N-BOX首位陥落の原因は、間違っても「シンプル路線の失敗」ではない

失速の「最大原因」

ホンダ・N-BOX(画像:本田技研工業)

ホンダ・N-BOX(画像:本田技研工業)

 筆者(小城建三、自動車アナリスト)は先日、当媒体に「軽自動車の王者「N-BOX」に何が起きた? 販売ランキングでついに「首位陥落」、その納得理由とは」(2024年6月17日)という記事を書き、ヤフートピックスに選ばれ、多くの反響を得た。

 N-BOXの首位陥落については、その後もネット上でさまざまな論評が飛び交っているが、今回はそれに対する反論として、N-BOX失速の「最大原因」について述べてみたい。

N-BOX失速への論評

N-BOX CUSTOM ターボ(FF)インテリアカラーはブラック。ディーラーオプション装着車(画像:ホンダ)

N-BOX CUSTOM ターボ(FF)インテリアカラーはブラック。ディーラーオプション装着車(画像:ホンダ)

 N-BOXは2023年10月に3代目としてモデルチェンジしたが、その後の販売推移は芳しくない。ある論評では3代目N-BOX失速の理由として次の3点を挙げている。

 第一に、デザイン戦略がシンプルすぎるとして、キープコンセプトのどこが変わったのかわかりにくい、フロントマスクが地味といった点だ。特に、ワイルドさを前面に押し出したはずのN-BOX CUSTOMは、メッキ部分の少ないすっきりとしたデザインで、地味な印象を与えた。

 次に挙げられたのがインテリアがおしゃれという点だ。インテリアもすっきりした印象で、収納スペースも隠されているが、利便性はどうかといった点である。

 また、目に見える質感向上がほとんどない点も挙げられており、ホンダがこだわる走りの質感、乗り心地、静粛性などは向上しているものの、装備が格段に充実しているスペーシアに軍配が上がったとしている。

 このような論評を目にしたが、消費者の立場からすると本当にそうなのだろうか。消費者は本当にそんなことを考えているのか。この疑問を改めて検証してみた。

価格差が示す真実

スペーシアのマルチユースフラップ(画像:スズキ)

スペーシアのマルチユースフラップ(画像:スズキ)

 筆者の記事のN-BOXやスペーシアのユーザー層や購入検討者の意見をまとめると、次のような意見が目立っていた。

・N-BOXは値上がりしたが、質感は低下した。
・N-BOXには露骨なコスト削減が散見される。
・N-BOXはオプション込みで300万円と高すぎる。
・スペーシアはユーザーの利便性を考えた装備が充実している。
・スペーシアは王者N-BOXに本気で挑み、結果を出した。

これらのコメントを見る限り、N-BOX失速の最大原因はスペーシアのコストパフォーマンスに屈したことであり、5月単月とはいえスペーシアが首位に躍り出たことは納得できる結果である。その最大の理由は、論評で書かれていたような、シンプルな外観でもすっきりした内装でもない。

 コストパフォーマンスに関連して、両モデルの車両本体価格を比較してみると、次のようになる。

●スペーシア
・Gグレード(2WD):153万0100円~
・Xグレード(4WD):182万4900円~
・カスタム(GS)(2WD):180万1800円~
・カスタム(XSターボ)(4WD):219万3400円~

●N-BOX
・N-BOX(2WD):164万8900円~
・N-BOXファッションスタイル(4WD):188万1100円~
・N-BOXカスタム(2WD):184万9100円~
・N-BOXカスタムターボ(4WD):218万2400円~

スペーシアのGグレード(2WD)は最安値でN-BOXより10万円以上安値だが、その他のグレードではあまり差が見られない。両モデルのグレード設定によって装備は異なるので単純な比較はできないが、同じ価格帯でもスペーシアは装備が充実しているというユーザーの声が多く、コストパフォーマンスが高いことを証明している。

ダイハツ離れの実態

Xターボ(画像:ダイハツ)

Xターボ(画像:ダイハツ)

 先の論評では、業販店はダイハツからスズキに重点を移したといったようなことも書いている。ダイハツが不正認定発覚で生産・販売停止を余儀なくされるなか、各メーカーの軽自動車の業販店が潜在的なダイハツ購入希望者をスズキの軽自動車(特にスペーシア)に誘導していたという指摘だ。しかし、本当にそうだろうか。

 一般的に、ユーザーが業販店から勧められるままに軽自動車を購入するとは考えにくい。買い替え需要がダイハツからスズキに流れたことは、両社の販売台数の推移を見ても明らかである。しかし、スズキにシフトした要因のひとつに、度重なる認証不正問題による「ダイハツ離れ」の可能性がある。

 国土交通省は4月19日、ムーヴキャンバスなどダイハツ3車種の出荷停止を解除し、不正発覚前に生産していた27モデルの国内出荷を可能にした。今後の販売動向で、市場で「ダイハツ離れ」が起きているかどうかを検証する必要がある。

 2024年5月のタントの販売台数は6174台だった。前年同月は1万1000台を超え、販売が好調な月は1万5000台を超えている。今後、タントの販売台数がどこまで戻るかは、「ダイハツ離れ」を検証するひとつの指標となる。

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