中国EVが欧州市場を席巻する? 新興勢力「ジーカー」「シャオペン」の野望、EU追加関税検討も、立ちはだかる中国“報復リスク”のジレンマ

NY株式市場に上場、ジーカーの素性

ジーカー「001」(画像:ジーカー)

ジーカー「001」(画像:ジーカー)

 中国製電気自動車(EV)といえば、BYDやNio(ニオ)あるいはファーウェイやシャオミを思い浮かべる人が多いだろう。そんななか、最近になって欧米のマスコミで度々注目を浴びているメーカーがある。それは、Zeekr(ジーカー)とXpeng(シャオペン)だ。

 ジーカーは、中国の吉利汽車が手がける高級EVブランドで、5月10日にニューヨーク株式市場に上場したことで知られることとなった。ニューヨーク株式市場への上場では、新規公開価格21ドルに対し、28.26ドルと35%近く上回った。上場以降は、一時的に30ドルを上回ったものの、緩やかに下がり続けており、5月末の終値は25.20ドルとなっている。

 ジーカーがニューヨーク株式市場に上場した背景には、

「中国国内の熾烈(しれつ)なEV販売競争」

があり、海外での収益を強化するねらいがある。とはいえ現時点においては、米国国内ではグーグルの持ち株会社であるアルファベット傘下のウェイモと自動運転サービス用の試作車の開発に止まっている。欧州では、2013年にスウェーデンに開発拠点を設立していたものの、2023年後半に欧州市場(スウェーデン、オランダ)に上陸したばかりである。

 欧州で販売されている車種は、シューティングブレークタイプの001のみだ。とはいえ、洗練された美しいデザインは、他の中国製EVとは一線を画している。低価格モデルで、

・航続距離:620km
・価格:6万970ユーロ(約1000万円)

であり、競合すると見られるテスラのモデルYより高めである。ジーカーの安最高経営責任者(CEO)は、

「吉利汽車は新エネルギー車時代のフォルクスワーゲングループ」

になる目標を掲げているが、第一歩を踏み出したところだろう。

ドイツで販売を開始するシャオペン

シャオペン「G9」(画像:シャオペン)

シャオペン「G9」(画像:シャオペン)

 中国の新興EVメーカーのシャオペンも、2024年5月からドイツ国内においてEVの販売を開始した。シャオペンは、ニオ、Li Auto(リ・オート)とともに新興EVメーカーの御三家と目されている。シャオペンは、北欧やオランダなど一部の国で販売していたが、本格的に欧州で販売活動を行う。

 最初に投入する車種は、セダンのP7、スポーツタイプ多目的車(SUV)のG9だ。

 P7は、低価格モデルで航続距離576km、価格4万9600ユーロ(約840万円)。ライバルはテスラのモデル3(中間モデル)航続距離629km、価格4万9990ユーロ(約850万円)や、BYD SEAL航続距離570km、価格5万990ユーロ(約870万円)と見られる。

 G9は、低価格モデルで航続距離460km、価格5万7600ユーロ(約980万円)。ライバルは、メルセデス EQE SUV航続距離628km、価格8万3478ユーロ(約1400万円)、ニオ EL6航続距離406km、価格6万5500ユーロ(約1100万円)と見られている。

 一部の報道によると、シャオペンは、2024年末までに20か所、2025年で80か所、2026年末には120か所の拠点を整備し、2025年には小型SUVを、2026年には小型クロスオーバーを投入する計画がある。

 今後、モデルや価格帯によっては、欧州市場において中国のEVメーカー同士が激戦を繰り広げる土壌が整いつつあるといえよう。

欧州メーカーとの深い関係

欧州の街並み(画像:写真AC)

欧州の街並み(画像:写真AC)

 ジーカー・シャオペンいずれも、欧州の自動車メーカーにとって脅威であるが、実は深い関係があり純粋にライバルといってよいのかどうか難しい。

 ジーカーの親会社である吉利汽車の創業者・李書福氏は、2018年からメルセデス・ベンツの主要株主だ。2024年3月末現在で9.69%の株式を所有しており、吉利汽車とメルセデス・ベンツは、ハイブリッドガソリンエンジンの開発を発表している。過去には、両社はコンパクトカーのスマートブランドの合弁会社を設立していた。

 シャオペンは、フォルクスワーゲンと密接に関係している。フォルクスワーゲンは、2023年7月にシャオペンの株式を4.99%取得すると発表。シャオペンのSUV G9をベースに、中国で販売するフォルクスワーゲンブランドEVを共同開発中である。

 フォルクスワーゲンは、中国のEVメーカーとのパートナーシップは、

「中国戦略の基本で、EVラインアップを拡充させると同時に、次のイノベーションに備える」

としているが、一方で足元の欧州市場を中国のEVメーカーに荒らされるリスクも残る。

ハイブリッド優勢の欧州市場

欧州の電源別新車登録台数(画像:欧州自動車工業会)

欧州の電源別新車登録台数(画像:欧州自動車工業会)

 ジーカーやシャオペンの欧州上陸はまだ始まったばかりであり、価格面では中国勢が優位とされているが、成功するかどうかは未知数だ。

 欧州自動車工業会(ACEA)のデータによると、2024年第1四半期の自動車登録台数が対前年4.4%増加、うちEV販売台数は33万2999台と対前年3.8%増加し、新車全体に占める割合は13%だった。一方、ハイブリッド車(HV)は、80万1315台と対前年19.7%も増加し、新車全体に占める割合も2023年の24.4%から29%へ大幅に増加している。

 現時点における欧州市場は、EV販売が堅調に推移しているものの、HVのほうがはるかに売れている。ここしばらくは、HVが優勢な状況が続くと思われるため、EVだけで勝負するならばその先の

「未来の種まき」

と割り切る必要があるかもしれない。また、EUは今週中にも、中国製EVに追加関税を課すかどうかを決定する見込みだ。その税率次第では中国製EVが欧州のEV市場に参入するハードルが一気に高くなる可能性もある。

 ただ中国製EVへの関税に関しては、中国で事業を展開している欧州の自動車メーカーが、

「現地で安く作って輸入するビジネスモデル」

が成り立たなくなることや中国政府の報復に戦々恐々としているのはいうまでもない。専門家のなかには、

「中国との報復合戦リスクを考慮すると、中国製EVに関税をかけるのは慎重にならなければならない」

との意見もあり、どのような形で決着するのか気になるところだ。ジーカーやシャオペンといった新興勢力は、政治状況によっては欧州市場で予想以上に苦戦する可能性がゼロではない。

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