「軽トラ = 農業」というイメージを打破し、「一般車」として普及させるにはどうすればよいか?

軽トラの利用実態

ハイゼットトラック(画像:ダイハツ)

ハイゼットトラック(画像:ダイハツ)

 軽トラック(軽トラ)は働く車の象徴といえるが、一般乗用車としての普及は進んでいない。本稿は、自動車会社のマーケティング担当になったような気持ちで、軽トラを一般的な乗用車として普及させるために必要なことをまとめ、その可能性と普及に関する具体的な計画を示す。

 まず、軽トラはどのような存在なのか。農林水産業や建設業など日本のあらゆる産業を下支えする役割を担っている。これを裏付けるデータとして、日本自動車工業会(JAMA)が2024年4月に公表した「2023年度軽自動車の使用実態調査」で、軽トラの利用実態を知ることができた。この調査では、次のような使用実態が明らかとなった。

●機能面
・マニュアルが7割
・四輪駆動は6割

●ユーザー層
・男女比率の9割は男性
・世代別は60代以上が7割、30代以下は1割未満

●業種別
・農業が3割、以下、卸・小売業(14%)、建設業(8%)、サービス業他(7%)

 購入動機は、軽トラからの買い替えが9割を占め、「前の車が古くなったため」が7割を超えている。平均車両価格は年々上昇し、2023年度調査では138万円だが、コストパフォーマンスの高さが一定数の需要を支えている。ユーザーが軽トラを選択する理由を

・経済面
・使用面

に分けたところ、使用面が9割で、実用的な理由から購入していることが分かった。特に多かった回答は、

・狭い道に入っていける
・運転がしやすい
・仕事に必要
・荷物の積み下ろしがしやすい

などで、移動に便利で気軽に乗れるといった点が、軽トラを購入している理由のようだ。それでは、軽トラがあらゆる産業を下支えするという実用面からいったん離れて、もっとおしゃれに、

「街乗りでも楽しめる存在」

になり得るのか、考えてみよう。

「軽トラ = 農業」という固定概念

エヌラボ T880コンセプトモデル(画像:ホンダ)

エヌラボ T880コンセプトモデル(画像:ホンダ)

 一般消費者が軽トラを選ばない理由を考えてみると、軽トラに対する「固定概念」が大きいことが挙げられる。

「軽トラ = 農業」

というイメージが定着し、街乗りに適さないと考える一般消費者が多いことは容易に想像できる。しかし、一般乗用車として軽トラは、

・多用途性(キャンプ、アウトドア、趣味用途など)
・都市部での駐車のしやすさや取り回しの良さ
・コストパフォーマンスの優位性

などのメリットが挙げられるだろう。

 固定概念から脱却して、どのようにしたら一般乗用車として普及させられるかを考えてみると、まず外観デザインを一新すべきだと考える。筆者が選ぶ「デザインに優れた軽トラ」3台を紹介する。

ネックは「乗員人数」

スズキ・スーパーキャリーXリミテッド(画像:スズキ)

スズキ・スーパーキャリーXリミテッド(画像:スズキ)

 まず1台めは、ホンダが東京オートサロン2017に出品した「エヌラボ T880」だ。「働く車はカッコいい」をコンセプトに、アクティトラックをベースにした軽トラコンセプトモデルだったが、残念ながら市販化はされなかった。その後に同社は、アクティの生産を2021年4月に終了し、軽トラ市場から撤退した。

 2台めは、2023年に開催されたジャパンモビリティショー2023でダイハツが出品した、軽トラコンセプト「ユニフォームトラック」である。ミニマムなデザインで、軽トラの未来像を予感させるモデルだった。

 最後に、スズキが販売中のスーパーキャリー・Xリミテッドを紹介する。ボディカラーにメタリックカラーを設定し、特別装備オプションもあり、街乗りにふさわしいグレードを提供している。

 このような外観デザインの一新だけでなく、シート改良などインテリアデザインの改善に加え、

「快適装備(エアコン、カーナビなど)」

の充実も必要となるだろう。しかしながら、一番のネックとなるのは乗員人数である。現在はふたりまで乗車が可能だが、

「荷台を省スペース化」

するなどして、乗員人数を増やす工夫が求められる。このように既定概念を覆すデザインの軽トラを売り出し、多様化するライフスタイルに合わせたプロモーションを通じて、若年層や都市部住民へ訴求をしていけば、ヒットを生み出せるのではないか。さらに、

・税制優遇や補助金の導入
・都市部での駐車場優遇措置

などを整備し、インセンティブを与えることで、軽トラの普及はさらに進むものと思われる。

「カスタムカー」という手段

「軽テン」(画像:スズキ)

「軽テン」(画像:スズキ)

 軽トラのプロモーション施策の成功事例として挙げられるのは、

「軽トラ市」

である。2005(平成17)年に岩手県雫石(しずくいし)町で発祥して全国に広がった地方創生や地域活性化のイベントだ。軽トラの荷台を店舗に見立てて、食料品、衣類、雑貨などの商品を販売する。

 軽トラを販売する自動車業界も同市を全国に広めるための支援をしている。JAMAは、公式ウェブサイトで

「全国軽トラ市情報」

を掲載し、各地の開催予定を確認することができる。スズキは、軽トラを移動販売車に早変わりさせるテント一式「軽テン」を販売する。

 軽トラ市が全国各地で開催されて地域活性化に貢献していることは喜ばしいが、販売される農産物から、

「軽トラ = 農業」

のイメージから脱却できない。そこから脱却するには、都市部でも、街乗り車のイメージが軽トラに定着しなければならない。その一端を担うのは、近年増加しつつある軽トラの

「カスタムカー」

である。トヨタ・ハイエースなど商用バンをカスタマイズして街乗りしているカスタムカーが増えているが、軽トラでも同様のムーブメントを期待したい。

普及の四条件

 日本の自動車市場の約4割を占める軽自動車は、スーパーハイトワゴンの人気上昇もあり、市場は確実に伸長している。

 2023年度の軽トラ販売実績は14万台余りで、軽乗用車の販売実績の1割程度にすぎないが、軽トラが一般乗用車として普及していけば、新たな市場や産業が創出され、軽乗用車市場のさらなる発展が期待できる。

 本稿の結びとして、軽トラが一般乗用車として普及するための筆者からの提言を整理すると、

・街乗りに適したデザインの一新(外観/内装)
・乗員人数の増加
・カスタマイズの促進
・軽トラの固定概念を覆すプロモーション施策

などとなる。

 軽トラの一般乗用車としての可能性と普及に期待し、本稿を未来の軽トラ社会に向けたメッセージとしたい。

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