JR芸備線の存廃問題! 「鉄道の役割を終えた」はそもそも本当か? 実態から浮かぶ“利用したくてもできないダイヤ”という存在

営業係数の深刻な現実

超閑散区間の東城駅で発車を待つ新見行。筆者撮影(画像:櫛田泉)

超閑散区間の東城駅で発車を待つ新見行。筆者撮影(画像:櫛田泉)

 JR西日本の赤字路線30区間の公表で、2021年度の“営業係数ワーストワン”を含む区間があるとして注目が集まっている芸備線――。

 山陽本線の広島駅(広島県広島市)と伯備線の備中神代駅(岡山県新見市)を結ぶ159.1kmの路線だ。このうち備後落合(広島県庄原市)~東城(広島県庄原市)間25.8kmの営業係数は23687、つまり100円の売り上げを上げるのに2万3687円の経費がかかり、輸送密度はわずか13人と公表されている。

 JR西日本は、この区間を含む備後庄原~備中神代間68.5kmについて、改正地域交通活性化再生法に基づく再構築協議を申請し、2024年3月26日に第1回の芸備線再構築協議会が開催された。その存廃の行方に注目が集まっている。

赤字額は大きくない備後落合~東城間

岡山県新見市の備中神代駅(画像:OpenStreetMap)

岡山県新見市の備中神代駅(画像:OpenStreetMap)

 芸備線については、その輸送密度の低さと営業係数の大きさから備後落合~東城間が

「天文学的な赤字を出している」

という印象を持っている読者も多いと、筆者(櫛田泉、経済ジャーナリスト)は思う。しかし、2023年11月にJR西日本が公開した線区別経営状況によると実は芸備線で赤字の絶対額が大きいのは広島側の下深川~三次間の13.8億円に対して、東城~備後落合間は

「2億円程度」

でしかない。そもそも国鉄分割民営化によって1987(昭和62)年に発足したJR各社は、JR会社法に基づく「大臣指針」を順守し、

「国鉄改革の実施後の輸送需要の動向その他の新たな事情の変化を踏まえて現に営業する路線の適切な維持に努める」

ことを前提としている。経営環境の恵まれたJR西日本を含む本州3社については、大都市圏や新幹線で安定した収益を確保できることを担保として、内部補助によって全路線の維持を図れるように制度設計され発足した会社である。

 JR西日本はコロナ禍となった2021年3月期の連結決算で2455億円の営業赤字を計上し赤字転落し、2022年3月期でも1191億円の営業赤字を計上したが、2023年3月期では840億円の営業黒字を計上し業績は回復。直近の2024年3月期では1797億円の営業黒字となり、業績はほぼ回復している。

 JR西日本が2023年11月に赤字30区間の2020年度から2022年度までの3年間の年平均の赤字額は237億円と発表しているが、すでにJR西日本はこの赤字額を賄っても

「1797億円余りの営業利益を計上できる」

ほどに業績は回復している。

使いたくても使えない芸備線の列車ダイヤ

東城駅舎。筆者撮影(画像:櫛田泉)

東城駅舎。筆者撮影(画像:櫛田泉)

 特に三次から先の備中神代までの区間についてダイヤが不便で

「訪ねてくる人だけではなく、地元の人でさえ利用したくても利用できない状態となっている」

という地元関係者からの指摘もある。広島県庄原市の中心駅である備後庄原駅から広島駅に向かおうとした場合、芸備線では三次行が

・平日:7本
・休日:5本

の列車が設定されているが、三次駅で広島行に乗り継ぐ必要があり、所要時間は2時間~2時間半程度かかる。9時57分発の三次行が出発した次は15時28分まで列車の運行がなく、日中の時間帯については5時間半も運行間隔が空いている。

 広島駅から備後庄原駅に向かう場合についてはさらに不便で、三次駅から備後庄原方面に向かう6時54分発の備後落合行に広島駅からの始発列車は接続しておらず、始発列車に接続する7時47分発の備後庄原行は休日運休となっている。

 この次の列車は広島駅を11時2分に発車し三次駅に12時24分に到着する快速三次ライナーに接続する13時発の備後落合行まで待たなければならず、広島方面から休日に芸備線に乗って備後庄原に行くには利用しづらいダイヤとなっている。この列車に乗ると備後庄原駅に到着するのは13時35分となり所要時間はおよそ2時間半だ。

 一方で、備後庄原駅と広島駅を結ぶ高速バスについては1時間間隔で運行されており、所要時間は2時間10分。利便性の上では高速バスのほうが鉄道よりも圧倒的に勝っていることから、芸備線は利用したくても利用しづらい実態だ。

