やイオン発生機能を活用し、自動的に空気質を管理する空気浄化システムが導入されている。

 自動車用空気清浄機とは、車内の空気を清浄化するために設計されたデバイスのことだ。乗車中に発生するホコリ、花粉、微細な粒子、タバコの煙、悪臭などを除去する役割を持っている。空気清浄機にはフィルターやイオン生成技術など、いくつかの種類があり、車内の空気質を向上させることを目的としている。

 最近では、外付けタイプの空気清浄機が多く発売されており、スマートフォンと連携して使用状況を確認できる機種も増えて、利便性が向上している。

 このような状況を裏付けるデータもある。インドの調査会社フォーチュン・ビジネス・インサイトによれば、2024年の世界の自動車用空気清浄機市場の規模は

「17億2000万ドル(約2537億円)」

で、2032年までに64億ドルに達すると予測されている。また、年間平均成長率(CAGR)は17.8%と見込まれており、消費者の健康意識の高まりや空気汚染の増加、自動車メーカーの取り組みがこの成長を後押ししている。

 しかし、その効果については賛否がわかれている。本稿では、その理由について紹介する。

花粉対策で快適ドライブ実現

車載ナノイー発生機「F-C100U-K」(画像:パナソニック)

車載ナノイー発生機「F-C100U-K」(画像:パナソニック)

 自動車用空気清浄機が支持される理由のひとつは、健康を守りつつ車内の空気を改善できる点だ。現代社会では、車内で過ごす時間が増えており、車内の空気を清潔に保つことが重要視されている。

 特にアレルギーを持つ人々にとって、空気清浄機は非常に有用だ。花粉やホコリが多い時期には、車内に持ち込まれるアレルゲンを効果的に除去することで、快適なドライブが可能になる。

 また、アレルギーやぜんそくを持つ人、免疫力が低い高齢者や子どもにとっても、清潔な車内環境は重要だ。高性能なフィルターが花粉や微小粒子状物質(PM2.5)を除去し、健康リスクを軽減できる。

 さらに、進化したフィルター技術により、臭いや揮発性有機化合物(VOC)を取り除き、新鮮な空気を提供する。これにより、長時間のドライブや家族旅行中も快適な車内環境を維持できる。多くのドライバーや同乗者にとって、リラックスできる安全な環境を提供している。

 実例として、ボルボ・カーズは2022年5月に最新の空気清浄化技術を導入し、車内の空気質を向上させる取り組みを行った。特に90シリーズおよび60シリーズの新型車に搭載された「アドバンスト・エア・クリーナー」は、アレルギー基準協会(ASL)から、流入する空気から花粉アレルゲンを最大99.9%除去できると認定されている。

 また、PM2.5センサーを搭載し、車内のPM2.5濃度を測定する機能もあり、車内の空気質を改善し、健康への悪影響を減らせる。さらに、センターディスプレーには屋外の花粉や大気質のレベルを示すライブデータが表示され、ドライバーは車内の空気浄化の必要性を判断できる。

 ボルボ・カーズは、空気清浄技術を定期的にテストし進化させることで、より快適で健康的な運転体験を提供し、競争力を高めることを目指している。ほかの自動車メーカーでも同様の取り組みが進んでおり、自動車用空気清浄機は快適な車内空間を提供する重要な要素となりつつある。

コストと効果に揺れる消費者心理

空気清浄機「LEAF Portable (MP-C30)」(画像:cado)

空気清浄機「LEAF Portable (MP-C30)」(画像:cado)

 では、反対派の意見にはどのようなものがあるのだろうか。

 まず、多くのユーザーは自動車用空気清浄機の効果に疑問を持っている。特に、小型の空気清浄機が車内の空気を十分に清浄化できるのかについて懐疑的な声が多い。これらの製品がどの程度の粒子を除去できるのか、明確なデータが少ないことも、効果に対する不信感を生んでいる要因だ。

 また、コストパフォーマンスに対しても批判がある。空気清浄機自体の価格だけでなく、フィルターの交換やメンテナンスにかかる費用が長期的な負担となる可能性がある。消費者がその費用に見合う価値を感じられるかが不透明であり、一部の人は非効率だと感じている。

 さらに、メンテナンスの手間も反対理由のひとつだ。定期的なフィルター交換や清掃が必要だが、車内という限られたスペースでこれらの作業を行うのは簡単ではない。忙しい日常のなかでメンテナンスを手間と感じる人も多く、継続的な使用が難しいと考える人も少なくない。

 最近では、高機能な空気清浄機や新技術を搭載したモデルは本体価格が1万円を超えることもあり、初めて購入する人にとっては「手が出しづらい」という要因も関係しているかもしれない。

高性能化の可能性

車載用空気清浄機「Blueair Cabin(ブルーエア キャビン)」(画像:セールス・オンデマンド)

車載用空気清浄機「Blueair Cabin(ブルーエア キャビン)」(画像:セールス・オンデマンド)

 自動車用空気清浄機には賛否があるが、今後いくつかの重要な進化が期待されている。

 まず、現在のフィルターやイオン生成技術に加えて、さらに高度なセンサー技術が導入されることで、車内の空気質をリアルタイムで監視し、自動で清浄機能を調整するシステムが主流になると考えられている。これにより、乗車中の環境変化に応じた細やかな対応が可能になる。

 次に、スマート連携機能の向上も見込まれている。すでに一部のモデルではスマートフォンと連携が進んでいるが、今後はさらに高度なIoT技術が導入され、車両のほかのシステムや家庭内のデバイスとも連携が可能になることで、乗車前から空気質をコントロールできるようになるだろう。

 また、近年のパンデミック(世界的大流行)を受けて、ウイルスの除去機能がより重視されるようになり、より安全で清潔な車内環境を実現する空気清浄機が登場する可能性がある。

 さらに、環境意識の高まりにともない、空気清浄機自体が持続可能な素材で作られたり、エネルギー消費を抑えた設計が期待されている。これにより、環境への負荷を減らしつつ、効果的な空気清浄が実現できるだろう。

 このような進化を経て、自動車用空気清浄機は今後も高性能化し、車内の快適性と安全性の向上に寄与していくと考えられる。健康を守り、快適な車内環境を提供するこの技術が、より多くのドライバーに支持される未来が期待できる。

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