 さらに、庄原市東城町(旧比婆郡東城町)の中心地区にある東城駅についても同様だ。東城地区については、7000人弱の人口集積があり大型スーパーや24時間営業のコンビニエンスストアが複数件立地している。さらに、さらに東城地区には

・日東粉化工業(大阪市)
・竹原化学工業(兵庫県明石市)
・積水樹脂(大阪市、東証プライム)

などの工場が立地しているほか、大阪府吹田市と山口県下関市を結ぶ中国自動車道の東城インターも置かれている。

 しかし、芸備線を利用して庄原市の中心地区である備後庄原駅に向かおうとすれば、東城駅から乗車できる列車は5時45分発の備後落合行と13時35分発の備後落合行しかなく、最終列車となる18時57分発の備後落合行については、備後落合駅でその先の列車の接続がない。さらに、東城~備後庄原間の所要時間は1時間40~50分を要する。

 一方のバス路線は、備後庄原駅まで1日4本の設定があり所要時間は36分。さらに広島駅までを結ぶ高速バスも1本の設定があり、こちらの所要時間は2時間48分となっている。

 芸備線がここまで時間がかかる理由については、

・遠回りのルートを取っていること
・速度規制

の問題がある。中国自動車道と国道23号線が東城と庄原を直線的に向かうルートを取っているのに対して、芸備線は道後山を経由する北に大きく迂回するルートを取っていること。さらに、線路の保守費を抑えるために鉄橋やトンネルなどのいたる所に25km/hの速度規制がかけられており、高速走行することができないことが大きな理由である。

 JR西日本は保守費を抑えることで速度や運行頻度といった鉄道の強みを失ってでも閑散線区の維持を図ってきた姿勢をみることができるが、その一方で、鉄道の強みを低下させたという面では地域住民や観光客が利用したくても利用できない状況となっている現状から利用面では負のスパイラル状態とみることもできる。

「利用者いないから廃止」という短絡さ

芸備線の車窓風景。中国自動車道が並行している。筆者撮影(画像:櫛田泉)

芸備線の車窓風景。中国自動車道が並行している。筆者撮影(画像:櫛田泉)

 芸備線の閑散区間については、現在は鉄道と比較してもバスのほうが利便性の高い状態ではあるが、それでも鉄道があることによって一定の来訪者を芸備線に引き付けているにもまた事実である。筆者は3月下旬の週末に岡山県側の備中神代駅から芸備線に乗車したが、1両編成のディーゼルカーには立ち席客がでるほどの乗客で混雑していた。

 また、昨今、表面化しているバスドライバー不足問題から地域の公共交通の持続可能性の面では疑問符が付く。警察庁が公開する2023年版の運転免許統計によると、路線バスを運転できる大型2種免許の年代別保有者比率は50代以上が84.3%を占め、これからを担う30代以下の保有者はわずか

「4.2%」

にとどまっている。前年版では50代以上が84.2%だったことから1.1ポイント増加したことになり、バスドライバーの高齢化問題は年々深刻化の一途をたどっている。

 2024年3月26日に開催された芸備線再構築協議会では、JR側の「大量輸送という鉄道としての特性を発揮できていない」という主張と、自治体側の「鉄道は地域に欠かせない」という主張が対立する形となった。しかし、地域住民や観光客が利用したくても利用できない状態に利便性を低下させておきながら

「鉄道としての特性を発揮できていない」

とするのはいかがなものだろうか。地域への観光振興の切り口で考えた場合には、鉄道を生かしたほうが成果を出しやすいことも事実である。福島県の只見線のケースでは、会津川口~只見間を上下分離の上で、福島県が只見線を日本一の地方創生路線とすることを目標に掲げ、さまざまな取り組みを行ったところ同区間の輸送密度が100人未満にもかかわらず、年間の鉄道維持費約5.5億円に対して、福島県内への観光や商工業の経済波及効果が鉄道の年間維持費を上回る約6.1億円であったことが公表されている。

 この経済波及効果の数値には含まれてはいないが、県外の観光客が只見線に乗りに行くためには、当然JRの新幹線などを利用することから、JR側にとっても新幹線などへの新たな潜在需要を開拓でき増収に寄与できる話でもあり、これは芸備線に置き換えて考えても、観光路線化により伯備線の特急列車や山陽新幹線の

「潜在需要の開拓」

に直結する話である。芸備線の再構築協議に当たって必要なことは、輸送密度の極端に少ない線区だけを切り出して費用負担の話を押し付けあうことではなく、地域経済の活性化と在来線特急や新幹線などJRの既存路線の潜在需要の開拓に結び付けるために、鉄道ネットワーク全体を生かすという視点で芸備線をどのように前向きな形で活用していくのかという建設的な議論なのではないだろうか。

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